5-6月は読書をサボり気味だったのですが、復活しました!
 
復帰第1弾はケンドリック本です。ブログのタイトルに入りきりませんでしたが、The Butterfly Effect: How Kendrick Lamar Ignited the Soul of Black Americaです。
 
 

 

 
僕も含めてケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)のファンにとっては既知の内容も多く書かれている本でしたが、それでも大きく以下の2点で面白かったので、簡単に書きます。
 
 

K・ドット少年が稀代のラッパーになるまで

興味深かった点の1つ目は彼の生い立ちに関する記述です。バンガード・ラーニング・センター(Vanguard Learning Center)が少年期のケンドリックにとって重要な学び舎であったことは、VICEさんのインタビューでも語られているとおりですが、幼なじみのJeezyが語る言葉をもとに、以下のように生々しく綴られていた箇所は僕の興味を引きました。
 
ハード・ワークに屈するような人間ではないケンドリックは、先生からのチャレンジを、自らを高めるためのモチベーションとした。彼はただやり過ごすのでなく、ベストになりたかったのだ。《中略》家でポエトリーの宿題をやり忘れれば、彼は学校に早く着いてそれに取り組んだ。ケンドリックは言葉を綴ることに夢中になり、他の授業の宿題もそっちのけでノートにラップのリリックを書き殴った。
 
ケンドリックが自らの幼少期について語るのを聞く機会こそ多くあれど、それが他人の口から語られるのを聞ける機会はそう多くないでしょう。それだけに貴重な資料だと感じました。
 
あとは、ケンドリックのTDE入りにサウンウェイヴ(Sounwave)が重要な役割を果たした話(←これはRolling Stoneに書かれていたのでマニアな方ならご存知かもしれません)や、ケンドリックとジェイ・ロック(Jay Rock)の地元がビーフをしていたために初期は気まずかった話など、初めて知ったこともありました。直近のインタビューなどでは語られないような内容が前半に集中しているので、その部分だけでも読む価値はあるかもしれません。
 
 

ケンドリック・ラマーのワーク・エシック

上述のエピソードからも分かるとおり、ケンドリックは少年時代から、自らの技量を高めることに余念がありませんでした。それは「キング」となっても変わらず、『DAMN.』リリース直前には制作陣がスタジオに寝泊まりし、食べ物を買いに行くことさえ憚られる雰囲気だったのだそうです(これも初めて知るエピソードだなと思ったら、普通にThe FADERの記事にありました。けっこう見逃してる記事多いかも…)。自分がここまでやれるかといえば別の話ですが、何かを得るには何かを犠牲にしなければならないという、普遍的な真理を我々に思い出させてくれるエピソードですね。
 
また、本著の序盤に出てくる南アフリカでのエピソードも示唆的です。同じ日にパフォームするアーティストの中で、ケンドリックのみがステージから桟橋状に伸びるランウェイを使い、他のアーティストにはそれを使うことを許さなかったという話。現地のアーティストたちにビジネスの知恵を授ける意図があったと整理されていますが、僕にとっては『魔裟斗1997-2009 永久保存版―GONG KAKUTOGI Books』における茂田浩司さんの巻頭エッセイを思い起こさせるものでもありました。
 
 魔裟斗は断固たる口調で言った。
「オレ一人ならサインします。だけど他のヤツと一緒ならしないですよ」
 02年2月に行なわれた第1回Kー1WORLD MAX日本代表決定トーナメント。その出場選手発表会見の際、ゴング格闘技編集部から「読者プレゼント用に出場全選手のサインを貰ってきてほしい」と新品のキックパンツを渡された。
 会見が終わり、最初に魔裟斗を呼び止めてサインをお願いすると魔裟斗の答えは「自分一人なら」。予想外の反応に困惑し、機転を利かせることが出来なかった。編集部からの要請は「全員」なので何とか、と重ねてお願いしたが、魔裟斗は首を振り、さっと背を向けて会見場の奥に消えた。
 
そういえば、リッチ・ザ・キッド「New Freezer」客演にあたり「自分一人なら」という条件を出したのもケンドリックでしたね。頂点に立つ人間には相応のしたたかさが必要なのかもしれません。
 
 
最後に、マックルモア&ライアン・ルイス(Macklemore & Ryan Lewis)に関する記述は少し意地悪に感じましたが、どうなんでしょう? 2014年のグラミーで彼らの代わりにケンドリックが受賞すべきだったと感じるファンは、僕含めたくさんいると思いますが、マックルモアのあのテキストを含めた立ち回りは“やりすぎ”でありこそすれ、本質的に責められるべき性質のものではないと思うのですが…現地の方(特に黒人)含め、他の方の意見も聞いてみたいところですね。