アイドルマスター ビューティフルドリーマー 修正版1 | アルキデスの宇宙世紀論

アルキデスの宇宙世紀論

ガンダム最高・アイマス最高

ツイッターのほうでガンダム・アイマスに関してよくつぶやいています。そちらのほうが更新頻度が高いと思われます。

ツイッター:EXolone

「みなさん、夢ってありますか?私もあります!私の夢は…」


暑い日差しが差し込む真夏、事務所の周りにアイドル達がいた。ただ、いつもの様子ではない。荒れ狂い、荒廃した大都会の真ん中で各々が好き勝手なことをして遊んでいた。ある者は動物と駆け回り、ある者は音楽を楽しみながら日光浴をしている。昼寝をしている者…はいつもの通りか。たるき亭の前には大きな湖、というよりは大規模な水たまりが広がっており、そこで水無瀬の倉庫からとってきた水上バイクを楽しむ者もいた。そんな様子を呆け顏で眺めているのは765プロのプロデューサーであった。真横を素通りする戦車のキャタピラ音にも動じない。カァ、カァ・・・と一羽の鳥が鳴いた時、事務所から持って来た壁掛け時計が鈍い音をならした。いつの時間かもわからない時を知らせる重いチャイム。何度も繰り返し、繰り返し聞いたあの音。空気を振動させる単調な音が廃墟に響き渡った。

§1


律子「はい、そうです。ですから明日の8時には組み終わっていないと厳しいです。ええ、お願いします」
小鳥「お電話ありがとうございます、765プロです。いつもお世話になっております。はい、そちらの件につきましては明日会場にて発表を行う予定ですので…はい、申し訳ございません」
いつも忙しい事務所であったが今日は特に忙しかった。夜の11時を過ぎても電話が止むことはなく、律子と小鳥はその対応に追われていた。
小鳥「ふう…こう電話が続くと疲れるわぁ…」
律子「明日は待ちに待ったオールスターライブですからね、仕方ないですよ」
小鳥「そうだけれど、こう毎晩続くと流石に疲れますね。律子さん、コーヒー飲みます?」
律子「ありがとうございます、お願いします!」
キーボードから手を離し、グーっと立ち上がりながら律子は背伸びした。
律子「プロデューサーも大丈夫かしら…」


765プロはその目ざましい成長から急速に業績も伸び、事務所を移転したばかりであった。事務所と同じ建物に連絡路があり、そこから続く別棟には765プロ専用の合宿舎が用意されていた。 そこにはレッスン場はもちろんのこと、寝室やキッチン、洗濯場に風呂場など寝泊まりが可能な施設まで作られていた。この事務所に移転してからは、大きなライブの前には合宿を行い練習に打ち込むスタイルが出来上がっていた。
伊織「はぁ、そろそろ自分のベッドで休みたいわ」
真「もう何日も寝泊まりしているからね。僕も自分のお布団が恋しいなぁ」
響「でもこのお祭り感楽しいじゃないか!嫌いじゃないぞ自分は」
三人は各々洗面所で寝る前の準備をすまし、今日という一日を締めくくろうとしていた。
伊織「確かに楽しいところもあるのは否定できないわ。でもね、こう長かったら感覚狂っちゃうわ」
真「まぁ、明日からのライブが終わればまた日常なんだからさ、頑張ろうよ」
響「そうさー、これくらい簡単にこなして成功させるさー!」
伊織「ええ、もちろんよ。ぜーったい、伊織ちゃんの可愛さをファンのみんなに見せつけてやるんだから!」
真「でも、伊織も響もプロデューサーと一緒にいれて嬉しいくせに」
真はにやけ顔で二人を茶化した。
伊織「なっななな何を言ってるのよ…!!」
響「べ、別にそんなこと思ってないぞ!!」
真「へぇー…そんなんだったら、春香に先を越されちゃうかもよ?」
二人共、照れている表情に若干の敵意が差し込んだ。
「「春香に負けるものですか!」」
二人は声を揃えて廊下まで声を響かせた。


寝室は3人部屋になっており、それぞれ年頃の近い者同士で割り当てられていた。
千早「春香…?萩原さん、春香を見てないかしら」
千早は戸を開けて部屋を流し見した。
雪歩「春香ちゃん?まだ来てないよ。」
千早「そう…もう春香ったら、こんな時間なのに」
千早は春香の行動を予想してみた。あの春香のことだ、大方ライブのリーダーだということを気にして練習しているんだろう、と考えレッスン場へと向かった。扉から明かりが漏れているだけでなく、ラジカセ音も聞こえる。やっぱり、と軽くため息を漏らし千早はドアノブを回した。
千早「もうこんな時間よ、春香」
春香「千早ちゃん…えへへ、眠たくなくて…」
ニコッと疲れを感じさせない笑顔を春香は見せた。相変わらず、見ている人を虜にする笑顔だった。
千早「もう、春香ったら…アリーナライブなのにリーダーが倒れたりしたらどうするの」
春香「大丈夫だよ、平気平気!」
春香は一度やるといったら聞かないのを千早はよく知っていた。しかし、そのパワーで千早はこれまでに何度も助けられたのも事実だから、一方的に強くは言えなかった。
千早「もう…次の一曲で最後にするのよ」
春香「はーい!」

二人は浴場に来ていた。練習での汗を流すためであるが、改めてこの練習場は便利なものだと千早は思った。普段から生活しようと思えば出来ないこともない環境が、この改築後の765プロにはあった。
春香「ふぅ…あったまるなぁ…」
千早「そうね…」
二人の間に沈黙が訪れる。ほんの一瞬であったが不思議とその間は膨大な時間に感じられた。沈黙を破ったのは千早の声であった。
千早「春香、明日はついに本番ね」
春香「うん。何だが実感が湧かないなあ」
千早「割と物事って何でもそうよね。始まるまでが永遠みたいで、大変で…でも楽しくて」
春香「わかるなあ。いつかの海の旅行の時にも思ったけど、やっぱり私はみんなといる時が一番楽しいんだって、合宿のたびに思うんだ」
これまでも765プロでは度々合宿を行ってきた。みんなといった海への旅行。スクール生・・・今は一端のアイドルの子達と汗水流した夏の思い出。どれも楽しかった・・・。
春香「プロデューサーさんに千早ちゃんに、こうやってみんなと一緒に過ごせる今が一番幸せなのかなあって、思ったりして…なんだか言葉にすると恥ずかしいなあ」
千早「多分、それを思ってるのは春香だけじゃないわ」
ザブン、と音を立てて千早は浴槽から上がった。
千早「のぼせてしまうわ、上がりましょう、春香」
春香「そだね。上がろっか」
明日はついにライブ当日、これまでの成果が発揮される一日で、努力が報われる一日だ。「絶対に成功させる。胸張っていけ、天海春香!」とドライヤーで髪を乾かしながら春香は鏡の自分に向かって念じた。

そして、夜が明けた。


身支度を整え、手荷物バッグを抱え天海春香は廊下を走った。
春香「よーし!ついにライブ練習最終日!気合い入れるぞー!」
走り去る春香の後には、廊下の向こうへ消えていく足音だけが響いていた。どこか遠くで、いつもの鈍いチャイムが鳴り響いた。また一日が始まった。


§2


いつもと変わらない日常、それがこの場を支配していた。皆それぞれの仕事に励み、ライブのために練習に集まる日々が今日も変わらず続いていた。
美希「よし、これでバッチリなの!」
華麗なダンスと歌を披露し、美希は会場リハーサルをやり遂げた。相変わらずその完成度はトップアイドルのレベルをすでに感じさせるほどであった。
美希「はふ・・・疲れちゃったから一眠りするの・・・」
控え室に戻ると、一目散にソファへ向かおうとしたが足が止まってしまった。化粧台の前でぐったりしたやよいの姿があった。いつも元気にしているやよいが珍しく伏せていて寝ていたのだ。
美希「やよい、具合悪いの?」
やよい「あ、美希さん…。いえ、なんだかボーッとしちゃってて」
美希が声をかけるとやよいは顔を上げて返事をした。
美希「やよいもここ最近はずっと練習のために泊まり込みだから疲れててもおかしくないの。無理しちゃダメだよ?」
やよい「はい、ありがとうございます…」
歯切れの悪い言葉はやよいに似合わない。やよいは何か隠している。美希はやよいを見てそう感じた。
美希「やよい、何かあったのならミキに話してほしいの。ミキで良かったら、話聞くよ?」
やよい「美希さん…」
やよいは美希の方をじっと眺め、その胸中を明かした。
やよい「美希さん、最近私たち、ずっと練習をしてお泊りしてますよね…?」
美希「うん、ライブはもう目の前だからね。もしかして部屋のメンバーと…?」
やよい「違います!みんなとはお泊り楽しいなあって、いつも話してて…」
沈黙が空間に流れる。時計の針が時を刻み、10音を奏でた時、やよいは口を開いた。
やよい「私たち、ずっとずっと、ここで練習をしてませんか?何日とか、何週間とかじゃなくて、ずっとずっと…」
時にしてわずか2秒、美希は頭の中でその言葉の意味の解釈を探していた。練習がハードすぎて疲れたのか、それとも家が恋しいのか。いや、どれも違うと分かった。なぜなら、美希も今が合宿何日目なのかが分からなかったからだ。
美希「どういうことなの?」
やよい「私、見てしまったんです。昨日、練習が終わった後近所のスーパーで特売をしているのを思い出して、一度買ってうちに届けてから合宿所に戻ろうと思ったんです」
やよいは家族のためにいつも買い物役を勤めていた。やよいらしいと美希も感じた。
やよい「スーパーで買い物をして、お家に帰ろうと思ったんです。でも、いつも帰っている道が、まるで見当たらないんです。いつも使っている橋は消えちゃっているし、他の道も行き止まりで…」
やよいの顔がどんどん青ざめて行く。
やよい「それで、一番うちに近い歩道橋の上からからうちの方を眺めたんです。すると、そこに見えたのはボロボロの近所だったんです。汚れてるってことじゃなくて、何年も、何十年も経っているような…」
美希「そ、それって何かの見間違いじゃ…」
やよい「見間違いなはずありません!!私は見たんです!!」
真剣な目をしたやよいに大声で返され、美希はひるんでしまった。
やよい「…ごめんなさい。私、どうしたら良いか分からなくて」
美希もかける言葉を探していた。でも、想像の外側を行く話が飛んできて、美希も戸惑いの真っ只中である。
やよい「ねえ、美希さん。浦島太郎ってお話、ありますよね…」
美希「う、うん、亀に乗って竜宮城へ行っちゃう話だよね」
やよい「私たち、もしかしたらみんなで亀に乗っちゃったのかもしれません。みんなで龍宮城に来ちゃって、知ってる場所なんだけど全然違う場所で・・・。でも、帰れなくて、いつまでも、いつまでもここで生きていく…そして時間がどれだけたっても、そのことには気づかないんです…」
美希「やよい、何を急に言ってるの? き、気のせいなの!ぜーんぶ気のせいなの!ほら、やよいも疲れてるでしょ?今日はライブの前日で…!!」
頭でわかっても理解はしたくない。否定の言葉を投げかけたが、すぐにレスポンスが行われる。
やよい「でも、昨日も一昨日も、その前だってそう言ってました!!みんなみんな、明日がライブだって・・・」
やよいの慣れない怒鳴り声に、美希は怯んだ。
美希「…ごめん、ミキも本当は今やよいに言われて同じ事を感じちゃってた。認めたくなかったから、ごまかしてたの。何かおかしいなぁって。確かにミキ達いつから合宿していたんだっけ…わかんない…」
やよい「私たち、もう何日もお家に帰ってません。大丈夫だとは思うんですけれど、家族のみんなどうしてるかなあって、気になって」
ねぇ美希さん、と椅子から立ち上がったやよいは化粧台の鏡に手を当て口を開き何かを言いかけたとき時、扉が開けられた。
亜美「やよいっち→、次出番だよ→!」汗を流した亜美がタオル片手にやってきた。練習の順番が回ってきたようだった。
やよい「う、うん。今行くね!」
笑顔を取り繕ったやよいは美希を一瞥し部屋を去って行った。悲しい目が、そこにはあった。
ずっとずっと、という言葉が美希の中に響き、その余韻は彼女が部屋を去ったからこそ、より強まっていた。
亜美「ん?どうしたのミキミキ」
美希「ん、なんでもないの」
察しないで、と美希はごまかした。あり得ないことだ。しかし感覚としては分からなくない。所詮時間など相対的なもので、感覚を具体的な数量化などできるはずもない。美希は、そういう察しの良さが時に自分の身を滅ぼすことに、まだ気づいてはいなかった。

美希は控え室を飛び出し、プロデューサーの元へ向かった。
美希「ねえハニー、お願いがあるの」
P「どうしたんだ美希、改まって」
ちょっとこっちへ、と美希はプロデューサーを人気のない方へ連れてった。しかし、普段のように甘えてくるわけでもない。いつもは出会い頭に腕に抱きついたりする美希が妙におとなしい。
美希「あのね、今晩はみんなを家に返して方が良いと思うの。ずっとずっと泊まり込みでみんな疲れているの」
P「それはそうだけれど…何かあったか?」
美希はコクン、と頭を縦に振った。
美希「あのね、さっき控え室に行ったらやよいが机に頭を伏せて寝ていたの。ミキはいっつものことだけれど、やよいがだよ?心配になって聞いてみたら、体調ってよりお家のことが気になってって感じだったの…」
P「やよいが…」
美希「辛そう、だったの…」
プロデューサーはまた周りが見えていなかったことに悔しさを覚えた。アイドル達のことを見ているつもりになっていたと、胸中で自分を責めた。
美希「やよい、お家のこと心配していたの。もう何日も帰っていないって…」
P「何日?俺たち、ライブまでの3日だけ泊りだって。あれ…」
プロデューサーも確信を持って言い切れずにいた。本当に3日だけ泊りだったのか?もっともっと長い間いたのではないか。そんな気がする。
美希「ねえハニー、ミキ思うんだけれど…ミキ達、何日も何日もライブ
前日の今日を過ごしてないかな…」
P「そ、そんなことがある訳ないだろう!?」
美希「でも!でもそうとしか思えないの!今日って本当は何月何日なの!?明日がライブ本番だって、本当に言える?」
迫真に迫る美希の顔に演技の様子はなかった。
美希「やよいがね、言ってたの。私たちはみんなで浦島太郎になっちゃったんじゃないか?みんなで何日も、今日を繰り返してるんじゃないかって…」
戸惑いを隠せないプロデューサーであった。しかし、その奇妙な感覚は自分も感じていることではあった。
P「俺も、疲れているんだって思い込んでいたんだが…ここ最近、何度も何度もあるんだ。初めて見る光景なのに、何度も、何十回も経験しているかのような、そんな気分になるんだ…」
美希「デジャヴってやつだね…」
P「ああ、だがこんなこと起こるはずがないだろう。第一、何か異変があれば貴音あたりが気づきそうなものだ」
どうしても、ありえないことはありえないと言う大人の気性が現れてしまう。
美希「だから、なの。ここ街全体、世界全体をまるごと包んでしまっていたら…?」
P「貴音ごと、巻き込まれるってか…」
うーん、と目を伏せて考えるプロデューサーであったが、顔を上げた時の表情は決心をした目であったら。
P「わかった、今日は帰るように伝えておく。それで明日が無事訪れれば、俺たちの思い過ごしだったことになるよな?」
美希「うん、ありがとうなのハニー!流石はミキのハニーなの!」
美希はガッと腕に抱きついた。
P「こらこら、やめなさいって!」



春香「え!?帰宅…ですか?」
P「ああ、ライブ前の今日一日くらいはみんな家で体を休めるべきだからな。幸い遠方ではなく会場は事務所からも近い」
あずさ「そうね。最近ずっと泊り込みだったし」
響「自分も昨日餌やりには帰ったけど、やっぱり家族たちの様子が気になるさー」
雪歩「修学旅行みたいでちょっと楽しかったけどね」
真「でも、体を休めないとってのは納得ですね。わかりました」
皆、心の中では我が家の落ち着きを欲しがっていた。Pは解散を命じ、それぞれ荷物をまとめに部屋へ戻った。
春香「あ、あの…」
春香は戻らずにいた。煮え切らない表情から残った意味は理解できた。
P「どうした、春香」
春香「プロデューサーさん、私ここに残って練習してても良いですか?」
予想通りの言葉が返ってきた。
P「俺は今日もここに残るからそれは出来なくもないが…体を壊すなよ?」
千早「プロデューサー」
皆が去ったドアから千早も戻ってきた。
千早「私も残って良いですか?」
P「千早もか」
千早「私も家に帰っても1人ですし、なんだか春香を放っておけないから…」
もう千早ちゃんったら、と春香はつぶやくその隣で千早はPを見つめていた。その表情は不安を移していた。春香が心配だ、と語っていた。
P「わかった、千早には春香のサポートを頼むな」
千早「はい、今晩もよろしくお願いします」
二人は頭を下げ、自室に帰った。物音がなくなったその空間に人の気配はなくなったかに思えたがPには理解できた。
P「貴音、いるんだろう」
貴音「流石あなた様ですね。いつから?」
部屋の影から現れたのは四条貴音である
P「初めから分かってたさ。人の気配があったから貴音だろうと、な」
貴音「フフ、それでこそです。では、あなた様もお気づきに?」
P「美希のお陰でな。貴音はどう思う、この現象…」
さらりと銀の髪をかきあげ、貴音は打ち明けた
貴音「正体はわかりません。しかし、およそ普通とは呼べない力場がこの事務所に発生していて、何らかの仕掛けが施されているのは感じます」
貴音は事務所の床をなぞるように眺めていた。
P「繰り返される今日一日。この事務所にその原因があるならば、これで何らかの変化が生まれるはずだ。だから、それに賭けたいが…」
貴音「あなた様、私は別の方面で調べてみます。妖の類に精通する者を知ってますので」
P「わかった、俺はここにいるから何かあったら連絡を頼むな」
貴音「はい、わかりました」
ちょうどその頃、外に雲が覆い始め、地上へと雫が垂れ始めていた。街を包む雨がやってきた。

P「それじゃあなみんな。また明日な」
「「お疲れ様でしたー!」」とみんなで挨拶をし、散り散りになっていく。
亜美「よーしひびきん!バス亭まで競争ー!」
真美「負けたらアイスのおごりねー!」
亜美と真美は雨の中ながらもバタバタと走って行った。
響「うがー!負けないぞ!いくぞ、ハム蔵!」
ハム蔵「ジュイ!」
あずさと小鳥は傘を差しながら駅へと歩いて行った。
あずさ「お先に失礼しますね~」
小鳥「あ、あずささん!そっちは逆ぅ!」
真「僕らお迎え組はしばらく待ちますか」
雪歩「せっかくのライブなのに雨、やだなぁ…」


P「練習はどうだ春香、千早」
プロデューサーは練習場に様子を見に来ていた。
春香「あ、プロデューサーさん!バッチリですよ!ね、千早ちゃん」
千早「はい、明日に向けて万全の体制です」
ほどよく汗をかいた2人の笑顔は眩しい。自分のアイドルもずいぶん成長したよなあ、と親心にも似たものを感じてしまった。
P「あんまり長引いて怪我しても嫌だからな。そろそろ上がって風呂でもいったらどうだ?沸かしておくぞ」
春香「わかりました、お願いします!」
プロデューサーは後ろ姿のまま手を挙げて風呂場へと向かった。
千早「春香って、本当プロデューサーが大好きなのね」
春香「えっ、ちっちち千早ちゃん!?何を急に!」
千早はフフッ、と手を口に当てながら笑った。
千早「だって、見てたら丸わかりなんですもの。目が語ってるわ」
春香「もぉー、千早ちゃんったらー!」
春香は顔を赤らめながらにやけていた。


雨の中を走るバスには客がいなかった。亜美、真美、響はバスで帰宅していた。
真美「ねぇひびきん、明日のソロどう?」
響「ん?もちろんバッチリさー!真美は?」
真美「そりゃ→もち大丈夫っしょ!でもなー、やよいっちが心配だなって…」
亜美「うん、それ亜美も思ってた。やよいっち、元気に振舞ってたけどかなり疲れてるみたいだったし…」
響「やよいは…やよいは大丈夫だぞ。あの子は明日にはちゃんとやれてる子だって、そういうことができる子だって思ってるぞ自分は」
真美「真美だってそう思うよ。ただ、やよいっちが辛そうなとこ見せるなんて珍しいから」
雨音が沈黙を灰色に彩る。
バスにアナウンスが流れ、降車の時間が来たことを知らされた。
亜美「亜美達も、しっかり休まないとね」
うんうん、と三人とも頷いた。疲れがピークなのは三人も同じだった。ピー、っと音がなりバスは停車した。亜美達は料金を支払い、降車した。しかし、何かがおかしい。
響「あれ…ここ?」
真美「ここって…」
亜美「さっき乗ったバス停だよね…?」


あずさ「久しぶりにお家に帰れますね」
小鳥「ここでお酒でも呑めれば最高なんですけどねぇ」
あずさ「フフッ、それはライブ後の楽しみにしておきましょう?」
小鳥とあずさは帰りの電車に揺られていた。乗客は2人のみであり、駆動音が疲れた体に染み渡る。雨音がそれに加わり、車内の冷たさが引き立っていた。
あずさ「雨、酷いですね」
小鳥「明日には止んでいてくれないと、会場外で待つお客様たちが大変だわ。物販だってあるのに…」
あずさ「祈るしかないですね」
次は~、と車内にアナウンスが流れた。
小鳥「ええ、最近のライブ当日の天気運はなぜかバッチリですからね」
と、二人は笑い合う。
ゆっくりと速度を落として行き車体は止まる。開いた扉に合わせて降車したが、その風景は先に経験したものと同じであった。
小鳥「あれ…さっきの駅?」
あずさ「あらあら、また迷ってしまったかしら…」
小鳥「これ、環状線だったっけ?」



伊織「やよい、具合は大丈夫?」
やよい「うん、大丈夫だよ。ごめんね伊織ちゃん」
伊織「無茶しちゃダメよ、もう…」
伊織は家から車を呼び寄せ、やよいを送っているところだった。少しは良くなったようだが、それでもやよいの顔はまだ晴れない。まるで雨模様がそうさせているかのようであった。
新堂「お嬢様、申し訳ありません。行き止まりですので引き返します」
どうやら車は突き当たりに来てしまったらしい。
伊織「あら、いつもの道なのに。工事中かしら?」
やよい「いいよ伊織ちゃん、ここから歩くから」
伊織「だーめ!家まで!ね、新堂!」
新堂「はい、やよい様は休まれていてください」
うう、とつぶやくやよいを乗せて車は走る。水たまりを駆け、高槻家への道を模索するが何故かどの道も行き止まりになっていた。工事中などではない。元からそこに道など無いような気すらしてくる。
伊織「なんなの!なんなのよ新堂!」
新堂「申し訳ありませんお嬢様。何かがおかしいですね…」
さらに雨音は強まり、やよいは顔を暗くして行く。そんな様子を見ても、勇気付けられない伊織は悔しかった。



春香は風呂から上がって、宿場の休憩室で夜風に当たっていた。ボーッとしていると、横からヒヤッとするものを頬に感じた。
春香「わあっ!って、プロデューサーさんかぁ…」
プロデューサーは後ろから瓶のフルーツ牛乳を差し出してきた。
P「飲むかい?」


二人の間にはゆったりした時間が流れていく。
春香「ふう…美味しいですね、プロデューサーさん」
P「なんだかんだで、これが一番好きなんだよな、俺も」
春香「私もです」
お互い笑いあい、心から落ち着ける空間がそこにはあった。
P「なあ春香、この合宿はどうだった?」
プロデューサーはすでにこの違和感のある空間は認識していた。春香にも、何か感じることはないか聞いてみたかった。
春香「もう、最高に楽しかったです!ずっとこのままみんなと…、プロデューサーさんとここで過ごせたらな、なーんて考えたりもして。えへへ」
春香は本当に心から楽しそうだった。春香は特異な違和感を感じず、この世界に溶け込んでいるかに思えた。
P「明日は最高のライブにしような、春香」
春香「はい、もちろんです!」
その言葉にPは安心して、牛乳を飲み干した。



貴音はある高校の職員住宅へ来ていた。そこには旧知のある霊能力者の巫女が住んでおり、こういうオカルトの類に見舞われた際はたびたび訪れているのである。貴音はオートロックのインターホンを鳴らし、返答をまつとプツッという音と同時に繋がったことがわかった。
貴音「お久しぶりです、四条です」
「おお、お主か。今開ける」
扉が開いた。細長い廊下を歩き、突き当たりのエレベーターで上昇。数秒歩いたのちに再度インターホンを押す。
貴音「夜分遅くに失礼します」
扉の先に待っていたのは艶やかな黒髪が似合う女性であった。
サクラ「四条が急に来るということはただ事ではないだろう。入れ」


貴音はお茶を一口含んでから落ち着きを取り戻し、一連の出来事を打ち明けた。
サクラ「それは真か…?」
貴音はただ静かに一呼吸おいて頷いた。
サクラ「…昔、私も似たような体験をしたことがある。もっともそれは夢の出来事であったのだが、今思えばあれは現実のことで、夢と思わされているだけだった、ともとれる…」
貴音「それは、妖の仕業ですか?」
サクラ「夢邪鬼、それが妖怪の名前じゃ。人の夢を叶えるために、その持てる力を使うあやかし…」
貴音もその名前は記憶にあった。四条の家に伝わる書物に記されていたのを小さな頃に覚えたからだ。
サクラ「しかし、彼奴はとうの昔に消え失せたはずじゃが…」
貴音「一度、我が事務所へ来てはいただけないでしょうか」
サクラ「無論そのつもりだ。少々待っておれ」
サクラは身支度をする、と自室の方へ行ってしまった。
貴音は心の何処かで安堵していた。彼女はこの類のプロフェッショナル、その実力は貴音など足元にも及ばないレベルだ。しかし、その貴音の想いすらも、この不可解な仕掛けの中には小さな希望でしかなかった。


その夜中、貴音はサクラと共に事務所へ向かい日付の変わる瞬間を二人で眺めていた。プロデューサーには、今事務所には来ないで欲しい、春香たちを見ていて欲しいと頼み、席を外してもらった。
あらゆる機器、装置の電源を付け、眺めていたがどれもその日にちが進むことはなく変わらない一日をまた繰り返していた。
サクラ「この呪符を持っているから、我々はこの事実を認識できているが、おそらく…」
貴音「他の者は、気づかないうちにまたこの日を繰り返している、と…」
サクラ「うむ、そういうことじゃ。夜が明けたら皆ここに集まるじゃろうから、その時に事実を伝えよう」
サクラは呪符を複数、事務所の壁へ貼り付けて行った。
貴音「防壁、ですか」
サクラは小さく笑った。
サクラ「相手は強敵じゃ。こんなもの玩具みたいなものじゃがな」
サクラには記憶の奥底に眠る、妖との戦いがちらついていた。かつて我が生徒らと水辺にて妖と戦った記憶。あれは本当に夢、幻想であったのか。その生々しい経験が疑問を研ぎ澄ました。すると、背後でドンドンとノックをする音がした。プロデューサーか?と貴音は扉を開けるとそこにはずぶ濡れの765プロのメンバー達がいた。
貴音「みんな、どうしたのです…?」
亜美「もぉーお姫ちん!なんでか帰れないのぉ!」
真美「ケータイでかけてもパパもママもだーれも電話に出ないしぃ!!」
小鳥「みんな、何故かここに戻ってきちゃったのよぉ!」
ざわつくメンバーを見たさくらは、とうとうあの事件を繰り返している錯覚に陥った。
響「ん?そっちの方はどなた?」
貴音「私の知人で、我々の力になってもらうために来ていただきました」
サクラ「サクラだ。よろしく頼む」

§3


翌朝、一同は合宿所で朝食を終えライブ会場へ向けて移動した。今日も変わらない一日が過ぎて行く。サクラは彼女らの様子を見るために会場へ同行することにした。
真美「ねーねー、先生はどうして765プロに?」
真美がサクラの隣で聞いてきた。先生、というのは雰囲気から付けたあだ名らしい。
サクラ「お主らが連日の練習で立て込んでて疲れておると聞いた。医療の心得があるゆえ、手伝ってもらえないかと四条に頼まれてな」
亜美「へー、そういえばなんかお姫ちんと似てるとこあるっしょー」
響は最後部の席で真とダンス演出の話をしていた。
響「やっぱり、アイドルとして一度はワイヤーアクションで演出をやりたいよね!」
真「うんうん!それでさ、ステージもこう、ババーンって沢山変形するようになってさ!絶対凄いよね!」
それを聞いていた伊織は
伊織「そんなのあんた達くらいしか使いこなせないわよ」とツッコミを怠っていなかった。
美希はやよいの隣に座り、外を眺めていた。本当に繰り返している。美希はそのことを既にはっきりとした自分の意思で理解していた。街の風景も、どこか寂しいものに見える。流れてゆく街並みも、本当はあるだけでそこに人など存在していないかの様な…。やよいはあくびをしながら俯いていた。
千早「高槻さん、あまり眠れなかったの?」
真ん中の通路越しに、千早はやよいに声をかけてきた。
やよい「千早さん。えへへ、なんだか寝付けなくて。でも、練習はしっかりやりますからね!」
千早はうわ言のように、「高槻さん可愛い可愛い…」と呟きながらやよいの頭を何度も撫でていた。
やよい「やめてくださいよぉ、千早さーん…」
そんなやよいを横目で春香は物言わず、眺めていた。


バスから降車し、皆は控え室に向かっていた。水溜りが地面のそこらに点在し、雨上がりの朝であることがはっきり現れている。雪歩は、会場外の関係者入り口に向かったがそのさなか横道に逸れている路地のような場所を見つけた。普段からこんな場所に道があっただろうか?と、雪歩は気になり路地に足を踏み入れた。どうやら他のメンバーは気づいていない。雪歩が最後尾だったからだろう。細長い道を進むと路地の十字路にて、帽子を深く被った少女が横切り、その後ろから屋台が付いてきた。屋台を引く者はいないが、何故か動いている。屋台には無数の風鈴がぶら下げてあり、リン…リリン…と音を鳴らし風に揺らめいていた。その時である。雪歩の背後からも風鈴が鳴った。無数の風鈴が雪歩を挟み込み、音が鳴り響く。それは何層にも重なり、雪歩は風鈴に包まれる。光を放った硝子体はそれぞれが共鳴しあい、あたかも万華鏡かのような景色を見せた。そこは白に染まる世界。光のみの眩しい世界。しかし、汚れもなく純粋すぎる白は奇妙であった。恐怖を感じた雪歩は路地を引き返し、走り出した。揺らめく空間。空気が透明になり、風鈴が空間に音を木霊させる。雪歩は数秒走ったのちにもといた場所へ振り返った。すると、そこには路地が存在せず、元々の関係者入り口が前にあるだけであった。風鈴の音はどんどん遠くに消えていき、ついに聞こえなくなってしまった。その時、ライブ会場の上階の窓から、雪歩を眺める者がいたことを彼女は知らない。


響「えっ、会場って」
真「こんな感じだっけ…」
会場を眺めた二人は驚きを隠せなかった。ステージは何段階にも変化する可変式のものであり、踊り場が会場中央にあり、そこへ向けて通路が何箇所も作られている。また、ソロパートではワイヤーアクションが可能なように、天井には仕掛けが施されていた。
律子「何言ってるの。あなた達がやりたいって言ったから、頑張って実現させたんじゃない?」
律子は呆れ顔で説明をした。
真「言われてみれば…」
響「そうだったっけ…」
他の者も、チラホラと変わっている部分を見つけては不可思議な心情を顔に写していた。それを見ていたサクラは、今夜が事を打ち明けるタイミングであろうと決心をつけた。



765プロにサクラが来たということで、一同は近くのお好み焼き屋で小さなパーティを開いていた。が、その目的は別にあった。プロデューサーは皆が食事にありつき落ち着きを見せたあたりで声を発した。
P「さて、君たちには昨日サクラさんに会ってもらったのだが、実のところ俺も昨日会ったばかりだ。何故、サクラさんに来てもらったかをこれから貴音に説明してもらう」
プロデューサーは貴音に目配りをし、頼んだぞ、と伝えた。


貴音は皆にこの事件のあらましを話した。いつの間にか繰り返される日常。変わらない毎日。しかし、いつの間にか異なる事実にすり替えられているだけで、それに気づいていない日々。皆は同様を隠せなかった。貴音一人ならまだしも、そこにサクラさんという第三者の者がいることで事態の深刻さを物語っていた。沈黙の中、最初に口を開いたのは真であった。
真「でも、急にそんなこと言われても…こうピンと来ないというか…ねぇ?」
亜美・真美「異議なーし!」
サクラ「それはもちろんじゃ。この手の妖怪はたちが悪いことに人の意識の外側で仕事をする」
千早「これから、私たちはどうするのですか。サクラさんは何かご存知なのでしょう?」
サクラ「昨日調べたところ、この一連の事件はお主らの事務所、つまり765プロダクションにあると私は睨んでおる。今夜にでも、事務所を調べようと思うが協力してはくれぬか?」
貴音「だからこそ、来るべき憑魔の退治に向け腹ごしらえをせねばなりません! ご主人、ミックス焼きそば大盛りを5人前!!」
あずさ「うふふ・・景気づけにビールでも頼んじゃおうかしらぁ・・・///」
小鳥「あ!それ最高!最高!あずささんグッド!」
律子「あんたたち、経費で食べてるの忘れてないでしょうねえ・・・」
こうして、今夜に事務所内の調査が執り行われることが決定した。



事務所へ帰り着いたメンバーであったが、その様子はこれまでにまして不気味であり、暗く感じた。
あずさ「なんだか、全然違う場所にも見えてしまうわね~」
律子「あーもう、あずささん…なんでノンアルコール・ビールでヘロヘロなんですか…?!」
伊織「さ、こんなのさっさと解決させてライブを始めちゃうわよ!行くわよ皆!」
オォー!!と掛け声に乗じて事務所へ向かったのは伊織、春香、真、響、亜美、真美、プロデューサーの7人であった。残りのメンバーは外側で待機し、様子を見守ることにした。
伊織「春香と真は練習場を、響と亜美真美は合宿所を、あんたは私と事務棟よ、いい?」
亜美「アイアイサー!行くよひびきん隊員!真美隊員!」
響「おーし、行くぞお!」
ハム蔵「ジュジュジュィッ!!!」
真美「ラジャー!ゴー!」
バタバタバタ、と三人は懐中電灯で照らしながら走り去って行った。

春香と真は一歩一歩、練習場へと近づいて行きあたりを調べた。まずは電気をつけねばならないが、何故かブレーカーが落とされており二人はまずそのブレーカーを探しに来ていた。
春香「真はブレーカー触ったことあるの?」
真「前に事務所を閉める手伝いした時にね。春香も?」
春香「うん、だけどこう暗かったら分からないねえ」
あたりは一面真っ暗闇であり、懐中電灯で恐る恐る調べながら前へと進む。すると春香は明かりの先にブレーカーがあるのを見つけた。
春香「あ、あった!」
真は、もう少し先の方だったように思っていたが、思いのほか早めに見つかってホッとした。

そのころ事務所では伊織とプロデューサーが異変がないか調べていた。
伊織「あんたはこの事件、どう思うの?」
P「どうもこうも、非現実的すぎて理解が追いつかないよ。伊織は?」
資料の山をチェックしながらプロデューサーは答えた。
伊織「私は別に大丈夫よ。案外楽しいし…ただ、やよいがあんな顔するのだけは見てられないのよ。あの子が心配なの」
P「やよいはうちの元気印だ。やよいが辛そうだと、皆も心配になる。俺も同感だ」
その時、事務所に電灯がついた。ブレーカーが入ったのだろうが、あたりの景色に伊織とプロデューサーは驚きを隠せなかった。本来壁である部分が取り払われ、四方全てが鏡でできているのか、二人の姿が無数に事務所の中に広がっていた。
P「伊織が…」
伊織「プロデューサーが…」
「「沢山!?」」
二人は入り口に向かって走り出したが、延々と入り口にたどり着けない。どこまでもどこまでも続く廊下を走り続ける。

そのころ響、亜美、真美の三人は食堂に来ていた。が、明かりがつくと、何故か三人は食堂の天井に立っていた。
響「へ…?」
真美「なんだろこれ…?」
亜美「逆さま…?」

春香と真は、延々と続く廊下を走っていた。
真「ねぇ、春香…。ここってこんなに長かったっけ?」
春香「そんなこと…ない、はずだけど…」


サクラ「どうやら始まったようじゃな」
外で待つメンバーは事務所を眺めながらその様子が異常であると察知した。窓ガラスはチカチカと光り、曇天の空には雷のような無声の閃光まで走った。
千早「何かおかしいと思ったら…」
サクラ「気づいたか?昨夜、私がこの事務所に訪れた時は鉄筋コンクリート建築4階建てのビルに居住区が設けてあった。しかし今この様子を見てみると」
あずさ「6階建てになっているわね…」
どういうカラクリかは分からない。が、しかしそこにはこれまでと違う形の事務所が建っていた。
雪歩「窓から見える光が、まるで叫んでいるみたい…」
明滅する閃光が窓を駆け抜け、外を照らしていた。さながら、音を立てる光かの様に。
サクラ「そろそろ潮時じゃろうて、皆をここへ戻す。四条!!」
貴音「はっ!」
二人はお札を取り出し念を唱えた。すると、事務所の玄関が開き、先行したメンバーが吐き出されるかのように飛び出てきた。
サクラ「皆のもの、車に乗れい!」
バタバタ、とメンバーはバスに乗り込み走り出した。


サクラ「やはり事務所には何かあるな!水瀬、約束の例の場所とは!?」
ハンドルを握りながらサクラは叫ぶ。
伊織「水瀬アミューズメントに向かってくれないかしら?」
サクラ「なんじゃ?ゲームでもしたくなったか!?」
伊織「うちの緊急避難所があって、そこには飛行機が隠してあるの!」
サクラ「なるほど、空という手があったか」
メンバーを乗せたバスはそのまま水瀬アミューズメントへ向かい駆けていった。


伊織はサクラに前もって事務所の謎が解けなければ行って欲しい場所があると伝えていた。それは廃業したゲームセンターだった。阪堺の扉を開け進み、カチっ、という音と共に室内の電気が付けられた。
やよい「荒れてますぅ…」
美希「これじゃ太鼓の達人って訳にもいかないの」
伊織は奥に進み。壁に貼ってあるポスターを剥がし、スイッチを押した。すると、床全体がエレベーターになり、地下へと向かい降下していった。ズシンという音と共に地下の電気がつき目の前には大型の戦闘機が現れた。
響「飛行機!かっこいいぞ!」
小鳥「水瀬財閥って、なんでも持ってるのねぇ…」
伊織はコクピットに飛び乗り、エンジンに火を入れた。
雪歩「伊織ちゃん、飛行機動かせるの?」
伊織「前に新堂に教えてもらったの」
P「新堂さんって、何者なんだ…」
伊織「こちら水瀬アミューズメント、水瀬アミューズメント。応答を願います。変ね、まるで通じないわ、って!何やってるのよあんたたち!」
伊織は後ろを見ると、面々がみな機体に乗り込んでいた。というより、張り付いている状況に近い。
真「へへっ、僕たちを置いてったりしないでよ」
響「ダンスやってるからこれくらい平気だぞ!」
伊織「もぉー!振り落とされても知らないからね!」
伊織は正面を向き、機体が一気に上昇していった。


機体は大空を駆け、一気に街を離れて行く。
千早「すごい、もう街があんなに小さく…」
すると亜美と真美は独特のコブシを混ぜながら「さらばぁ~765プロォ~♩旅立ーつ、船はぁ~♩」と昔のアニメの主題歌を歌い出した。しかし、そんな悠長な雰囲気も長くは続かず、その光景が示す真実に皆が言葉を失った。
貴音「何ということでしょう…」
大空から眺めた街は、ちょうど、765プロを中心とした円に切り取られており、その外側に街は存在しなかった。飛行機が街から離れて行くと、見えてくる景色は更に変わった。切り取られた大地は、ちょうど何処かのおとぎ話の様に、石造りの亀の背中に乗せられていた。亀は広大な星の流れる大河のごとき宇宙を泳いでいた。
サクラ「水瀬!街を旋回するのじゃ!」
伊織はレバーを倒し、飛行機を街の周りに飛ばした。高度を下げ、飛行機が街の裏側に入り亀の甲らの下に入り込むと、そこには街を支える巨人の影が見えた。石造りの巨人、それは我が765プロの高木社長であった。
律子「社長!?」
あずさ「最近見ないと思ったらこんなところに…」
伊織「まずい、ガスが切れそうだわ。一度あの街に戻りましょう!」
響「あそこに戻るのか!?」
点滅するランプが皆を焦らせる。
伊織「他に行く当てもないでしょう?!」
飛行機は高度を上げ、亀の背中の板上の街を目指した。
伊織「緊急着陸するわよ!しがみついてー!!」
各々の悲鳴が響き渡る。機体は逆噴射をかけ、一気に地面へ滑り落ちて行く。ドドンッ!!! 地響きと共に、飛行機は765プロの目の前に着陸した。こうして、一同はこの世界での生活を続けざるをえなくなった。