なんて事があります。
反対に、
言ってる事はツッコミ所が満載なのに、なぜだかこの人の話は素直に聞ける。
なんて事もあります。
果たしてこの差は何なのか、つきつめると話をしている人のことを好きか嫌いかに分かれるように思います。
話を聞く側としては、何を言われたかがポイントなのではなく、誰に言われたかがポイントだからです。
そしてこれこそが説得力の正体なように思うんです。
~
イジメられていた頃の僕には説得力の欠片もありませんでした。
意見を述べなければならない時に少しでも噛んだり文脈がわかりづらくなってしまうと「あーもういい」と強制終了させられていたからです。
周りの連中はハナっから僕の話を聞くつもりがないから、僕が自分なりの「快心の一撃」を言おうともその後の進展に反映させるつもりがない。僕の意見が「なかったこと」になるからです。
その「快心の一撃」ってただ自分がそう思ってただけなんじゃないの?ですか。
話し合いが行き詰まった時、クラスの「出木杉君」が僕の「快心の一撃」に似たアイディアを出したらソッコー可決されるんです。
極めて似たアイディアなのに、出木杉君は賞賛の嵐を浴びる一方で僕が浴びたのは「役立たずはいない方が良かった」という疎外感。
あの時「白い目」を浴びて、やっぱり他人はクズなんだと思いました。
同時に、説得力ってのは「何を言ったか」ではなく「誰が言ったか」であり、人に話を聞いて貰える力こそが説得力なんだと感じた瞬間でした。
~
それから何年も経ち、東京での仕事で「ナンバー2」を任されるようになります。
子供の頃に全く認めて貰えなかった反動からか、ナンバー2になれた事で「おっしゃ!頑張ってたから認められた!大人は簡単だなフゥ~」とか思ってました。
そこから職場では僕の「剛腕」が始まります。
ヘラヘラすんな!それでミスってもケツ拭かねぇぞ?
言われて「はい」ならガキでもできる。
てめぇガキ以下か?
僕は「正しい」ので、自分のやってる事に1ミリの懸念もありません。
それでも中々改善されない所がある。
募るイライラが頂点に達した時、僕はこう思いました。
そうだった!コイツら人間じゃなかったわ!
クズなんだから出来なくて当然だわな。
金だけ貰って何にも出来ねぇクズなんだから何言われてもしょうがないわな。
正直「氏ね」という言葉を発した回数も片手では足りないと思います。
なんにもやりやしねぇ貴様が文句垂れれる権利なんてあると思ってんの?
まーた遅刻かよ!どうせ昨日もナンパだろうがこのチ◯ポザルが!
~
僕が「剛腕」から「暴君」に変わった頃、僕の同期で当時のエリアリーダーである池田(仮名)から声をかけられます。
「どうすれば仕事キッチリできるか」を考える僕と違って、池田は「どうすれば楽しくなるか」を考えるタイプ。職場きっての人気者です。
いや~さすがにマズいって。アレが続くとパワハラになっちゃうって!
うるせぇ!儂は3才から15才までノンストップでパワハラ受けてきとんじゃい!
大人になった途端パワハラはナシってか?ざけんな!
だいたいなあ!クズにクズっつって何が悪い!クズなんだから何言われてもしゃーないやないか!
むしろ義務教育終わってなおクズならガキよりタチ悪いわ!精子からやり直してこい!
もしクズがクズじゃなくなったら人間扱いしてやるよ!
僕は僕で「自分は正しい」と信じこんでいました。
そしてこんな僕の言うことを、池田は黙って聞いてくれた。
でね、思いの丈を吐ききった時にね、気づいたんです。
そう言えば自分がどれだけ正しくても、誰も僕の言うこと聞いてくれないなぁって。
ここで池田、僕という人間の画期的な取り扱い方法を思いつきます。
わかった!じゃあ下の者がなってなかった時は基本的に俺が注意するよ。
で、あまりにも酷い時は頼むわ!
でも汚い言葉はナシね!
「汚いクズに汚いっつって何が悪い?」という反論を飲み込み、その案を承諾します。
~
それからというもの、僕が「暴君」になることはありませんでした。
池田が全て水際で止めていたからです。
なんなら指摘していた点は僕が指摘していた事と全く変わらない。
それでも不思議なことに、職場全体に活気が溢れるようになってきた。
そして自主的に行動できる人間も増えてきた。
何より、職場に笑顔が増えた。
~
ここでね、思い出すんです。一人ぼっちだった頃の自分の心境を。
僕の話なんて誰も聞いてくれないし、僕が「仕方なく」発言しなければならない時であっても「かすかな揚げ足」で強制終了。
何言ってもバカにされ、何やっても否定される。
するとどうなるかというと、「だれの話も聞いてやるもんか!」って思うんです。「嫌いなヤツの影響なんて受けるものか!」って頑なに思うんです。それがどれだけ正しくても。
僕はね、子供の頃に「されて嫌だったこと」を大人になってやっていた。
大人になってなおクズだったのは他の誰でもない、僕の方だった。
~
なんつーか、その仕事やめたろーかと思ったんです。僕の「完全敗北」だからです。
そんな「引き際」を考えていた頃、池田にこんな事を言われました。
いや~俺は怒るの苦手だからさぁ、怒るべき時でもブンさんみたいになれないんだよ。だから「ここぞ」という時は頼むよ。
それでも汚い言葉はナシね!
説得力ってこれの事かぁと目から鱗が落ちました。
なんといいますか、もしこの言葉が池田以外の人間による発言ならブチきれていたと思います。
なのに池田の言葉なら、スッと素直に聞けた。
暴君当時の僕の「思いの丈」を聞いてくれた事を含め、「コイツの話なら聞いてやってもいいか」という気持ちが湧いたんです。
なんといいますか、人を動かす時って正しさや理屈があまり関係ないっていう。
そもそも池田は仕事においてイージーミスするタイプなんです。
でもね、そんな「結果」なんて関係ない。
大切なのは、「この人の話なら素直に聞ける」と思われる力なんだなっていう。
その為に池田は理屈じゃなく心で話してくれた。
「かなわねぇな」と思った瞬間、僕は暴君から剛腕に戻れたような気がします。
それからというもの、「三度目までの仏の顔」役を池田、「四度目以降の仏」役を僕がやるというバランスが誕生します。
もちろん汚い言葉はNG。
そして「どうやったら楽しくなるか」という池田のやり方をパクった僕は数年後、職場のエリアリーダーを任されるようになったという話です。
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