ぐるりのこと / 梨木香歩 - 読書感想 | 本とか旅とか

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この週末は恵みの雨でしたね。庭の植物たちが元気がなかったのがおかげで一気にしゃっきり。


さてさて、今週読んだ本は梨木香歩のエッセイ。もう1つのエッセイ『春になったら苺を摘みにの感想を書いた時(ブログ記事はコチラクリック)、コメントでこの『ぐるりのこと』のことを教えていただきました。(ウリボンさん、ありがとうございました!) 早速手に入れて少しずつ読んでたのがやっと終わったので感想を。


ぐるりのこと / 梨木香歩


おすすめ度:★★☆

旅先で、風切羽の折れたカラスと目が合って、「生き延びる」ということを考える。沼地や湿原に心惹かれ、その周囲の命に思いが広がる。英国のセブンシス ターズの断崖で風に吹かれながら思うこと、トルコの旅の途上、へジャーブをかぶった女性とのひとときの交流。旅先で、日常で、生きていく日々の中で胸に去 来する強い感情。「物語を語りたい」――創作へと向う思いを綴るエッセイ。 (出版社HPより)


これもまた、感想の書きにくい1冊です。いいか悪いかと問われたら、もちろんいい。抜群にいい。でも何がいいの?と聞かれたら、返答に困ります。


タイトルの『ぐるりのこと』とは、周りにあること、という意味のぐるり、だそうです。つまり身近なことに関するあれやこれ。でも、梨木香歩は、色んなところを旅しているし、取材も広範囲に及びます。このエッセイが書かれたのは沼地のある森を抜けての直前のようで、キノコや菌糸類についてもかなり詳しく調べているようです。(『沼地のある森を抜けて』、最近大好きになった1冊です。いつか感想書きますね。)つまり、『ぐるりのこと』と言っても、その思索は色んなところに飛んでいきます。


そして彼女の興味の対象はやはり『私』と『あなた』。異なった文化・宗教・国家に属する『私』と『あなた』は、いつか本当に共感することはできるのか? これ、突き詰めて考えると本気で頭が混乱するし、そんなのムリ!と言いたくもなります。でも、彼女は今回、1つ魔法の言葉を獲得したようです。『しょうがないなぁ』というのがそれ。


ちょっと長いけど、引用してみますね。


しようがない、と肩を落とすことと、しようがないなあ、とため息をつくことは、まったくニュアンスが違う。(中略)しようがないなあ、の方は、あきれた感じと、本来つきあいきれないものだけど、つきあってゆくよ、という、相手の存在を許して丸ごと受け容れる感じがあって、これはなかなか英語にできない、日本語、或いは日本人独特の言葉だと思う。どちらかといえば母性的な味わいがある。
(引用おわり)


梨木香歩は、世界の様々な不穏な動きに対して、真摯に受け止め、感じ、考えながら、時に『しようがないなあ』と肩をすくめて受け流しています。そしてその後は考えを軌道修正してまた深く思索にもぐっていく。


『春になったら苺をつみに』は、梨木香歩の物語の続き(あるいは前日譚)を読んでいるような、ふわりと浮いた印象があったのですが、この『ぐるりのこと』は、彼女が意識してそうしたのか、地に足をつけて歩みを進めている感じがします。そして締めの言葉が強烈。


物語を語りたい。
そこに人が存在する、その大地の由来を。



作家、梨木香歩の決意表明とも取れるこの1冊。重苦しい部分もあり(世界的にも重苦しい出来事が重なったタイミング)、読むのにエネルギーがいります。読後に爽快感もありません。だけど、この締めの言葉を読んだ時に、じわっとこみ上げてくるものがありました。おすすめの1冊、とは言えませんが、読んで損はないと思います。


うーん、やっぱりこの本の感想を書くのは難しいです。伝わるかな?伝わったかな?


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■梨木歩香その他の感想はコチラ
『裏庭』
『f植物園の巣穴』
『雪と珊瑚と』
『春になったら苺を摘みに』


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