第36回:省エネにも、健康にもなる家づくり/低燃費住宅・石川義和さんインタビュー(後編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

 
高橋真樹が福井県小浜市で自然エネルギーの講演を行います。
お近くの方はぜひお問い合わせください!
8月9日 福井県立大学オープンカレッジ 

 ご当地電力リポート第36回は、前回につづき、「省エネにも健康にもなる家」低燃費住宅の特集です。低燃費住宅のコンセプトは、パッシブハウスと同じように、無駄なエネルギーをできるだけ使わないようにする工夫をすることです。気密、断熱をはじめとして夏も冬も快適に過ごせる環境をつくることで、冷暖房機器そのものがほとんどいらなくなるという画期的な取り組みは、取材者のぼくにとっても衝撃的でした。しかし、そうはいっても自分の会社の方針をまるっきり違う方向に変えるのは勇気がいったはず。今回は、低燃費住宅の石川社長に、その辺りを中心に伺っています。


高松市内にある低燃費住宅の展示場。見た目は一般の住宅と変わらないが、快適性がまるで違う

◆お金では計れない価値がある

Q:現段階では低燃費住宅の価格はいくらくらいでしょうか?

 同じ規模の一般の住宅と比べて低燃費住宅にしたら価格がどれくらい上がるかということですが、現在は断熱材などを輸入しているので、プラス300万円くらいでイメージしていただければ良いかと思います。これが注文が増えていったり、日本で材料をつくれるようになればもっと下がるはずです。

 初期投資は確かに少し高くなりますが、光熱費はぜんぜん違います。例えば、低燃費住宅ではオール電化にしたとしても年間で電気代が10万円程度です。同様の使い方をすると、一般の家ではその3倍から4倍かかるはずです。また、快適度がまるで違うので、私はぜんぜん比較にならないと思うのです。現に、うちの社員がいま5人ほど、低燃費住宅を建てています。決して給与が高い訳ではありませんが、健康とか快適さを考えて、どうせならこれを建てたいと思うのです。生活の質を考えたら、金額では計れないものがありますね。

 日本では通常、お金を断熱材やサッシにはかけません。壁を薄くして、キッチンとトイレとお風呂にお金をかけることが多いのです。でも、そうした内装は全部20年以内に造り変えるものです。予算が限られていればこそ、もっと長く使えて快適になる断熱に予算をかけるべきだと私は考えます。こういったことが、日本では建築のプロの間でもほとんど知られていないのが最大の問題なのです。

◆お客さんの希望通りの家が、お客さんのためになるわけではない

Q:石川さんが低燃費住宅に出会う前は、どのような家づくりをしていたのでしょうか?

石川:以前は主に施主の思い描いたような家をつくる、デザイン住宅を手がけていました。そのときのこだわりは、地元の職人と、地元の木材でつくりたいということと、お客さんの思い通りの家をつくって喜んでもらいたいというものでした。香川で20年前にデザイン住宅をはじめたので、その分野では先端をいっていたはずです。


低燃費住宅の石川義和さん

 デザイン住宅は、引き渡しのときは「私の夢がかないました!」とものすごく喜んでくれます。ところが、半年もたたずに、あそこをああしておけば良かったとか、いろんなクレームが出てくるのです。そもそもデザイン住宅を注文するような人は、おしゃれな人です。おしゃれな人は、去年の服を着ませんよね?だから必ず飽きがくる。でも住宅は何十年も使うからその辺のギャップが出てくるのです。

 結局、デザイン住宅というのはブランドもののバッグを買うのと基本的には同じメンタリティなのです。もちろん、それが間違いということではありません。でもそれは長く使って居心地が良いというわけではないのです。

 うちの会社がシフトした理由は、家はデザイン性よりも、長く住み続けられて快適なものを優先した方が良いと感じたからです。今から思えば、それまで安直にお客さんを喜ばせようとしていましたが、それは建築のプロとしての責任転嫁だったのかもしれません。その姿勢が、本当にお客さんのためになっていたのかとも疑問に思います。家は30年もローンを返しながら生活していく、人生を左右するものすごい大きなアイテムです。それをデザインだけを重視して、快適さを軽視するのはダメだと思いました。


低燃費住宅のベッドルーム。見た目は一般の住宅と区別がつかないが、一般の住宅よりエネルギー効率が3-4倍高い


日本の一般的な窓枠は、施工しやすいように外側から設置するが、ドイツなどでは気密性などを考え、家の内側から設置する

◆低燃費住宅にして売上も伸びた

Q:急に方針を転換して、社内の方からの反応はどうでしたか?

 まあ大変でしたね(笑)。うちの社員は建築部門で28人で、他の部門も入れると全部で50人いますが、当初は社内が半分に割れました。せっかくここまでデザイン住宅でやってきて、売れてきたところなのに…と厳しく言われたのです。社長は何考えてるのかって思ったでしょうね。私自身が思ったように、ドイツではいいものを使っているかもしれないけれど、ここは日本で、しかも香川だし、そんな住宅が必要あるのか…と思うのも仕方のないことだったのです。

 でも社員をドイツに連れて行ったり、展示場をつくって宿泊体験をしてもらう中で、少しづつ理解してくれるようになってきました。今では住宅部門の全社員がドイツを訪れています。
 そうは言っても、低燃費住宅は値段も高いし、暖かい香川だし、なかなか売れないだろうと思っていました。ところが、2013年は香川を中心に、四国で60棟も売れたのです。これには私たち自身が驚きました。それまでのデザイン住宅では、最高で年間45棟でしたから。

 うちの社員が変わったのが大きいですね。これは必ずお客さんのためになる家だと、真剣に向き合ってくれるようになりました。家作りという点では以前と同じなのですが、今までの「売ったら終わり」という仕事とはまるで違うという手応えがあります。
 

壁に近い断熱材のミネラルロックウール。湿度はたまらないが、火には強い。バーナーであぶっても問題ない

◆世の中のためになる家づくり

Q:なぜ香川で低燃費住宅を広めようとしているのでしょうか?

石川:なぜ香川かというのは、ひとつは私がたまたま香川で建築をやっていたという理由ですが、もうひとつは、高松で売るのは難しいがここで売れるなら全国どこでも売れるという実験的な意味合いもありました。

 日本ではヒートショックで死んでいる人が、交通事故の死者より多く出ています。ドイツの家ではヒートショックはありません。香川県は特にヒートショックが多い県です。香川、愛媛、広島、岡山などの瀬戸内地方は毎年だいたい心臓、血管系で亡くなる人がベスト5に入っています。それは冬は寒くなるのに、家に何の断熱対策もされていないからです。室内で防寒着を着なきゃいけないという状態は、ヨーロッパの人には理解できないでしょう。例えば真冬にお風呂に入る際、30度の部屋から5度の脱衣所に行って裸になり、42度のお風呂に入るというと、温度差がものすごい。体がついていかないのです。北海道などは対策をしているので亡くなる人はほとんどいません。 



日本の最新式の省エネサッシ(左・2重窓)と、ドイツの一般的な省エネサッシ(右・3重窓)の比較。窓枠は、素材だけでなく気室と呼ばれる部分が多いほどエネルギー効率が良いとされる

 ドイツの家作りの思想というのは、健康をつきつめていったらエネルギーにたどりついたというものです。そして温度と湿度をコントロールすれば、健康にもなるし、エネルギーにも直結する。すごくシンプルなことです。

 私は、このことを知ってしまったからには、たとえ「今までと言っていることが違う」としかられても、やらなければならないと思いました。今までは知らなかったから仕方ないとしても、知っているのにやらないというのは最悪です。自省も含めて言うのですが、特に建築に関わっている人には意識を変えて欲しいですね。日本の建築業界が、自分たちの仕事で世の中を良くしていけるんだと、胸を張れるような社会になれば良いと思っています。

(前編はこちら)

◆関連リンク
低燃費住宅(工務店のネットワーク) 
株式会社低燃費住宅 四国 
日本エネルギーパス協会