大学入学式の帰り。
テニスサークルの勧誘があり、ほいほいついていってしまった。
これが失敗の始まりだった。
たしかに、当初は「変わりたい」という自分の欲求があった。
しかし、それを自分で達成するものではなく、他人の何らかの行為によって変わりたいと思う、実に他力本願的な幼稚な欲求であった。
この幼稚な欲求は他人依存型なので、他人の何らかの行為がないと全く達成されない。
だが、44になった今でもこういう気持ちは持ち続けている。
誘われたテニスサークルは変な横文字のサークルで、全部で20名くらいで女子が数名いた。
部室みたいな部屋には、ちょうど自分と同じく勧誘された1年生が数名いた。
男子はまったく興味がないので何人いたかや誰がいたかなど一切覚えていないが、女子の顔はきちんとおぼえている。
その後大学内で会うことがあった時も彼女はサークルの人だとしっかり認識していたし、いまだに覚えている。
数少ない自分と会話した女性の顔はやはり覚えやすい。
このサークルは、巷によくある飲み会メインのサークルではなく、そこそこきちんと練習する体育会系サークルだそうだ。
勧誘のセリフのなかにも「ただの飲み会サークルはすぐ飽きるから、こっちのほうが良い」みたいなことを盛んに言われた。
自分はもちろんテニスなどしたことないが、話は少し聞き入って、女子が喋っているのをひたすら相槌を打っていた。
むこうも真面目そうな自分の風貌に向こうもちゃんとやってくれると思ったのかもしれない。
しかしその後、ちょっと偉そうな人間が入ってきた。
おそらく3年生のキャプテンだ。まわりにも命令口調であれこれ指示していたので、すぐキャプテンとか部長とかなんだろうなと思った。
そのキャプテンは、他の新1年生の女子にあれこれ面白い話をして勧誘していたが、自分を見るといきなり
「お前老けてるな、何浪したんだ?」と聞かれ、
「4浪だけど」と答えると、
「はあ?4年間ずっと勉強してたのか?俺の2個上だぞ。お前すごいなあ」
みたいなことを言われ、かなりむっとした。
むっとしたのは、4浪したことをきかれたことではなく、2歳も年下の男にタメ口で詰られたことだ。
はじめは皆1年だからタメ口でも当然かまわないが、2歳年上と分かっていてあえてタメ口をきいた彼の態度にものすごく腹がたった。
自分は中学生の時に部活をやっていたが、先輩には絶対に敬語だった。
1歳離れていても敬語を使うべきだが、2歳離れていれば言わずもがなだろう。
その男がキャプテンであることでこのサークルに入ることはないと決意したが、その後も偉そうな口のきき方をするので、こっちもタメ口で話したら、
「おいおい、先輩への口のきき方間違ってるだろ?」
と逆に言われてしまった。
とても屈辱だった。
好きで4浪もしたわけではない。
本来なら東大の医学部に行っていたはずなのだ。
そんな自分が、こんなマーチの虫けら見たいな学部の人間と会話するだけでも、お前はありがたいと思えと思った。
しかも偉そうな口叩かれて説教までされて、自分の中の屈辱感は筆舌に尽くしがたいものがあった。
そんな屈辱から、そのキャプテンに反論し、あわや喧嘩になりかけた。
そして女子マネージャーみたいなのに止められて、すぐ止めたが、その男にもう来るな!みたいなことを言われ、言われた通りそのまま部室を出て行った。
せっかく女子と話ができたのに、結局これだ。
やはりレベルの低い人間が通う大学はこういうものなのかと本当に後悔した。
そして後悔し帰路についたとき、自分はこんな大学にいる人間ではない、やはり医学部に行くべき人間なのだと決意し、1年間仮面浪人することを決めた。
大学に通いながらもう一度受験して、あんな男を見返してやろうと思った。