~イジュンside~
「遅くなってごめんなさい!手伝いますね。」って、母さんに声をかけた後、バッグからごそごそと何やら取り出したチャンミン。
───エプロン?
それは、黒のシンプルなエプロンで。
わざわざエプロン持参で来るなんて、やっぱ、やることがいちいち可愛いなぁ。
「あら、…チャンミンくん。素敵なエプロンね。…それ、新品じゃない?わざわざ買ったの?」
母さんも気になったみたいだな。
「……え、っと…、ユンホさんが…。」
────え?…ちょっと、待て。
それ、ユンホからのプレゼント?
チラッとユンホを見たら、何食わぬ顔して新聞を読んでる。
「まぁ!…ユンホもなかなかセンスいいじゃない!」
なんて、母さん、誉めてるけど…。
───問題はそこじゃない。
くどいようだけど、あのユンホがチャンミンに、…それもエプロンなんて、…プレゼントするとか。
……どうなの?ありなの?
いつも手伝ってる姿見てるよ!…って事か?
チャンミンが思わず言ってしまった事に後悔したのか、恥ずかしいのか…赤くなって照れてる。
そ~っと、首を伸ばして覗いたら…ユンホの方が、もっと真っ赤!
────なんだ、…こいつら!
ムカついたから、──いい趣味してんじゃん、って嫌みっぽく言ってみた。
「……なにが?」
そんな赤い顔してトボケても説得力ねーよ!!
……ついこの間まで余所余所しかったのに。
でも、お互い意識してるのが嫌でも分かってしまって、狡いけど…俺なりに牽制してきたつもり。
ユンホに彼女がいるらしい…とか。
ユンホの前ではチャンミンとの仲の良さをアピールしたりとか。
────それが…なに?
キッチンでサラダを盛り付けながら、チラチラと。
隣のコイツは絶対、新聞の文字を読んでないよな、…読むふりだけで、目線はチャンミンにくぎづけ。
チャンミンがこちらを見るたびに、もちろん視線が重なって、…そのたびに軽く俯いて、花が綻ぶような微笑み。
チラッと見た隣のコイツは、完全に口許の管理を忘れてる。
「あーあ。」──大きなため息と一緒に両腕を上にあげて伸びをした。
「…ユンホ~!……そういう事?」
ジロッと、軽く睨みをきかして。
少しだけ真顔に戻ったユンホ。
「……今までさぁ、兄貴には何やってもかなわなかったけど、…親も、いつも兄貴優先で、それでもいいやって思ってたけど、……今回は、…譲れないから。」
真剣な目で俺を見てきて。
───今までそんな風に思ってたんだ、って事実に驚いた。
逆にいつもおいしいとこ取りしてくユンホを羨ましく思っていたのは俺なのに。
──お互いさまかぁ、…って、ちょっと笑えた。
「…まぁ、しょーがないか!…知らないうちに、なんか世界作っちゃってんだもんな、おまえら。」
片方の口角だけをニッとあげて、「……寝てた兄貴が悪い。」って。
2人で目を合わせて、くくっ…と笑った。
どうやら今日は、チャンミンにとって特別な日のようで、母さんが…あの子をひとりにはしたくない、って、泊まっていくらしい。
風呂に行ったチャンミン。
俺たちはリビングでそれぞれくつろいでいた。
突然、ユンホが。
「……父さん。母さん。……もしさ、…俺が、男を好きになった、って言ったら、どう思う?」
え───っ!!!
それ、いきなり言っちゃうわけ?///////
真面目すぎじゃね?ユンホ。
シーンと静まり返った沈黙が気まずくて、…ゴクリと喉がなった。
適当にごまかして付き合っちゃえばいいのに、って…やっぱ思うけど。
膝の上で両手を握って、真剣な顔。
────沈黙を破ったのは、母さん。
「…世間の目は、きっと冷たいけど。その覚悟があるなら…勝手にしなさい。」
「……あなたの人生だから。」
隣で父さんも頷いて。
────ふぅ、…っと、息を吐いて緊張を解いたユンホ。
「…でも!」
人指し指を口許で立てた母さん。
「チャンミンくん、限定でね。」
軽くウインクしながら。
「お風呂ありがとうございましたぁ。気持ちよかったです!」
濡れた髪の毛を掻きあげながら、上気した顔でご機嫌に現れたチャンミン。
この微妙な空気に。
「……あれっ?どうしたんですか?せっかくのイブに喧嘩は良くないですよ。」って慌てているのが、やっぱり可愛いな。
にっこり笑ったユンホが───チャンミナ…こっち、おいで。って、手招きして。
ふわっと微笑んだチャンミンが、どうしようもなく幸せそうだった。
───いつかチャンミンが、ユンホと家族の板挟みに悩んで、そしてユンホを諦める選択をしてしまう事まで、…この弟は考えたのだろうか?
さすが次男、…要領がいいよな、って思いながら、その勇気と誠実さを格好いいと感じた俺がいた。