『大逆転裁判』各話感想 | アドベンチャーゲーム研究処

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アドベンチャーゲーム(AVG・ADV)の旧作から新作まで、レビュー+紹介を主として取り上げるブログ。(更新は不定期)
取り上げる範囲は家庭用のみです。

ということで、クリアしました。
『逆転裁判』といえば近年はキャラクターに振り回され、
『1』~『3』の蛇足に陥ってしまっているのは誰もが感じているところで、
原作者の巧舟さんが監督・脚本し、世界観も大幅に刷新し仕切り直しを図った本作は、
新しい形の『逆転裁判』を示すことに期待がかかっていたと思うのですが…
最後まで遊んだ印象としては、続きものとしての迷走だった『4』『5』とはまた違う、
大作化とマンネリ打破のために無駄な要素をつめこみ過ぎて、
ゲームとしてのシャープさに欠く、力不足で『1』~『3』に負けた作品といった感じ。

まあ具体的な話は各話の感想へGO。
ネタバレしているので、クリアしている人だけ読んでください。

1話『大いなる旅立ちの冒険』

シチュエーションや証拠品のギミックなどは『1』~『3』からの引用が見て取れ、
初代シリーズへのオマージュが見られる本作でも群を抜いてファンサービスにあふれる回。
チュートリアを必ず挟むシンセツさと解りきってる事件構造からテンポの悪さが誘発し、
終始「お約束」に付き合わされている感が漂っているのは残念。
決めポーズを決めるために回りくどくなる巧さんの悪い癖が出てしまったかも。

ストーリーネタバレ
流れとしては亜双義一真との友情の強調、掘り下げが主要だが、
本筋的には「ジョン.H.ワトソン」が謎の女に殺された回。
犯人は聖典でワトソンの肩(のちに足)を打ち抜いた銃が元ネタのようだが正直覚えてない。
ネタ的にはひねりがなさすぎ・展開が回りくどすぎて眠気を伴ったくらいなので、
いっそこの話で亜双義が犯人or死亡くらいのことしたほうが良かったんじゃないかと。

2話『友とまだらの紐の冒険』

「シャーロック・ホームズ」でも有名なナンバーに入るであろう
『まだらの紐』のプロットに対するパロディが色濃い回。
「まだらの紐」の正体がなにかでミスリードを誘う試みは意欲的だが、
聖典では蛇だったことを冒頭で示唆しているとはいえ、
元ネタを把握していないと解りづらく、トリックのしょっぱさもあって練り込み不足を感じる。
ゲーム的には本作の目玉要素とされた「共同推理」がお披露目されているものの、
演出過剰と多セッション化でテンポが明らかに悪く爽快感が伴っていないのは残念。
システムとして見みても、ポイント&クリックで新情報を探すだけなので、
そもそも爽快感とは無縁な捜索系のパートと言えなくもない気さえする。
まさかの裁判パートのカットもあって、1話と統合もしくは割愛できたであろう回という印象。

ストーリーネタバレ
恐らく展開上では殺す必要があったんでしょうが、被害者の死亡理由が意味不明。
『まだらの紐』のシチュエーションで一本やりたかったのは解るけども、
箱の中身が猫、まだら紐は猫じゃらし、ただし殺害理由上それである理由はなしと来られては、
話として「パロディしたかっただけ」で終わってるようにしか映りえない。

3話『疾走する密室の冒険』

お話的にはこれが実質1話目。
というより1話目にもってくるべきだったエピソード。
バランス取りなのか今回は裁判パートオンリーとなっており、
『レイトン教授VS』でお馴染み陪審員による採決・新要素の最終弁論が登場。
事件のプロット、討論の焦点、調査の手間などは適切なサイズにまとめられ、
最終弁論の流れもちゃんとプレゼンテーションできているため、
1話の裁判パートで感じた討論のテンポの悪さは影を潜めている。
ユーザーの求める『逆転裁判』のクオリティに到達できているのでは。

ストーリーネタバレ
消化不良のまま終わっちゃうけどプロローグとしては不満は見当たらない。
証拠品の捏造ネタは『4』以降デリケートな話題になっているだけに、
「プレイヤーキャラにスティグマを負わせる」役回りをやりきった
コゼニー・メグンダルのキャラクター性は高く評価したい。
死亡してもなお存在感を維持できた意味でも、彼は本作のMVPと言える。

逆に、この回で初顔合わせとなった「死神」の異名を持つライバル検事のバンジークスは、
反証をほぼしないし、言い分を通すのもほぼ無策なのだから、印象がほぼ残らない。
というノーガード戦法で、シリーズ屈指の影が薄いライバルキャラになっているのが残念。
まあ伏線だけは大量にあったので次回作で覆す可能性もあるだろうけど、
そこは小出しにせず個性として昇華してくれないことには討論ゲームとしてつまらない。
ハッタリな余裕が見せたゴドーや、グラフィックだけでも威圧感のあった狩魔豪のような
強烈さと手ごわさが伴ったキャラクター造形は尺が短くても過去作ではできていたはずで、
如何に次回作前提の作りとはいえ、もう少し言動なりなんなりに色がつけれたのでは。

4話『吾輩と霧の夜の冒険』

立ち位置で言えば「逆転のトノサマン」「逆転サーカス」のような本筋とは関係ない回。
盛り上げるための無理なミスリードやご都合主義は逆転名物とはいえ、
裁判パートでは「明らかに事件とは無関係な反証をさせられる」展開が散見され、
「逆転する爽快感を与えたい」というより「逆転する展開を見せたい」が先に来ている印象。
もちろん、そういったプロレスは過去作にもあったけども、
この台本はあまりにも回りくどく、その割には尻すぼみでしょう。
また、この辺りでキャラクターのデザイン・造形が寓話チックのピークを超えた感があり、
『逆転裁判』というより『レイトン教授VS.』の画にしか見えなくなってくるのも厳しい。
やはり『レイトン教授VS.』でワンクッション入ったのは失敗だったのではと思わなくもなし。

ストーリーネタバレ
まず最初に、パッケージ内では一番つまらなかったです。
オチは「窓から落ちたナイフが刺さった不慮の事故」だったわけなんだけども、
過去の『逆転裁判』なら如何にご都合主義でもそんな箸にも棒にもかからない結末は避けて
ちゃんと「窓から落ちたナイフで刺した真犯人」が登場していただろうし、
「大逆転」を名乗るなら、そこから更に二転三転して欲しかった。
少なくとも、「本当にナイフを投げて落ちた」のかの証明と、
「それが偶然刺さった」なんてことは起こり得るのかを説明されないことには納得できないし、
これではオバちゃんを冤罪にして終わる「逆転のトノサマン」みたいに映ってしまう。
まあ、未回収な伏線があるので『2』でフォローする可能性はないわけではないけど、
パッケージとしてそれは通用しないとしか思えないのが正直な話。

5話『語られない物語の冒険』

日常の風景から生まれた謎が事件へ発展する流れが今回では最もホームズっぽい。
ここに来てようやくレギュラーキャラクターが出揃い、
『大逆転裁判』のカラーがはっきりしてくるので、
3~4話目くらいの通常回なら評価されたんだろうけど、残念ながら最終話。
しつこいくらいに発生する「ツッコミフラグ」「最終弁論」はウザったいけど
証言部分は展開に即した討論ができているし、
キャラクターも4話のような世界観の崩壊は起こしてないので、
『逆転裁判』として一定のクオリティで楽しめるはずなのですが、
いかんせん膨大な量の未回収な伏線の前には「盛り上がりに欠く」という評価しか頂戴し得ず。
『大逆転裁判』らしさを示せ始めた回だけに、時既に遅し感はあると思う。

ストーリーネタバレ
この回はグレグソン警部の裏切りが最大の見せ場。
レギュラー格の刑事キャラが裏切る構成には『5』との重複を感じた方もいると思うけど、
真犯人=ラスボスだった番刑事と比べると伏線としての裏切りという意味合いが強く
捜査のためなら無実の人間も陥れる冷血漢という意外性をついたキャラ付けができているし、
グレグソン警部は聖典が元ネタにあるだけに「容疑性が薄い人物」に映っていたので
(仕掛けとしては『まだら紐』と同じだけど、こちらはあくまで補助的な立ち位置だと思う)、
ミスリードにメタ要素が絡んでいる印象で、個人的には『5』よりも展開的に面白かった。
犯人のモーションが実は三兄弟のそれと合致しているオチも逆転らしくて好きだけど、
決め手の「ネコトビラ製造機」が如何にもご都合主義なのも逆転らしさで、
ラストが過去作を想起させる展開なのを含め「らしさ」に振り回された印象もある。

大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-

評価:50

 次回作前提の作りで尺稼ぎが必要だったのか、エピソードが間延びした印象は色濃く、締りの悪いパッケージになってしまっているのがただただ残念。未完であることが批判の槍玉に挙がっているけども、伏線未回収のADVなんて珍しい話ではないわけだし、ここまで不満の声が大きいのは本編の不出来が根っこにあるのでは。画面のリッチ化やボリュームの増量が内容の悪化にしか結びついていないあたり典型的な大作志向に陥った失敗作なんだろうけど、じゃあ凄くつまらないかと言うと本筋はそれなりに遊べる。かといって繰り返すほどでもないのが微妙。