Strawberry Candle(30) | えりんぎのブログ







~チャンミンside~
















狙ったわけではないと思うけど、ユノが出張で不在という日、ヨンジンおじさんに書斎へ呼ばれた。





───トントン、




「・・どうぞ。」




先日とは違う畏まった声色に事の重要さを知る。




それでもふと、───僕と対峙した際見せる切なげな瞳。
それはどこかで覚えがある。
そう、───チャンミニ、・・と僕を呼ぶ父さんと同じ瞳。





ソファに座るよう促されておじさんも目の前に座る。
スッと差し出された書類。



そこに視線がおちる前に「チャンミン。」と呼ばれた。








「君は、・・去年、2年生の時にMITとの交換留学の選考試験を受けてるね?」





───なぜそれを?と固まる僕に、ふっと口元を緩めて。





「なぜそんな事知ってるか不思議かい?・・悪いけど、君の事を調べるのなんてたやすいんだよ。」





「選考試験の内容を見せてもらったけど、学内での成績も、・・TOEFLの点数も申し分ない。・・ほぼ決まりかけていたらしいじゃないか。」





「───どうして辞退したんだい?」







学ぶことが楽しくて、自分の力を試したくて、・・父さんに内緒で応募した交換留学の選考試験。
実際に決まりそうになって、怖くなった。
父さんにこれ以上の経済的負担をかけるのも、・・父さんひとり置いてアメリカへ行ってしまうのも。




「・・やはり自分には向いてないと、・・判断しました。」




「そうか。」




そう言ったまま組んだ両手を口元にもっていき、無言のまま僕をじっと見つめる。






「────でも、行きたい。・・そうだろう?」




「え?」





「行って、・・自分の力を試すといい。本場でさらに深い知識と広い視野を身につけてきなさい。」




「な、なにを言ってるんですか?今年の選考試験はもう終わってるし、来年は、・・・。」






焦る僕に余裕綽々の表情でにっと笑うおじさん。




「TOEFLだけは去年のを参考に、今年も成績優秀な君を今年の交換留学枠に入れるのは案外簡単だったよ。」




突然の話に頭が真っ白で、何て言っていいのか。
今年の枠は既に埋まったと聞いていたのに。





「チャンミン。・・私は、・・いろいろと失くしたものの代わりに、・・結構な力を手に入れたんだよ?」




「───君は3ヶ月後にはアメリカだ。」



それはもう決定事項のように。






出された条件は卒業後おじさんの会社に入社するという、たったそれだけの。


こちらから願ってもなかなか入れない大企業への入社を約束されたうえに、留学の資金から細かい手続き、それに留学までの英会話学校でのカリキュラムまで組まれていた。




「独学の英会話では心配だからね。・・短期間だけど、君なら出来るだろ?」




満足げに微笑むおじさんに不信感が募る。
目の前の人が何を考えているのか、・・まるで分からなかった。







「・・・おじさんは、・・僕を、・・どうしたいんですか?」





────また切なげなあの瞳。
ゆっくり目蓋を閉じて、今度は真っ直ぐに僕を見た。





「・・君は、気づいてるだろ?
私は・・幼いくらいの恋を叶えることは出来なかったけれど。
代わりに大きな力を得た。
・・君の幸せを見届けたい。」






「────私は君を、・・手離さないよ。」








─────君はやりたいようにやりたいだけ勉強をして、私の元へ戻ってくればいい。


そして我が社の、私の、力になってくれ。


何も無理強いはしない。
ただ君に、・・何でもしてあげたいだけだから。




それに入社する頃にはユンホの婚約者を紹介することも出来るだろう。
いずれはユンホの右腕となり、・・私を安心させてくれ。










────絶望と希望が交互に脳裏に浮かんでは消えていく。




ユノ、──────。




僕はどうしたら、・・・いい?