「遅いインターネット」というわけではないですが、今年3月にアルバム『Chilombo』をリリースしたジェネイ・アイコ(Jhené Aiko)のインタビューをまとめてみます。聞き手はHOT 97のパーソナリティーとしても知られるイーブロ(Ebro)です。

 

 

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『Chilombo』の由来

今作『Chilombo』のタイトルはジェネイの本名=ジェネイ・アイコ・イフル・チロンボ(Jhené Aiko Efuru Chilombo)から取ったもの。この苗字にまつわる、以下のエピソードがあるそうだ。

 

私の父は20代前半で名前を変えたの。彼は今76歳とかなんだけど、モハメド・アリ(Muhammad Ali)とかカリーム・アブドゥル=ジャバー(Kareem Abdul-Jabbar)が出生名から改名していたような時代で、父も自分の出生名に繋がりを見出せなくて、変えたみたい。

 

発音しにくいし、どんな意味があるの?って訊かれたりして、私は「知らない。お父さんが変えたの」って言うだけで少し恥ずかしかったけど、歳をとって自分で調べて、アフリカの言葉で「野獣」や「モンスター」の意味があることを知った。大人の女性になるにつれて、それを気に入るようになったんだ。パワフルな側面をエンブレイスすることは何も悪いことじゃないって。

 

そんな「野獣」一族の一人として、アイコは今作で様々な感情を吐露している。「Triggered」では怒り、ビッグ・ショーン(Big Sean)との「None Of Your Concern」では失望と悲しみといった具合に、ネガティブで不安定な様子が窺えるが、アルバムのトーンは次第に穏やかさを増し、タイ・ダラ・サイン(Ty Dolla $ign)との最終曲「Party For Me」で祝福の時を迎える。ただ、これは一連のストーリーとして意図したものではないのだと、その32歳は語る。

 

これは線形の完成されたストーリーではないの。例えば映画には起承転結があるけど、本当の人生はそういうものではないでしょ? 起伏があって、どちらに進むか分からない。このアルバムの流れもそんな感じ。私は怒りを引き起こされて、相手を恋しく思って、セックスをして、自分自身を癒して、ヨリを戻して…それは全部、本物の感情。(中略)何もわざとは作ってないの。リアルな生の感情を曲にした。

 

抱えていた悩み

明け透けに自らの感情を歌い上げたアルバムを象徴するかのように、同作のカバー・アートはそのLAのシンガーの顔を大写しにしたものだが、考えてみれば過去作のアートワークで彼女の顔がこれだけアップで写されていたことはなかった。その背景には、意外な悩みがあったそうだ。

 

小さい頃から自尊心の問題を抱えていて、自分の顔が全然好きじゃなかった。自分の顔を写真で見るのも嫌だったし、動画撮影も写真撮影も嫌いで、ほとんど身体醜形障害を抱えていたと思う。自分自身が歪んで見えるの。でも今はもう違う。

 

最も美しいアーティストの一人であるジェネイが外見に関する悩みを抱えていたなんて、とイーブロは驚きを口にするが、「朝スッピンで見たら考えが変わると思うよ」と彼女は謙遜する。

 

ラッパー2人とのコラボレーション

ナズ(Nas)を招いたストレートなラブ・ソング=「10k Hours」は、ジェネイにとって新境地ともいえるものだ。彼が作品に参加した経緯について、彼女はこう語る。

 

全曲の収録が済んでいて、客演なしでもいいかなって思ってたんだけど、コラボレートすることでコミュニティ感を出したいって思うようになって。「10k Hours」も完成していたんだけど、ビートがなんとなくナズっぽいなと思って(連絡を取った)。彼がレコーディングに来てくれて、曲について彼に話したら、ブースに入ってカマしてくれた。「オーマイガー、レジェンダリーなナズがそこに居て、ナズっぽいヴァースを録ってくれてるなんて」って思った(笑)。

 

また、互いの作品でしばしば共演してきたアブ・ソウル(Ab-Soul)については次のように話す。

 

私がラップだけをするラッパーだったら、たぶんアブ・ソウルみたいな感じ。彼はお気に入りのラッパーの一人なの。考え方も近いし。彼が送ってきてくれたヴァースを最初に聴いた時、リリックを覚えちゃって、次に聴く時には一言一句違わずラップしてた。

 

『Chilombo』には彼ら以外にもショーン、H.E.R.、フューチャー(Future)、ミゲル(Miguel)、アイコの父=ドクター・チル(Dr. Chill)、ジョン・レジェンド(John Legend)、Ty$の計9名が客演している。

 

サウンド・ヒーリングの妙

9トラック目の「Define Me」を機にサウンドボウルの音色が前面に押し出されるようになる今作。その制作過程はどのようなものだったのだろうか。

 

ずっとサウンド・ヒーリングを勉強してたの。私の周りのミュージシャンたちは私よりも音楽についてよく知っているから、私はサウンド・ヒーリングについて勉強して、本を持っていって「この音が身体のこの部分に響くって知ってた?」とか彼らに言って、みんなを巻き込んだ。制作していると「これはタイトだ! 808の音がこうで…」なんて話してたんだけど、そこで私が「待って。私が持ってるアイディアとビジョンに沿って制作して、聴いてる人が感じられるリアルな音を持ち込もう」って言ったの。808やドラム・マシーンもいいんだけど、それらはオーガニックな音とは違って、誰かが本当にドラムを演奏しているのを聴くのと同じようには感じられないから。私と共に彼らも学んだ。「Define Me」は最後に作ったんだけど、私が手彫りの長方形の小さいドラムを叩いた。

 

そもそも、そのような音を自らの楽曲に取り入れたきっかけは?

 

みんな「あなたの音楽を聴くとよく眠れる」とか「心が落ち着く」とか「キツい時を乗り越えられる」って言ってくれるけど、私は自分のために音楽を作ってる。私が経験していることを乗り越えるため、私が感じていることを表現するためにね。それで、なんで人々が私の音楽を聴いてくれるのかって考えたときに、サウンド・ヒーリングが細胞レベルで実際に人を癒すものだからだって気づいたの。そういう考えをまとめて、私が音楽をやるのは自分だけじゃなくて他人のためでもあるっていう結論に行き着いた。ボウルの音を取り入れるのは私のやるべきことだって。

 

「自分のためであり、他人のためでもある」—この姿勢は先行曲「Triggered」にも「Born Tired」にも現れている。前者は別れた恋人を激しく謗るようなラインが印象的な一曲だが、その言葉は自らにも向けられたものなのだそうだ。後者は「疲れても大丈夫」と自身に言い聞かせるとともに、聴く者をも包容する。

 

 

作品ごとに〈自分自身〉になっている感覚があると、ジェネイは語る。彼女が奏でるサウンドボウルの音色と歌声に癒されつつ、さらに〈自分自身〉になった彼女の作品を待ちたい。