~チャンミンside~
───明日は朝から早いんだから今夜は自分達の部屋で寝るように!
と、何回も念を押され。
あ、あとまだ何かあったな。
そうそう。
───明日のパーティーでは厨房から一切出ないように!
パーティー嫌いなユノは、元々すぐに抜けだして周りを困らせるんだけど、明日は目的が目的だから勝手な事をしないように使用人に対して厳重に監視するよう注意が促されていた。
「あんたにウロウロされるとユンホ坊ちゃまの気が散るからねぇ。明日はパーティーが終わってお客様が帰られるまでは絶対にユンホ坊ちゃまの前に現れちゃいけないよ!分かったね?」
スヒさんにしては珍しく真剣な面持ちで言われたから、これは守らなきゃいけない。
どうしてパーティーの手伝いをするなんて言ってしまったんだろう?
こんな事なら気晴らしに一日中遊びに行けば良かった。
ユノの婚姻話が進められていると聞いても、それはあまりにも不明瞭で現実味を感じなかった。
────《今、帰った。来れる?》
ブブブ、・・とメールを知らせるバイブ。
これが今の僕の現実なのに、───。
「それ、どうすんの?」
「・・枯れてきちゃったし、片付けます。」
枯れかけの藤の花を挿してあった缶と一緒に片づけはじめた僕に、シャワーを浴びて相変わらず雫を拭いきれてないユノが不思議そうに尋ねてくる。
「なんだよ?また挿し代えればいいだろ?」
「でもこんな缶コーヒーの缶、・・ちゃんとした一輪挿しを用意してもらいましょうよ。」
「・・また来週にでも。」
顔も見れたし、そろそろ部屋に戻ろうとドアに向かう僕の腰に、スッとユノの腕が伸びた。
「どうした?元気ないな。」
「・・・疲れちゃって。」
「・・・パーティーの準備?」
こくこく、と頷いてユノの手をそっと剥がす。
「じゃあ、・・おやすみなさい。」
なんだか今日は疲れた。
こんなにも好きな人の結婚相手を選ぶパーティーの準備に奉仕するとか、・・自分がひどく惨めに思えた。
────今日は何も考えずに眠りたい。
そして明日は一日中厨房に篭もっていればいい。
ユノがその名に相応しいであろう女性達に囲まれてる姿を見たくなんてないから。
「───チャンミナ。」
ドアに手をかけようとした時、背中から聞こえる優しい声。
でも僕は振り返らなかった。
きっとひどい顔をしている。
「───心配するな。」
ふわり背中に体温を感じて首筋に柔らかい感触。
「親父がまたくだらない事を企んでるみたいだけど、・・大丈夫だから。思い通りにはならねぇよ。」
「俺は、・・おまえさえいればいいから。」
────僕も、・・貴方さえいれば、
それは言葉として口にでることはなかった。
あらがうことの出来ない運命の扉が今か今かと手ぐすねをひいてるようで、───ただ怖くて。
叶えられそうもない約束を口にするのは虚しいだけ。
スッと振りかえり俯いたまま、・・ぎゅうっ、と。
貴方は愛おしそうに僕の背中を撫で続ける。
「な、・・夏になったら2人であの山へ行こう。・・今度こそヤマホタルブクロの中にホタルを入れてみよう。・・大丈夫、すぐに逃がしてやればいいんだから。」
そんな擽ったい約束も、どこか遠くに聞こえて、───泣けるほどに淋しくなった。