~チャンミンside~
「チャンミナ。・・・どういう事?」
玄関ホールへ降りてくる足どりが徐々に重くなり、僕の数メートル前で完全に直立不動になった人。
不機嫌さを隠そうともせず僕を睨んでくる。
予想通りの反応に心の中で大きなため息をついた。
「ユンホ坊ちゃん!元はと言えば坊ちゃんが原因なんですよ。」
隣から割って入ったのは初めて見るカジュアルなスヒさん、なんてったってリュックまで背負ってる。
「午後からの会議に出席するよう言われたのに、ホタルを見に行くなんて理由で断ったんですよね。おかげで強制的に付き添うよう言われて、私もチャンミンも被害者です。」
「だからっ、・・どうして付き添いなんか、・・・。」
納得できない苛立ちがビシバシと伝わりちょっと恐いくらい。
基本的にユノの無愛想が直ったわけではないので、機嫌が悪い時はまた冷酷な表情が顔をだす。
「ユノが昨夜ほとんど寝てないからって、おじさんが心配して運転手にジヒョンさんと付き添いでスヒさんを同行させたんですよ?」
「ちっ!あのクソ親父!・・嫌がらせかよ。」
「嫌がらせって何ですか、ユンホ坊ちゃん!」
────ああ、気が重い。・・なんて僕が言ってる場合じゃない。
「今日2限が休講になったんですよ。だからね、・・スヒさんとお弁当作っちゃいましたよ!ほら?みんなで食べた方が美味しいですよ、ね?」
ユノと外へ出掛けるなんて、実は初めてで。
せっかくだから楽しい思い出にしたかった。
ユノに笑って欲しかった。
「・・しょうがねぇな。」
ボソッと呟いて黙ってしまったけど、やっぱり疲労が隠せないユノの顔色を見たらこれで良かったんだと思う。
実際、車に乗った途端死んだように寝ちゃったし。
「・・おい、楽しそーだなっ!」
って起きたら起きたで、お菓子を食べながらユノの子ども時代の話で盛りあがる僕たち相手に拗ねてるし。
「ユンホ坊ちゃんはチャンミンと出逢って幼少時代からやり直ししてるみたいだねぇ。」とクスクス笑うスヒさん。
真っ赤になって否定するユノにみんな楽しそうに笑った。
天候も風のない蒸し暑い夜で、ホタルの観賞にはうってつけだった。
昔、父さんに教えてもらった穴場。
目の前に広がる幻想的な風景。
子どもの頃に見たそれとはまた違う。
───ユノが隣にいるというだけで。
「・・・キレイだな、・・・。」
「はい。」
「・・やっぱ、捕まえて花ん中入れるなんて可哀想だな。」
「・・ですね。」
そんなポツリポツリとした会話が無性に嬉しい。
同じ風景を見て、同じように感じるこの瞬間が愛おしい。
「あれ?スヒさん達は?」
さっきまで一緒にいたのに、気づいたら僕たち2人きりになっていた。
「さあ?・・気ぃ使ったんじゃねぇの?」
そう言いながらスッとお互いの間をつめるユノ。
自然に添えられた腰を抱く腕に未だ心臓が跳ねるのに。
「・・ありがとう、・・チャンミナ。」
ホタルの光が薄ぼんやりと霞んで雲に覆われた月明かりに影ができる。
感じる柔らかい感触はユノの匂い。
「ずっと注目してて、やりたかった仕事。おまえの事があったからがむしゃらに頑張れたんだ。
背中を押してくれて、・・ありがとう。」
「そ、そんな、・・僕は、何も・・。」
チュッとまた啄むように。
「ストロベリーキャンドルの話も、結構効いたよな?」
思いだしたように、ふっと笑う。
とっさに言ってしまった話が恥ずかしくて、俯いてしまった僕の肩をことさらギュッと抱いたユノ。
「あのクソ親父、・・おまえが新人研修を終える3年間で、ある程度の結果が出せなかったら絶対おまえを手離さないってぬかしやがった。」
───まさか!って隣に視線を向けたら、思いだしたように遠くを睨みつけるユノがいて。
まだまだ父親の方が一枚も二枚も上手だな、って思ったり。
「勢いで言っちゃったけど、・・本当に俺、3年間も離れてられっかな?」なんて急に弱気になるユノがいたり。
────どんなユノも好きだよ。
貴方と出逢って見つけた。
僕の帰る場所は貴方で、貴方の帰る場所は僕なんだ。
どんなに遠く離れても、───それは決して変わらないから。
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えへへ~♪
chandelierからいただいちゃいましたよ^^;