第37回:エネルギーで生産者と消費者をつなぎたい/ 生活クラブ・半澤彰浩さん | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

 ご当地電力リポート第37回は、いわゆる地域にベースを置くご当地電力とは少し異なった生協のエネルギーへの取り組みを紹介します。

 生活クラブは、21都道府県に34の生協と約35万人の会員を持つ老舗の生活協同組合です。生活クラブのエネルギーの取り組みとしては、全国の生協として初めての風車を建設したり、配送センターに太陽光発電を取り入れたりと積極的な「創エネ」をすすめてきました。また、2014年中には、自然エネルギーによる「グリーン電力」を自前で調達するPPS(特定規模電気事業者)である「生活クラブエナジー(仮称)」も設立する予定です。生協がなぜこれほどエネルギーに熱心なのでしょうか?生協のこうした動きは、いずれご当地電力と一般の消費者をつなぐ流れへと展開していく可能性も出てきています。生活クラブ神奈川の常務理事で、エネルギー部門を担当する半澤彰浩さんに話を伺いました。


生活クラブ風車「夢風」誕生一周年イベントより(提供:生活クラブ生協)

◆生協が風車を建てた理由は?

 生活クラブの風車は、首都圏の東京、神奈川、千葉、埼玉という4つの生活クラブ生協が協同して建てました。2009年から相談を始め、秋田県にかほ市に建設。出力1990キロワットの風車「夢風(ゆめかぜ)」を稼働させたのが2012年3月です。きっかけとしては、私が所属する生活クラブ生協神奈川の40周年記念事業に「風車をつくろう」という案が上がりました。

 なぜ風車だったかと言えば、日本で初めて市民風車を建てた北海道グリーンファンドが、生活クラブ生協・北海道を母体にしてできたグループだったからです。北海道グリーンファンド理事長の鈴木亨さんからもいろいろ提案をいただいていたこともあります。ただ、風車をつくるという大きなプロジェクトを神奈川だけでやるのはもったいないので、首都圏の4つの生活クラブが一緒にやろうということになりました。

 もともと生活クラブ生協では、温暖化対策を掲げて、事業の中で環境負荷を減らし、CO2の削減につながる行動に努めて来ました。調味料や牛乳の瓶をリユースして工場に回したり、プラスチックのゴミを出さない包装容器を独自に開発するなどといったことです。また、工場や事業所の省エネ、配送車のアイドリングストップなどを行っていました。それでも十分とは言えないので、今度は自分たちでエネルギーをつくって共同購入しようという声があがってきたのです。

 しかし生協の出資金を使って1基数億円する風車をつくる提案は、これまでのパッケージのエコ化などとは規模が異なります。当初は組合員から、「なぜ食べ物ではなくエネルギーを扱うのか」とか、「そんなにお金をかけてつくる必要はない」といった声があがりました。おおぜいの組合員でいろいろな場所で、たくさんの議論を行い、1年半後の総代会で建設を決議しました。

 その議論の最中に、3・11が起こりました。原発事故の危機を実感して、私たちの議論の流れも大きく変わりました。それまで反対していた人たちからも、「自分たちもエネルギーをつくろう」「まずはモデル事業を」という声が増えてきたのです。最終的に決定したのは、その年の総代会でした。資金は生協の出資金の一部を一般社団への出資と融資した他に、組合員からのカンパが1700万円ほど集まりました。


生活クラブ生協の半澤彰浩さん

◆風車の収益で地域活性化を 

 風車は2012年3月に稼働して、PPS(特定規模電気事業者)を通してグリーン電力証書で環境価値をセットし、生活クラブの事業所に供給することにしました。しかし、風車の電力の価格は安く、当初は事業としての採算が厳しい状況でした。改善したのは、2012年7月に固定価格買取制度(FIT)が施行されてからです。適切な価格で買い取ってもらえるようになったので、グリーン電力証書にせず全量売電をすることにしました。今のところ順調に発電してくれています。

 一方、グリーン電力証書を使えなくなったので「自分たちでつくったエネルギーを自分たちで使う」ということができなくなりました。それをどうしていくかは今後の課題と考えています。

 秋田県にかほ市に建てた理由は、風況(風力発電のポテンシャル)がとても良いからです。今後は風車が建った地域の人たちと人的交流を深めるために、風車の収益を使っていければと考えています。すでに「にかほ市」の人たちととも8月にフォーラムを開催し「地域間連携による持続可能な自然エネルギー社会づくりに向けた共同宣言」を行い、生活クラブとにかほ市、グリーンファンド秋田で調印を行い、共同宣言を実現していく組織として「にかほ市と生活クラブ連携推進協議会」を立ち上げ、風車の視察会や交流会をはじめています。そこから交流人口の増加、人材育成や特産品の開発など、風車の建設が「縁」で地域活性化につながる波及効果になればと思います。

 過疎が進んでいるにかほ市では、一基の風車であっても、交流人口が増えることを期待してくれています。私たちとしても、生産者との消費材の共同開発は生活クラブの得意分野なので、特産品をつくっている生産者の連絡会を立ち上げ、独自品の開発の検討をしています。

 現在、取り組んでいる地域の特産品は「ハタハタの加工品」「いちじくの加工品」などですが、日常的に食べるものではないので、生協で継続して扱うのは難しいのです。そこで、まだアイデア段階ですが、国内自給率の低いケチャップで使う国産トマトやなたね油の菜種、ソバ等をつくってもらうことも考えています。「夢風(ゆめかぜ)」という風車の愛称は、にかほ市の小学生がつけてくれました。いずれ「夢風ブランド」の特産品をつくれたらいいですね。

◆「生活クラブエナジー」でエネルギーの共同購入をめざす

 私たちにとって風車の建設は、「エネルギーを選べる社会」をつくるための最初のステップという位置づけです。現在は各配送センターなどの屋根で太陽光発電設備も増やしており、2014年5月現在の再生可能エネルギーの合計出力は全国で6635キロワットになります。

 そうした発電設備を増やしながら経験を蓄積し、次のステップとして生活クラブ独自の電力会社をつくり、組合員に電力を直接供給したいと考えています。それが「生活クラブエナジー(仮称)」構想です。

 生協がPPSをつくるというのは、パルシステムさんが一歩先に実現しています。それも参考にしながら、生活クラブのほかに生産者の出資参加してもらい新しいエネルギー会社として今年の10月には設立する予定です。当初は風車と同じく首都圏の4つの生協でつくろうと計画していましたが、話し合いの結果、全国の生活クラブが出資して設立をすることになりました。

 その方が、今まで培ってきたネットワークを活かせるでしょう。首都圏は食だけではなくエネルギーも消費する側です。一方で東北地方は食もエネルギーもかなりの量を生産しています。全国規模で活動すれば、生産者から消費者に直接届けるという生協ならではの取り組みを、エネルギー分野でもダイナミックな形で実現できるはずです。

 創エネという意味では、首都圏ではどうしても太陽光が主流になります。しかし、東北では小水力やバイオマス、風力などさまざまな可能性が出てきます。また、農地と併用するソーラーシェアリングもできるでしょう。それを首都圏の消費者が直接応援することも考えたい。電力自由化が進めば、その電力を消費者が直接選ぶことも出来るようになるでしょう。まさに誰もがエネルギーの生産者になることができるし、消費者にとってはエネルギーを選ぶことのできる社会が実現するのです。


秋田県にかほ市に設置された生活クラブ風車「夢風」(提供:生活クラブ生協)

◆全国の「ご当地電力」と連携を

 そのビジョンを実現するにはもちろん時間もかかりますし、多くの課題があります。首都圏の4つの生協では、風車建設に当たってエネルギーについての学習会や議論を盛んに行ってきたことで、理解が深まってきたという手応えがあります。しかし、今回は全国でやることになったので、他の生活クラブの理解がすすんでいるとは言えません。それは仕方のないことなので、徐々に理解を広める努力をしているところです。

 テクニカルな課題としては、PPSとして運営する場合の電源が足りないという問題があります。太陽光はそれなりに保有していますが、風車は1基しかないので変動が大きく、今の所はサミットエナジーというPPSに売電しています。電源をもう少し増やすためにどうするか、いろいろ調査しているところです。

 数年先の一般家庭への小売り自由化を考えると、いま各地で立ち上がっている「ご当地電力」の電力の売電先になるとか、既存のPPSと連携するといった動きも必要になります。私は日本生協連で電力事業研究会の委員もやってきましたが、パルシステムやうち(生活クラブ)だけでなく、日本各地の生協がそうしたPPSを立ち上げて連携したら、新しい展開が早く実現するかもしれないと考えています。そのためにも、国には電力自由化と発送電分離を、早急に実現してもらいたいですね。

 地方では電力会社が王様のような存在で、太陽光発電を導入しても東京電力や東北電力に売ることしか考えられない人がまだほとんどです。例えば私たちのような小さな電力会社が、そこから切り替えて売ってくださいと言っても、怪しまれてしまうのです。現状では「そう言う会社があるんですけど信用できるか」と既存の電力会社に相談に行くのです。そうしたら電力会社は当然「やめた方が良い」とアドバイスします。

 しかしルールが変わり、送電会社に誰でも乗り入れられるという形になれば、人々のエネルギーに対する意識も「東北電力以外にも売れるんだ」というふうに変わっていくはずです。国には、自由競争を推進したいのであれば、新規参入の業者が対等にやれるようなルールを整備して欲しいと思っています。
 
 組合員の出資で自然エネルギーを開発する。食の生産者と一緒に地域でも開発する。そして、全国の「ご当地電力」と連携しながら、消費者サイドではコンセントの向こう側が見えるという関係を築いていく。私たちは、食の産直で実現してきたこういったことを、エネルギーの産直という考え方でエネルギーでも実現していきたいと思っています。

 食の産直にエネルギーの産直がプラスされることで、生産者と消費者をつなぐパイプを太くしていくことで、自然エネルギー資源が豊富な地域は豊かになり、消費者はグリーン電力を選択できるという利点があり元気になる。そうなると地域社会なり日本社会は変わっていきますよ。そこに至るまではイバラの道かもしれませんが、ここまでの道のりは私たちが思っていた以上のスピードで実現してきています。少しづつ、いろいろなチャレンジを実現していきたいですね。