初の給料が入った。
2月に勤務したのは55時間なので、交通費を含め52000円である。
今の塾は自転車通勤でも交通費が出るため、たいへんありがたい。
家賃を差し引くと2万円残る計算だが、光熱費等を引けば結局手元に残るのは15000円程度だろう。
アルバイトは掛け持ちしないと厳しい。
ただ、初任給をもらって、泣きたくなった。
それは、労働の対価に対する喜びではない。
そう、「もっと早くに働いておけばよかった」ということだ。
自分が高校時代、女子と仲良くなれるチャンスを探すため、アルバイトをしたいと親に言ったことがある。
しかし、「学生時代は勉強に専念しろ」と言われ却下された。
また、続けて「お金を稼ぐことは大変なことだ。今、たっぷり勉強できるのだから、それに専念すればよい」とも言われた。
高校1、2年の時など全く勉強していなかったくせに、その言葉に妙に納得し、額面通り受け止めた。
そのため、受験生活でアルバイトはずっとやらないでいた。
でも、今の仕事をして、給料を手にして改めて思うのは、高校時代からアルバイトをすべきだったということだ。
自分は高校時代、アルバイトもせず、勉強もせず、毎日悶々としながら家でマンガやSM雑誌を読みふけっていた。
そんなことに貴重な青春を浪費するなら、アルバイトをして汗を流して労働の楽しさを感じたほうが、よっぽどマシだった。
「高校時代、女っ気はなかったけど、アルバイトを一生懸命頑張って働くことの楽しさを覚えた」と振り返ったほうが、その後の人生の精神衛生上にもよかった。
さらにはアルバイトをすれば、女子との出会いもあったかもしれない。
女子と会話する力が身についたかもしれない。
うまくいけば彼女ができたかもしれない。
運命を変えられたかもしれない。
仮にアルバイトをして受験を失敗したとしても、そのぶん好きなアルバイトをしていたのだからしょうがないと、どっかで割り切っていただろう。
自分の場合、周りが共学に通い楽しんでいるのに、自分は男子校で毎日悶々とした高校生活を強いられていた。
これが強い劣等感となり、その劣等感が腐のエネルギーとして受験勉強の原動力となっていた。
「負のエネルギー」ではない。
負のエネルギーは家が貧しいから貧しさから脱出しようとか、昔、辛いいじめや虐待に遭ったから見返してやるため、頑張るときのエネルギーである。
自分の場合、そんな尊大なものではない。
ただ、高校時代に女子と知り合いたかったのに、知り合うことができなかった、共学に行きたかったのに共学に行かなかった、という醜い醜い劣等感である。
だからあえて「腐のエネルギー」とする。
そしてその腐のエネルギーは、自分の願望を解消しないと消えなかった。
結局、大学受験に失敗した後、不本意な大学生活では、そんな自分の願望はかなうことができず、司法浪人として20年も無駄な時間を送ってしまうのである。
そう思うと、高校の時の後悔が津波のように押し寄せ、いてもたってもいられなくなる。
そうだ、そういや、高校時代ちゃらちゃらしてたあいつはアルバイトをやっていたとか。
男子中出身のくせに隣の女子校の生徒をナンパしていたのは、アルバイトで得たコミュニケーション能力だったのかもしれないとか。
あいつは高校時代アルバイトもし、ナンパもし、現役で明治に行って、一流企業で働いているとか。
かたや俺は変な倫理観が邪魔をしてアルバイトを我慢し、悶々とし、何もなかった高校時代を過ごし、そのまま4年間浪人し、あいつよりレベルの低い大学に進学した、、とか。
クラスで一番まじめだったあいつは休み時間も勉強していた。
あいつは彼女がほしくないのか、ゲイなのかと薄々馬鹿にしていたのに、現役で医大に進んだ。
ひのえうま世代とはいえ、自分は4年かかっても受からなかっただろう。
もしかしたら、彼はもう結婚し、家庭を持っているかもしれない。
自分はひたすら腐のエネルギーを受験勉強にぶつけていた。
結果、何も得られなかった。