~チャンミンside~
────「チャンミンさん!」
大学近くの通りに立つ僕の横に、スーッと音もなく停車した黒塗りのリムジン。
ピクッと軽く驚いたけど、静かにおりた窓から顔を出したのはジヒョンさんだった。
「チャンミンさんの大学が近くでしたね?もしもうお帰りでしたら、乗っていかれますか?」
「あ、・・え~、っと。」
チラッとジヒョンさんの肩越しに人の気配がして。
───もしかして、ユノ?
でもわざわざ聞くのも変だし。
ユノと一緒なら帰ります、とか、・・むちゃくちゃ変だし。
「チャンミナ!お待たせ~!」
僕の背後からレイナ。
そうだった!
頼まれてつき合わされた雑貨屋で、あまりに退屈だから外で待ってたんだ。
「な~に?どうしたの?」
僕の腕をスッと掴んで様子を窺うレイナ。
さり気ないスキンシップがジヒョンさんを前にすると妙に照れくさくて。
「あ、あの、・・大丈夫です。」
返事するとほぼ同時に。
「あ、・・ガールフレンドがご一緒でしたか。失礼いたしました、・・では、ごゆっくりお楽しみください。」
意味深な笑いを浮かべて、また音もなく車を走らせて行ってしまった。
「な、・・彼女がいるって本当だったんだな?」
いつもの温室の裏手、シートに仰向けになって寝てるとばかり思っていたユノがおもむろにつぶやいた。
「・・え?」
「─────昨日の。」
あぁ、やっぱり後部座席にいたのはユノだったんだ。
目の前のまだ蕾をつけ始めたばかりのシャクチリソバを、うつ伏せに寝転んで肘だけついた状態でデッサンしていた僕。
チラッと目線をずらしただけでユノとは真っ正面から向きあう形になった。
「え、えっ、と///。」
そんなに真剣に見つめられたら何にも言えない。
「───か、彼女では、・・ないです。」
やっと口にでた言葉。
「───────嘘だ。」
「は?///」
なんだよ?
何をそんなに真面目な顔して、・・・
恥ずかしくなってスケッチブックに視線をおとす。
「こ、このシャクチリソバはね、もう少ししたらそれは可愛い真っ白な花を咲かせるんですよ。で、根茎は生薬にもなるし。」
これもバイトの一貫だからと、ユノからの刺すような視線は無視してベラベラ早口で話し始めた。
仰向けの状態から片手で頭を支えるように横向きの体勢に変えながら、スルッと僕との距離を詰めたユノ。
「─────つき合ってんの?」
し、しつこい、・・こんなに執着してくるユノは初めてだから、どうしていいのか。
───彼女じゃない、って言ったのに、これ以上なにを言わせたいんだよ?
「だからっ///!・・告白されたけど、・・・つき合うつもりはないです。」
湿った空気が頬を撫でて、暑くはないのに汗が背中を伝う。
「僕は、・・僕が好きなのは、・・。」
真剣なユノの瞳に引き込まれそうで、────つい漏れた言葉。
口からでた途端、
・・////、っな、なに?//自分でびっくりして両手で口を押さえた。
─────「好きなのは、・・だれ?」
茶化すわけでも、からかうわけでもなく。
ただ静かに、────。
「や、///もう、この話題は、・・無理。」
両肘でうつ伏せた身体を支えながら、真っ赤な顔を見られないように深く頭を垂れるけど、
────ふわっ、と。
僕の後頭部に、・・柔らかい感触。
それが何か、────僕にはすぐに。
「・・・もうしない、って・・言いました。」
あいた手で僕の髪をスッと梳いて。
「嫌なことはしない、って言った。」
掬った髪にまたおとされる唇。
「─────嫌じゃないだろ?」
────ユノが見れない。
蓋をしたはずの自分の気持ちが、ガタガタと崩れだしたような感覚。
「こ、このシャクチリソバの実は、・・あ、あの、・・
なんとか冷静になろうと説明しだしても、頭ん中と心臓の動きが完全に反比例してる。
「な、それの花言葉は?」
「え?」
「───花言葉。」
後頭部を撫で続けていた手に、くっと力が入って。
「花言葉は、・・喜びも、・・
悲しみも、──────共に。」
引き寄せられて近づくユノを、──そう、・・嫌なんて、・・思わなかった。
───────ねぇ、居た。
好きで好きでたまらない人。
それがユノだなんて、──────。