ニキビと間違えやすい「マラセチア毛包炎」とは?
こんにちは。橋本です。
胸、背中、または額(ひたい)、こめかみ。
アトピーの治療中に限ったことではないですが、こういったところに、小さなブツブツが広がり、しつこく繰り返すことがあります。
ときに炎症をおこして、赤くなることも。
パッと見ると、ニキビや汗疹(あせも)にもみえる、この小さなブツブツ。
マラセチア毛包炎(もうほうえん)という症状の可能性もあります。
長く繰り返すようなマラセチア毛包炎は、的確な診断、それに見合った治療をすることで、いちじるしく良くなることも多い症状です。
症例写真:マラセチア毛包炎
マラセチア毛包炎とは
マラセチア毛包炎は、ニキビと形や出かたとそっくりなブツブツです。
マラセチア毛包炎:
胸、背中、肩から二の腕にかけて、または額(ひたい)、こめかみ、首などに、毛穴に一致して、ニキビのような赤い小さなブツブツが、まばらに多発する症状
小さなブツブツに「うみ」がたまることがある点、出やすい場所でも、ニキビに似ています。
ニキビが思春期以降に出やすくなるのに対し、マラセチア毛包炎は、9~10歳からの若年層でも、中年層でも、幅広い年齢層で多く見られるといわれています。
マラセチア毛包炎、単独では、かゆみは、それほど強くないといわれますが、ときとして強いかゆみを訴えるケースもあります。
皮膚に住みつく真菌(カビ)が原因
マラセチア毛包炎の原因は、「マラセチア」という真菌(しんきん:カビ)です。
マラセチアは、日本では「癜風菌(でんぷうきん)」ともよばれています。
現在のところ10種類のマラセチアが確認されていますが、実際に皮膚の炎症に関係するのは、次の5種類だと報告されています 1) 。
・ マラセチア・ファーファー( Malassezia furfur )
・ マラセチア・グロボーサ( Malassezia globosa )
・ マラセチア・レストリクタ( Malassezia restricta )
・ マラセチア・シンポディアリス( Malassezia sympodialis )
・ マラセチア・ダーマティス( Malassezia dermatis )
ただし。
このマラセチアというカビは、普通なら怖いものではなく、誰の皮膚の表面にも存在している、ごくありふれたものです。
マラセチアは、皮膚表面や毛穴の皮脂を好み、栄養にします。
そのため、比較的皮脂が多く出やすい場所。
たとえば、胸、背中、額、肩から二の腕にかけて、といったところの毛穴で増えやすくなることがあります。
そうやって、毛穴の中でマラセチアが増えると、分解された皮脂は、遊離脂肪酸(ゆうりしぼうさん)という、肌にとって刺激になりうるものに変わります。
この刺激に強く反応すると、炎症がおき、小さなブツブツができたり、うみがたまったりする、とみられているわけです。
マラセチアはカビであるがゆえに、高温多湿、不潔という条件では、増えやすくなるだろうと考えられます。
また、このマラセチアという皮膚に住むカビは、癜風(でんぷう)、脂漏性皮膚炎といった、ほかの皮膚症状をおこすこともあります。
ニキビ、あせもなどとの判別が必要
マラセチア毛包炎の症状は、見た目が尋常性ざ瘡(じんじょうせいざそう:ニキビ)や汗疹(あせも)に似ています。
よく注意して見れば、マラセチア毛包炎と汗疹の違いぐらいは、わかるかもしれません。
しかし、ニキビとの見た目の違いを、素人が判別するのは、ほぼ不可能です。
にもかかわらず、それぞれの治療方法は、まったく違います。
カビが原因であるマラセチア毛包炎に対し、ニキビはアクネ桿菌(かんきん)という細菌が関係する症状です。
そのため、有効な治療方法も、薬もまったく違ってきます。
無駄な治療をしないためにも、マラセチア毛包炎とニキビを、病院の診察できちんと判別してもらうことは、とても重要なんですね。
どうすれば、マラセチア毛包炎だとわかるのか?
ニキビとマラセチア毛包炎を、確実に判別するには、少し手間がかかります。
どうすれば、マラセチア毛包炎だとわかるか?
患部から「マラセチア(癜風菌:でんぷうきん)」が、多く見つかれば、マラセチア毛包炎だと確定できます。
それには、顕微鏡検査をおこないます。
ブツブツの内容物を顕微鏡でのぞいて、円形、ピンボール、だるまのような独特な形をした真菌(カビ)が、多数見つかる。
そうすれば、マラセチア毛包炎だとはっきり診断できるわけです。
マラセチア毛包炎の治療方法
マラセチア毛包炎は、治りやすい症状です。
抗真菌外用薬(カビの生育をおさえこむ塗り薬)が、マラセチア毛包炎の治療には、よく使われます。
抗真菌外用薬には、たくさんの種類がありますが。
中でもイミダゾール系(商品名:ニゾラールなど)といわれる抗真菌外用薬が、よく効くことが知られています。
症状がひどく、塗り薬がなかなか効かない場合に限り、イトラコナゾール(ITCZ)という飲み薬を1週間程度、服用することもあります。
肌を清潔に保つことも、マラセチアを増やしすぎない条件になりえますが、それで劇的に変わることはないと考えられます。
そういう意味では、
・ 過度な清潔
・ 無茶な消毒方法
などに効果を期待するのは、好ましくありません。
たとえば、消毒薬で肌の消毒をしたり、必要以上に体を洗う、とかですね。
ただ、「塗り薬でマラセチア毛包炎は治りやすい」とはいうものの、すぐには消えてくれません。
1~2ヶ月、症状がなくなり切るまで、コツコツ塗り続けるのが、治療のコツです。
中途半端で塗るのをやめてしまうと、また再発を繰り返すことも多くなってしまいます。
再発を繰り返すと、黒い色素沈着がなかなか消えてくれないこともあります。
アトピーとどう関係あるの?
アトピーとマラセチアの関係で、1つ気になることがあります。
それは、
一部のアトピーの患者では、マラセチアに対してアレルギー(IgE抗体)をもってしまい、アトピーが治りにくいのではないのか
と指摘する報告が、いくつかあることです 2, 3) 。
そういう意味では、アトピーもひどいけど、マラセチア毛包炎、癜風(でんぷう)、脂漏性皮膚炎がひどい。
そういう場合は、きちんとそれに見合った治療をするというのも、アトピーの悪化因子を少しでも減らすことにつながるのかもしれません。
ステロイド外用薬は塗ってもいいのか?
アトピーとマラセチア毛包炎の症状が、いっしょのところに出ている場合。
困るのは、そこに「ステロイド外用薬を塗ってもいいか?」ということです。
なるべくなら、マラセチア毛包炎が出ている場所には、ステロイド外用薬は塗りたくありません。
なぜなら、ステロイド外用薬は、塗ったところの皮膚の炎症をおさえると同時に免疫を低下させてしまうからです。
免疫が低下するということは、マラセチアの活動をサポートすることにもつながりかねないわけです。
現在のところ、「アトピーだとマラセチア毛包炎なりやすい」などの指摘は、されていません。
ただし、ステロイド外用薬に免疫を低下させる可能性がある以上、マラセチア毛包炎を誘発させるケースがあることも考えられます。
だから、ステロイド外用薬を塗りたくない。
かといって、湿疹がひどいのにステロイド外用薬を使わないというのも、アトピーの治療を難しくしてしまいます。
そこで、アトピーとマラセチア毛包炎が混在するところは、ステロイド外用薬と抗真菌外用薬、両方を使うという道を選ばざるをえない時もあるんですね。
そういう場合、実際にどう治療の筋道を立てていくかは、
・ アトピーとマラセチア毛包炎の症状・経過
・ お医者さんの知識・経験
・ 患者さんの意見
これらを総合して、よく相談をしたうえで決めるのがベストです。
参考文献:
1) 佐々木 靖之, 松永佳世子ほか: マラセチア毛包炎病巣部から分離されたMalassezia spp.の同定. JPT Supplement.1 48: 79, 2007.
2) 向井 秀樹, 金子 聡, 斉藤 典充, 長瀬 彰夫, 新井 達, 平松 正浩, 加藤 博司: アトピー性皮膚炎における抗マラセチア特異IgE抗体の臨床的意義. アレルギー 46(1): 26-33, 1997.
3) 神戸 俊夫, 小山 友来: マラセチアとアトピー性皮膚炎-患者血清中の抗マラセチアIgE抗体からの検討. 真菌誌: 44(2),71-75, 2003.