第35回:省エネにも、健康にもなる家づくり/低燃費住宅・石川義和社長インタビュー(前編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

◆会津電力の佐藤彌右衛門さんがシェーナウ環境省を受賞!

 ご当地電力リポート第35回です。まずは嬉しいお知らせです。福島県のご当地電力「会津電力」社長の佐藤彌右衛門さんが、ドイツの市民電力会社であるシェーナウ電力から環境省である「電力革命児」賞を受賞しました。酒造会社の社長である彌右衛門さんが、原発事故をきっかけに地域の自立をめざしてエネルギー事業をはじめたことが評価されました。福島での意義ある取り組みが、世界に広がってきました!このリポートでとりあげてきた各地のご当地電力も次々と新しい展開を迎えています!お伝えするぼくも、ますます気合いが入ります。
受賞に関する詳しい情報はこちら
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会津電力の佐藤彌右衛門さん

◆ローカルエネルギーフェスタin仙台

 8月24日(日)に、エネ経会議が主催するローカルエネルギーフェスタ仙台が開催されます。
太陽光発電設備の見学やシンポジウムなど盛りだくさんの内容です。ぼくは太陽光発電を使った自然エネルギー工作のブースを担当させていただきます。参加をお待ちしています。

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◆エネルギーパスを実現する住宅づくり

 さて、今回のリポートは「低燃費住宅」というエコ住宅づくりの特集です。前回紹介した住宅の省エネ性能を計る「エネルギーパス」という指標を活かして、実際に住宅をつくっている建築会社の方に、話を伺いました。

 訪ねたのは、香川県で「低燃費住宅」を販売する施工業者の石川義和さんです。石川さんは、地元の住宅建設会社「株式会社石川組」の社長さんです。2011年からは、ドイツを参考に省エネ住宅を広める「株式会社低燃費住宅」を早田宏徳さんと立ち上げ、そこでも社長を務めるようになりました。

 エネルギーパスの考え方は刺激的なのですが、ぼくはそれ以上に、なぜ四国で省エネ住宅を実践しようとしているのかという部分に興味を持ちました。もし、寒さが厳しく、光熱費を大量に使う北海道でそのようなプロジェクトをやっていたとしたら、あまりにも当たり前なので、自分は取材に行かなかったかもしれません。でも、温暖な四国で省エネ住宅に力を入れていると聞き、「これは行って取材をしないと!」と考えました。それでは、インタビューをご覧ください。


「低燃費住宅と出会って人生が変わった」と言う石川義和さん

◆衝撃的だったドイツ訪問
Q:普通の日本の家をつくっていた石川さんが、なぜ低燃費住宅を手がけるようになったのでしょうか?

石川:「低燃費住宅」は、ドイツの建物の要素を日本にも取り入れようというもので、建築コンサルタントの早田宏徳さんが考案した住宅です。早田さんは、建築関係の仕事をしていました。日本では先進的な省エネ住宅をつくっていたつもりだったのですが、ドイツを訪れて日本とは価値観も設備もまるで異なる建物に衝撃を受けます。自分がつくっていた建物が、ドイツではまるで話にならない省エネ性能だったことを知るのです。そして、数年かけてドイツで学び、日本でもこの建物を広めようとしていました。

 私は香川で従来の工法で家をつくっていましたが、2010年の春に彼のセミナーに参加して、その話にショックを受けました。でも話だけではわからないので、早田さんと一緒にドイツに行ったのです。

 まず驚いたのは、カビの研究所に行ったことです。ドイツの建築関係者は、まずカビのことを徹底的に学びます。どうすればカビが発生しやすくなるのか、逆にどうすれば温度や湿度をコントロールして、カビが発生しない快適な家をつくれるのかについて学びます。それは、住宅が健康と結びついていることを良く知っているからです。カビは湿度70%を越えると急速に繁殖します。また、湿度50%を切ると今度は冬にウイルスが広がります。日本の住宅は、夏はカビが、冬はウイルスが繁殖しやすい条件が整っている環境なのです。

 ドイツの住宅では、日本では考えられないような高断熱や、樹脂サッシが当たり前に使われていました。この20年くらいでそうした技術はどんどん進んでいて、外から見ただけではわからないように隠されています。しかし、古い建物でもリフォームされているのです。考え方は、パッシブハウスと同じですが、日本のように見るからにパッシブハウスというものとは違うんですね。

 ただ、そのドイツを訪れてすぐに認識が変わったかというとそうではありませんでした。ドイツはドイツだし、日本とでは気候も違う。しかも私の会社は香川の高松市にあります。高松は日本でも温かい所だから、関係ないんじゃないかという思いがどこかにありました。それでも、早田さんと一緒にビジネスをやろうという話をしていたので、ひとまず香川に低燃費住宅のコンセプトで展示場をつくりました。そして、私自身がそこで1週間生活してみたのです。これが決定的でした。ぜんぜん違う、もう売るしかないと、考え方が変わったのです。


日本の一般的な住宅の断熱材(グラスウール)と、施工方法。施工の仕方や他の業者との連携が取れていないと隙間が多く、ビニールが破けてしまうこともある


低燃費住宅で主に使われている断熱材のセルロースファイバー。施工はぎっしり敷き詰めて、隙間ができないようにする。熱に強く、湿気を内にとどめない性質のため、断熱を厚くしても湿気がこもりにくいという


◆温度と湿度をコントロールしてくれる家
Q:低燃費住宅の最大の特徴は何でしょうか?

石川:日本の一般的な家と何が違うかと言うと、空気感がまったく違います。断熱をしっかりしているので、夏も冬もエアコンはほとんど使わなくなります。通常の家は各部屋にエアコンがついていて、家に4台も5台もあるというのが普通になっています。展示場は2階建てで33坪の家ですが、エアコンは1台あるだけで、しかもほぼ使いません。今は企業が「スマートハウスがエコだ」と宣伝していますが、エアコンが5台も6台もある家の、どこがエコなんでしょうか?本当に健康にもエネルギーにも家計にも優しい家というのは、エアコンが必要のない家だと思います。

 最近では、日本でも色んな種類の断熱材が選べるようになりました。断熱材自体は、高性能なものも増えています。しかし、そうした高性能な断熱材を効果的に住宅に使用する知識や技術がまだまだ不足しているのです。

 温度と湿度をコントロールするために、家の壁は、雨は防いで水蒸気は外に出す、さらには湿度調
節をできるものにしなくてはいけません。特に壁の中に水蒸気がとどまってしまうような間違った施工をしている例が、日本の建築現場では多いのです。
 
 それから、サッシも結露の原因になっています。日本ではほとんどがアルミサッシですが、アルミはとても熱伝導が良いので、内と外の温度差が高ければ必ず結露を起こします。窓枠は拭いても、壁の中も結露するようになるので、対策のしようがありません。ドイツで使われている樹脂製のものは結露を起こさない工夫が満載されています。


日本の一般的な住宅のアルミサッシ


低燃費住宅の樹脂サッシ。内部にもアルミなどは使われていない

 私のスマートフォンからは、展示場の温度と湿度と二酸化炭素、そして外気温と外の湿度のデータをいつでもチェックできるようになっています。室内の温度と湿度は、真夏も真冬も含め、若干の空調利用のみで年間を通じてほとんど変わりません。温度が20度から23度程度で、湿度は50%から60%を保っています。さすがに外気温が極端に下がると室内は2度ほどは変化しますが、それでもほとんど影響はありません。こんなことは日本の住宅ではまず考えられないので、データを見ても「嘘やろ!」と言って信じてくれないんです。だから、展示場を見せるだけではなく、宿泊体験をしてもらうのです。そこでお客さんは初めて納得してくれるのです。

(後編につづく)

◆関連リンク
低燃費住宅(工務店のネットワーク) 
株式会社低燃費住宅 四国 
日本エネルギーパス協会