疥癬(かいせん)をアトピーと思い込むとどうなる?
こんにちは。橋本です。
アトピーときちんと区別して診断してもらいたいものに、疥癬(かいせん)という病気があります。
疥癬は、アトピーとは違い、原因がはっきりとしている感染症のひとつです。
しかしながら、アトピーと疥癬は、症状の共通点も多いので、疥癬にかかったのにもかかわらず
「アトピーがひどくなった」
と思い込んでしまう事態が、おこりうることも考えられます。
なかなか身近になく、よくわからない皮膚感染症、疥癬。
疥癬患者は、年間約8~15万人と推定されています。
そのため一生、ご縁になることのない人がほとんどだと思いますが。
この疥癬という病気のことを、頭の片隅にでも覚えておいてもらえれば、もしもの時に役立つかもしれません。
疥癬とは
「疥癬」は、ヒゼンダニという、たいへん小さなダニが、人間の皮膚に住み着くためにおこる皮膚の病気。
ヒツジ、ウシ、ブタなど、家畜動物でも集団感染がみられる病気です。
疥癬にかかると、激しいかゆみが、とくに夜間に強く襲ってきます。
症例写真:子どもがかかった疥癬
原因は「ヒゼンダニ」
疥癬は、病気のメカニズムがはっきりしています。
原因は、疥癬虫(かいせんちゅう)ともよばれるヒゼンダニです。
このヒゼンダニは、乾燥に弱く、皮膚から離れると2~3時間程で死んでしまいます。
寿命も、10~14日間と短いのですが、メスの成虫は卵を産んで、繁殖を繰り返します。
これがやっかいなんですね。
産卵の際には、手首や手のひら、指の間、ひじ、わきの下、足首や足の裏、股の間などに疥癬トンネルとよばれる横穴を掘り、そこに卵を産みつけます。
症例写真:ヒゼンダニが作った「疥癬トンネル」
血液は吸わず、皮膚のアカを食べることで、寄生します。
メスの成虫が、人間に感染すると、約1ヵ月後に発病するといわれています。
激しいかゆみと湿疹
強いかゆみ、赤みのある湿疹ができるのが、疥癬による症状の特徴です。
湿疹は、腹部や腕、手足など、様々な場所にできる可能性があります。
股の間には、あずきのような結節(けっせつ:「ボツボツした、しこり、湿疹」のこと)が残ることもあります。
このような症状は、皮膚に住み着いたヒゼンダニそのもの、脱皮殻、排泄物によって、アレルギー反応がおこるために、あらわれてきます。
現在は老人養護施設などで、高齢者や介護者の間で集団感染する事例が、多く報告されています。
ときには、病院内で感染が広がる事例もあります。
一般に高齢者で発症しやすいといわれていますが、子どもでも発症することはあります。
子どもでは、症状として、みずぶくれ(水疱:すいほう)や、うみ(膿疱:のうほう)がみられることが多いといわれています。
症例写真:子どもの疥癬にみられる水疱・膿疱
アトピーの子どもが、疥癬にかかるリスクが高いなどの指摘は、今のところありません。
角化型疥癬(かっかがた・かいせん)という重症ケース
重症の疥癬では、角化型疥癬というタイプの症状がみられることがあります。
角化型疥癬は、通称、ノルウェー疥癬とよばれることもあります。
通常の疥癬は、一人の患者の皮膚に寄生するダニの数は、せいぜい1000匹程度。
しかし、何らかの原因で免疫力(抵抗力)が低下していると、ダニの数が、100~200万匹にも達するといわれています。
この状態が、「角化型疥癬」です。
ここまで重症になると、あきらかに、通常の疥癬とは症状が違い、異常にアカが吹き出したような、かさぶた状の皮膚になります。
また、通常の疥癬にくらべ、かゆみは少なくなるといわれています。
角化型疥癬は、カンタンに周りの人に感染しやすくなるため、患者には個室で生活してもらう必要がでてきます。
疥癬の診断ポイント
ヒゼンダニは、たいへん小さなダニなので直接目で見ることはできません。
メスの成虫でも、体長はわずか0.4mm。
角層を切り取って顕微鏡でみたり、ダーモスコープといわれる皮膚観察用の虫眼鏡で患部をみる。
そうすることで、ヒゼンダニが発見できれば、「疥癬」と診断できるわけです。
「疥癬トンネル」を見つけることも、診断のポイントになります。
また、アトピーが体の左右対称に症状が出やすいのに対して、疥癬はそのように出るとはかぎりません。
アトピーとの区別が大切な理由
アトピーの症状と、通常の疥癬は、強いかゆみと湿疹があらわれるという点で、症状が似ています。
しかし、疥癬に感染したのにもかかわらず、アトピーの悪化と思い込んでしまうことには、大きな危険があります。
それは、治療にステロイド外用薬を使ってしまうことです。
もちろん、アトピーの湿疹には、ステロイド外用薬がよく効きます。
ところが、疥癬の湿疹には、ステロイド外用薬は、まったく効きません。
それどころか、ステロイド外用薬を塗ることで、疥癬の症状が悪化する可能性もあります。
というのも、ステロイド外用薬には、塗った部分の免疫を低下させる作用もあるから。
皮肉にも、湿疹をおさえるために塗ったステロイド外用薬が、ヒゼンダニの活動をサポートしてしまうことにもつながりかねないというわけです。
そういう意味でも、きちんとした診断が大事。
通常では考えられないような、アトピーの悪化がみられるときは、やはり、お医者さんの診察が大切になってくるんですね。
疥癬の治療には、塗り薬も使われますが、イベルメクチン(製品名:ストロメクトール)という飲み薬が有効であることが知られています 1) 。
参考文献:
1) 大滝倫子: イベルメクチンによる疥癬の治療. 臨床皮膚科 56: 165-167, 2002.