~チャンミンside~
「ユンホ坊ちゃま、・・今朝もあんたの部屋から朝帰りかい?」
───ギクッ!
翌日開かれるパーティーの下準備を、僕もちゃんとバイト代をもらって手伝うことになっていた。
男なんだから会場設営などの力仕事だって、掃除だって、中庭の手入れだってなんだって出来るのに、なぜかスヒさんの補助みたいになっている僕。
「チャンミンが器用だからだよ。」ってスヒさんは言うけど、なんだか面白くない。
「チャンミン、聞いてる?朝帰りなら朝帰りらしくもっと早朝に戻るもんだ。・・あんなバタバタしてる時間にふらふらと。」
ぶちぶち言われて何も言い返せない。
確かに夜明け頃ちゃんとユノを起こしたはず。
でも何だかんだとごまかされて気づいたら完全に日が昇っていた。
「まったく、今日はパーティーの準備で人の出入りも激しいのに。夜中に私が叩き起こしに行けば良かったよ。」
何て言えばいいのか分からず、取りあえず───ごめんなさい、とだけ。
「ほら?チャンミン、食器を磨くからこっちへおいで。」
少しだけ呆れたようによばれた。
キュッキュッと、グラスを綺麗に磨いていく。
「この前の旦那様とユンホ坊ちゃまの喧嘩。あれね、何人かの候補の中から見合い相手を早く決めるように言われたんだよ。」
「───え?」
驚きとショックで完全に動きの止まった僕。
ワイングラスがスルッと抜けて危うく落としそうになった。
「頑として言うことを聞かない坊ちゃまに、仕方なく明日のパーティーで選ばせるつもりなんだよ。」
「─────チャンミン?どうした?ショックかい?」
「あ、あの、・・。」
僕の蒼白になった顔を覗きこんで意地悪く笑った。
「まさかチョン家の後継ぎと結婚するつもりでもないだろう?遅かれ早かれこうなることは分かっていた筈だよ。」
───分かっていた、分かってはいたけど、・・現実から目を背けていたんだ。
僕を見るユノが優しすぎて、──
僕に触れるユノが愛おしすぎて、───
「ス、スヒさん、・・・僕、・・。」
僕の隣でやるせなく漏れるため息。
「・・ユンホ坊ちゃまがどれだけあんたに夢中なのかは見ていれば分かる。普段から住み込みの私やジヒョンさん、他の数人もみんなあんたたちの事は気づいてるよ。誰も告げ口なんかしてないけど、もしかしたら旦那様も何か気づいてるかもしれない。」
「妙に焦ってユンホ坊ちゃまの婚姻話を進めてきてるからねぇ。・・・それに、今のユンホ坊ちゃまの年にはもう旦那様には子どももいたんだから。」
「────分かるだろ?チャンミン。」
目の前が真っ暗になるとは、───こういう事かと。
そう思うほどにすべての光が閉ざされた感覚。
────あまりにも短いユノとの蜜月。
「スヒさんは、・・誰の味方なんですか?」
「・・私?私は誰の味方でもないよ。情はあんたたちにあるけど、義理は旦那様にあるからね。」
何も言えず俯いてしまった僕の頭を優しく撫でるスヒさん。
「でも、ユンホ坊ちゃまは本当に変わられた。あんなに生き生きとした坊ちゃまを見たことないからね。」
クスッと思い出し笑い。
キョトンと眺める僕の頬をスーッと撫でて。
「坊ちゃまの部屋に生けてある藤の花。あんた藤の花ばっか生けかえてるんだって?」
「だ、だって、・・綺麗じゃないですか?」
「ふふ、ユンホ坊ちゃまがね、ジヒョンさんに自慢してきたらしい。・・ずっと藤の花なんだよ、って。」
「それで藤の花の花言葉知ってるか?って言ってくるから、もちろん知るわけないし、知りませんって答えたらしいけどね。」
「あ、///、や、・・言わなくていいです!///」
「────あなたの愛に酔う、あなたから離れない、なんだ、困っちゃうだろ?ってさ。・・そんなユンホ坊ちゃまにこっちが困ってるっていうのにねぇ。」
さほど困ってるようには見えないスヒさんが、愛おしそうに頬を緩め微笑んだ。