クラゲの不思議 | 木下英範のブログ

クラゲの不思議

クラゲはプランクトン

クラゲはプランクトンに分類されます。プランクトンは一般に顕微鏡で見るような小さい生物のことだと思われていますが、プランクトンの定義は「遊泳能力を全く持たないか、あるいは遊泳能力があっても水流に逆らう力が軽微であったり比較的小型の生物であるため結果的に漂うことになる生物」(Wikipedia)ですので、ほとんど遊泳能力を持たないクラゲ類はすべてプランクトンなのです。

クラゲの種類

一口でクラゲと言ってもいろいろな種類があります。 クラゲは主に「刺すクラゲ(刺胞動物門)」と「刺さないクラゲ(有櫛動物門)」に分類されます。 さらにその中で体の形によって細かく分かれます。ではそれぞれの例を見ていきましょう。

【刺すクラゲ(刺胞動物門)】  
 刺胞とは毒針を発射できる細胞のことです。刺胞動物門のクラゲはすべて針を持っていて獲物や外敵を攻撃します。 

・まるい傘のやつ(鉢クラゲ類)
 代表:ミズクラゲ
木下英範のブログ-ミズクラゲ  
水族館でおなじみ、白くてお椀型で四つ目を持ったあいつです。白くて半透明なので照明に当てるととてもきれいです。傘のふちにある白い点は眼です。日本近海で最もよく見られるクラゲで、隅田川の河口付近にもたくさんいます。一応、触っても大丈夫。 

・箱型のやつ(立方クラゲ類)
 代表;アンドンクラゲ
木下英範のブログ-アンドンクラゲ 
こいつは港にいることが多いですね。行燈みたいな凧みたいな形。ちっこくて3cmくらいです。が、触手は20cmくらいあります。網膜もついた高性能な眼を持っています。触ると刺すので注意。

・変な形のやつ(ヒドロクラゲ類)
 代表:カツオノエボシ
カツオノエボシ 
こいつは砂浜に打ち上げられているところを見ることが多い。青い空気の入ったビニールみたいなあれ。刺されると非常に痛いので危険です。触ってはいけません。

【刺さないクラゲ(有櫛動物門)】
 刺胞は持っていません。体は透明で、体の表面に櫛(くし)状に繊毛を持っていてそれで泳ぎます。

・ネオンみたいなやつ(クシクラゲ類)
 代表:ウリクラゲ
ウリクラゲ
虹色に輝くクシ(繊毛)が美しいクラゲ。水族館では繊毛による光の干渉そのメカニズムに思いを寄せてうっとりと見入ってしまいますね。

いろいろなクラゲ

・アカクラゲ
水族館で人気のきれいなクラゲ。傘から放射状に伸びた赤い縞模様が特徴。細くて長い美しい触手を持ちます。うまく育てると触手はとても長くなるので、触手の長さによって水族館の力量がわかります。
アカクラゲ 

・タコクラゲ
元気に泳ぐ丸くてかわいいクラゲ。褐色の傘に白い水玉模様があります。体が褐色なのは褐虫藻という光合成をする生物を体内に住まわせているから。褐虫藻とは共生関係にあり外敵から守る代わりにエネルギーをもらっています。
タコクラゲ 

・サカサクラゲ
逆さになって水底に沈んでいたり、壁にくっついている不思議なクラゲ。進化上イソギンチャクとクラゲの中間なのかもしれません。サカサクラゲも褐虫藻を持ってるので光合成でエネルギーを作ることができます。
サカサクラゲ 

・エチゼンクラゲ
最大のクラゲ。傘の直径2m、重さ150キロにもなります。拍動は雄大で貫禄があります。黄海から日本海に渡ってきて漁網にかかり漁業被害をもたらします。
エチゼンクラゲ 

・ヘンゲクラゲ
体が柔軟でいろいろな形に変化できる面白いクラゲ。
ヘンゲクラゲ 

・ギンカクラゲ
上から見ると銀貨のような美しいクラゲ。水面に浮いて滑走します。
ギンカクラゲ 

・ハナガサクラゲ
派手!電飾がついたようなクラゲ。
ハナガサクラゲ 

・オワンクラゲ
触ると青白く発行します。生化学実験の分野で非常に有用な緑色蛍光タンパク質(GFP)を持つ。オワンクラゲを研究した下村脩博士にノーベル化学賞をもたらしました。
オワンクラゲ 

クラゲの一生

クラゲの一生は種類によって異なりますが、だいたい下記のようなライフサイクルを持っています。
・海中に放出された精子と卵子が受精
・受精卵からゾウリムシ形状のプラヌラ幼生が生まれる
・プラヌラ幼生が岩場に着底し、イソギンチャク形状のポリプとなる
・ポリプから小さなクラゲ体であるエフィラが複数離脱
・エフィラは海中を泳ぎながらプランクトンを捕食し、クラゲへと成長
※立法クラゲ類にはエフィラはありません。ポリプがそのまま泳ぎだし、クラゲになります。 ヒドロクラゲ類はポリプが複数に分裂し群体を作ります。

クラゲの生活史 
クラゲの生活史(技術評論社「クラゲのふしぎ」より)

いったいクラゲが主体なのか、ポリプが主体なのか。不思議な生体ですね。クラゲ体は植物でいえば「花」なのではないかと思っています。有性生殖をおこなうために放たれた遠隔装置なのではないでしょうか。

ベニクラゲは不老不死(若返る)

ヒドロクラゲ類のベニクラゲは不老不死で有名です。ベニクラゲには寿命がありません。何回でも若返って生き続けることができます。有性生物で不死が発見されているのは今のところベニクラゲだけです。成熟したベニクラゲが損傷や環境ストレスを受けると海底に沈みます。全体が解けて肉の塊になり、キチン質で体を覆い、海底に付着します。やがて根と茎が伸びて、ポリプへと戻り、そこからまたベニクラゲが生まれてきます。こうして自分一人で子供から大人へ、また子供へと繰り返し(永遠に?)生きることができるのです。

一方で、ベニクラゲは有性生殖をして受精卵から子供を作ることもします。ベニクラゲは体の一部分だけ若返ることができません。生殖をつかさどる口柄(こうへい)だけは若返ることができないのです。若返る前に口柄は切り離されます。これは生殖部分とその他の部分を分化させることで不老不死を獲得したと言えるでしょう。

もともと無性生物である単細胞生物は寿命がありません。性は進化における環境適応のために獲得されました。そして性の獲得と寿命は密接に結びついています。生殖後のDNAはもうコピーを残したのだから生き残る(不死である)必要がないからです。寿命は性を獲得したことによる代償と言えるでしょう。しかしベニクラゲは進化の過程でいったんは寿命を持っていたものと思われます。それがまた不老不死を獲得したのは新たな退化と言えるのではないでしょうか。だからこそ注目されているのでしょう。

ベニクラゲ 
ベニクラゲ

クラゲの刺す仕組み

クラゲの大きな特徴と言えば毒針で刺すことです。クラゲの触手には刺胞細胞と呼ばれる毒針を納めた細胞が密集しています。刺胞細胞にはセンサーとなる刺がついていて、センサーに何かが触れると矢じりのようなものを突き出す仕組みになっています。その間わずか0.7マイクロ秒、時速に換算すると134kmほどのスピードになります。矢じりで対象の皮膚に穴を空けた後は、矢じりが割れて中からストローが飛び出します。ストローはあまりにも細く長いのでどんどん皮膚細胞の奥に侵入します。そしてストローの所々に空いた穴から毒液が注入されます。ここまでで0.3秒ほどしかかかりません。すばらしい武器です。

世界で最も毒の強いクラゲはオーストラリアのキロネックスで、毒を一万倍に薄めてもマウスは数秒以内に死にます。人間が刺された場合は15分で死亡します。生物最強の毒といってもいいでしょう。日本では沖縄に住むハブクラゲが最も危険で、死亡例も多数あります。しかし実は毒性の強さはミズクラゲのほうが上なのです。でもミズクラゲは触ってもほとんど何も感じません。なぜなのでしょうか。これは刺胞のストローの長さによるのです。ハブクラゲはストローが長いから毒がよく効くのです。ミズクラゲの刺胞では人間の皮膚の奥には侵入できません。ですからクラゲの危険性は毒性だけでは計れません。刺胞の性能や数といった総合評価で判断しなければなりません。

毒の弱いクラゲでも2回刺された場合は「アナフィラキシーショック」を起こすことがあります。これは1回目に刺されたときにできた抗体が2回目に刺されたときに過剰反応を起こし、じんましんやショック状態を引き起こします。水族館の人は掃除のときにミズクラゲの水槽に入るが、唇を刺されてヒリヒリすると言っていました。とにかくクラゲには触らない方が身のためでしょう。

アンドンクラゲ刺胞発射の瞬間
クラゲに刺されたら

クラゲに刺されてしまった場合はどうすればいいでしょうか。クラゲによって毒の種類が違うので一概には言えません共通で有効なのは下記です。

①刺された場所を確認し、触手が着いていたら取り除く。このとき素手で触らずに、ピンセットかティッシュを使用し、決して擦らずそっと取る。
②海水をかける
③冷やす
※ハブクラゲの場合は酢をかける

日本沿海で危険なクラゲ

・ハブクラゲ  
沖縄沿海で6~9月に発生。強力な針を持ち、刺されると死亡することがある。傘の直径15cm、触手1.5m。

・カツオノエボシ  
青いビニールのような気泡体で浮遊するヒドロ虫の仲間。刺されると電気ショックのような強い痛み。毒は呼吸中枢に作用するため呼吸が止まる危険がある。気泡体は10cm、触手は10mに達する。

・アンドンクラゲ  
6~9月に発生。刺されると強い痛み。傘の大きさ3cm、触手20cm。 

世界で最も長い動物はクラゲ

シロナガスクジラは30mですが、それを超える世界最大の長さをもつクラゲがいます。「クダクラゲ」で、体長は40mにもなります。厳密にはクダクラゲはヒドロ虫の仲間で、たくさんのヒドロ虫がくっつき分業しながら暮らしている群体生物です。
クダクラゲ 
クダクラゲ

なぜクラゲの触手は絡まらないのか

長くて絡まりそうに見えても実は絡まりづらいのです。ソーメンを水の中でかき混ぜても絡まらないように。長い触手をもつタイプは触手が切れやすくなっていて、絡まっても切れて、また再生します。

クラゲの拍動

クラゲの伸びたり縮んだり脈打つような拍動はなんのためにあるのでしょうか。泳ぐためと思っていた方、3分の1くらい正解です。実は泳ぐためというより、クラゲの拍動は呼吸(ガス交換)と体液循環のためにあるのです。クラゲには心臓も肺もありません。体内物質を循環させるには全身で動き続けなければならないのです。まさに全身が心臓、クラゲの拍動は太古の心臓の姿とも言えます。生命の歴史の中で、クラゲのリズムは我々の心臓のリズムとどこかでつながっていて、だから見ていると不思議な安堵感を覚えるのかもしれませんね。

後記

クラゲについて調べようと思ったのですが、クラゲの生態について詳しく書かれた一般文献はほぼ、参考文献で記した「クラゲのふしぎ」のみです。後は水族館で聞いた話と、ネットで散見できる情報、自分なりの分析を織り交ぜました。逆にいうとまだこれだけしかクラゲに関してわかっていないし、研究が進んでいないということなのでしょう。

<参考文献>
「クラゲのふしぎ」(ジェーフィッシュ)
すみだ水族館

刺胞 - Wikipedia