昨日でキックボクシングを始めてちょうど12年。ジムワーク中にマスクを着用しなければならないのが嫌でジムには半年以上行っていないけれど、そろそろこのフニャフニャになったスネでサンドバッグを蹴りたいなぁと思う今日この頃。本当に、蹴り慣れていないとスネって軟らかくなっちゃうし、その状態でサンドバッグを蹴ると痛いんです。カッチカチに硬くなったスネはキックボクサーの努力の証!

 

 

 

 

僕が格闘技を始めたのは、同年代の多くの人がきっとそうであるようにK-1がきっかけだ。フジテレビ系列のK-1ヘビー級の試合中継では、オープニングにプリンス(Prince)の「Endorphinmachine」、エンディングに同じくプリンスの「Gold」が使われていた。K-1をテレビで観始めたのは1999年12月のヘビー級グランプリ決勝トーナメントからだから、どちらももうかれこれ出会ってから20年以上経つ曲ということになる。普段好んで聴いているヒップホップやR&Bの楽曲のほぼ全てよりもこれらの曲のほうを長く知っていると考えると、少し不思議な気分にもなる。

 

 

 

 

「マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)とプリンスだったらどちら派?」という、あまりにもベタな質問を自分自身に投げかけるとしたら、現時点の僕はマイケルと答える。単純にこれまで親しんできた時間の差が理由だが、そこに差が生じたのは、プリンスに対して自分が「いつか時間を取って気合を入れて聴かなければ」と身構えすぎてきたからだと思う。例えばマイケルの『Off The Wall』(1979年)を流しながらだったら、僕はひとり部屋の中で踊ることだってできるし、その片手にはワイングラスがあるかもしれない。でも、プリンスは少し違う。(片手にワイングラスがあるのは同じかもしれないけれど)少なくとも一聴目はGeniusか何かとにらめっこしながらになるだろう。そんなこともあって、プリンスとは正直、あまり距離を縮められないままここまで来てしまったのだ。

 

 

 

 

この秋の夜長に、ふと思い立って「Gold」を聴き直してみた。美しいシンセのラインにずっと好印象を抱いていたこの曲の歌詞に、僕は昨夜まで向き合ったことがなかった。アルバムを通して聴いたわけではないので、同曲を聴き終わろうかという頃にNew Power Generationの一員に認定されたのは唐突だったけれども、胸を打つラインはいくつもあった。

 

 

Everybody wants to sell what's already been sold
Everybody wants to tell what's already been told
What's the use of money if you ain't gonna break the mold?
Even at the center of fire, there is cold

誰もがすでに売られているものを売りたがる

誰もがすでに伝えられたことを伝えたがる

型を破らないなら お金に何の意味がある?

炎の中心にだって冷たい部分がある

 

 

主催会社=FEGの財政難で静かに終焉を迎えてしまった旧K-1は、いろいろと問題を抱えていたけれど、自分が人生において好きだっただけでなく恩を感じているものの一つだ。そこから生まれたスター=魔裟斗に憧れてキックボクシングを始め、ジムで出会ったヒップホップにのめり込んで今の自分があることは、上掲の記事をはじめ拙ブログで何度か触れてきたとおりである。競技を問わず世界中の立ち技格闘技のチャンピオンたちを集めて誰が本当に一番強いのか競わせるというコンセプトは、シンプルながら誰も踏み入れたことのなかった領域であり、「売られているものを売りたがる」の対極ともいえる。キックボクシングの頂点といえばラジャダムナンかルンピニーのベルトというのが共通認識であった当時、独自の方法で自らをプロモートしK-1 WORLD MAXのチャンピオンになった魔裟斗は、誰も伝えたことのないストーリーを伝えてみせた。そんなK-1のエンディングに「Gold」が使われることになった経緯を僕は知らない(し、そもそもMAXはTBS系列での放送だったため「Gold」は使われていない)けれども、もしかかる文脈を踏まえて選曲されたのだとしたら、そのフジテレビの選曲担当と会って話してみたくなるというものだ。

 

 

There's an ocean of despair
There are people livin' there
They're unhappy each and every day
But hell is not fashion so whatcha tryin' to say?

絶望の海があって

そこに住んでいる人々がいる

彼らは来る日も来る日も不幸せ

でも 誰も好んでやってない なら 何て言う?

 

 

思うところがあって、9月の後半はよく昔のK-1の試合をYouTubeで探して観ていた。映像を見て「この頃の日本はお金があったんだなぁ」と思わされることがしばしばあった。単なる懐古なのかもしれないし、見えている範囲が今と昔とは違うので単純に比較はできないが、「絶望の海」に住んでいる人の割合は増えたのではないかと体感することもある。そこから抜け出すのに何よりも必要なのは「勇気」であり、プリンスは生涯を通じて自らの身体でそれを教えてくれていたのかもしれないと、下掲の記事を読んで思う。

 

 

 

 

音楽は時に思わぬシチュエーションで人に刺さる。自分にとっては、20年以上前に出会った「Gold」をこうして聴き直している今がそうだ。「前例に囚われない」だとか「道なき道を歩む」だとか、これまで何度耳にしたか分からない概念めいたものの尊さが、プリンスの曲を通じて、K-1の思い出や上掲のブログ記事が触媒となって、自分にスッと入ってくるのを感じる。

 

輝くものすべてが黄金じゃない。黄金じゃないなら、黄金じゃないなりの光り方を見つければいい。

 

 

 

 

※文中敬称略

 

 

 

 

告知

リーズン(REASON)のアルバム『New Beginnings』より、「Slow Down」の歌詞対訳・解説を、洋楽ラップを10倍楽しむマガジンさんに寄稿しております!

 

 

リーズンの新作、かなりよかったので、どこかでまとまった文章を書きたいなぁと考えているところです。まずは上掲の記事をお読みいただければと思います!