~チャンミンside~
────その日の夕食は何を喋ったのかも記憶にない。
相変わらず長いテーブルの端で黙々と食べていたような気がする。
スヒさんの話を思いだしては、チラッとユノを盗み見て、僕の視線に気づいたユノからサッと目を逸らす、という思春期の中学生のような僕だった。
いつものように手を付けてない自分の皿をスーッとこちらへ滑らせてきて、いろいろとテンパってるのに食欲だけはなくならない僕の食べっぷりを満足そうに見つめるのはいつも通りのユノで。
自分だけ余裕がないのが悔しくて、さらに黙々とがっつり食べてしまった。
そんなことがあってから、僕とユノの関係に少しだけ変化があった。
例えば、──おはようございます、って挨拶に。
最初は、──俺に構うな、だったのが、──ん、って少しだけ頷いてくれるようになり、今ではその頷きに不器用な笑顔までついてくるようになったとか。
休みの日に温室の花や裏の草花たちをスケッチブックにデッサンするのが僕のひそかな楽しみなのだけど、・・なぜかいつも隣にユノ。
シートを敷いて座る僕の横でただ寝そべって本を読んでいたり、それに飽きると目を閉じて、寝ているのか起きてるのかも分からない。
今も目を閉じて仰向けに寝るユノに、
「ね?草笛作ってみませんか?」って話しかけるけど反応がない。
───まぁ、いいや。
ちょうど傍らにある、花が終わりかけのカラスノエンドウに手を伸ばした。
熟した鞘を選んで筋をとり果実も取りだす。
少しだけ開いたままのそれを口で挟んで息を吹きこんだ。
───ピーピー、と可愛らしい音。
調子にのって昔好きだった童謡を口ずさみながら気分良く草笛の音を響かせていたら。
「───なにそれ?」
パチッと片目を開けたユノ。
────見れば分かるでしょ?
知らんぷりしてそのまま草笛に興じていたのを、ムクリ起きあがったユノの手が伸びてきて。
───ばっ!と僕がたった今吹いてる草笛を奪われた。
「・・ちょっ!///新しいの、作ってあげ、・・って、あ~~//////!」
呆気にとられる僕の横で、ピーピコしてる人。
・・そんなに無愛想に草笛吹かなくても、・・ってか、それたった今まで僕が口付けてたんだけど。
「───なんだよ?///」
真っ赤になってる僕につられたのか、・・草笛なんて吹いちゃってる自分が恥ずかしいのか。
─────きっと両方。
初対面で、──じゃあ、脱いで?なんて飄々とした顔で言ってきたのに、こんなことで照れくさそうに笑うユノがいる。
「笑うな?どうせ下手くそだよ、・・草笛なんて初めてだ。」
そう言いながら、慣れない草笛に奮闘してるユノがいる。
親とこういう遊びをしたことなんてないであろうユノの幼少期を思うと何ともいえない気持ちが湧きあがって。
「ね、・・ペンペン草でも出来るんですよ?」
いい年して草花で遊ぶ僕たち。
いつも冷めた目をしたユノが、こんなくだらない遊びにふっとその目を柔らかく砕いて。
そんなユノを眺めながらじんわりと胸が暖かくなる僕がいる。
「なぁ、あれって本当にイチゴみたいだな?・・食いたくなってきた。」
そろそろ終わりかけのストロベリーキャンドルを遠巻きに眺めてはそんなことを言う。
「チャンミナ?屋敷からイチゴ持ってきて?」
ニッと笑った顔はいたずらっ子のようだ。
「・・なんで僕が?」って、とりあえずの反抗もあんまり意味がないね。
「ん?・・おまえも食うだろ?」
おどけたように笑うユノに、僕が抗うことなんて出来るわけないから。
いつもの皮肉めいた口元が、遠くかすむ波のように揺れる草花たちを見ては優しげに緩む。
そんなユノの隣で自然に笑いが漏れる。
2人だけで寄り添う時間を、・・僕はとても大切に思うようになっていた、────。