【誰かを応援する話】 | 藤見谷さんの作業台

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藤見谷さんの工作日記。ボチボチ更新。

ほんの少し前、モンテディオ山形に中村隼という選手がいました。

ですが、今年のモンテディオ山形の選手の一覧に彼の名前はありません。

 

ご存知の方も多いと思いますが、2016シーズンの終盤に彼はある犯罪を犯したことによって逮捕され、選手契約を解除されたのです。

 

裁判で罰金刑が確定した後、サッカーを続けるのかどうかを含めた彼の動向は表に出ることもなく、私を含めたサポーターらもそれを話題にするのを躊躇う気まずさを抱えて口をつぐんだまま時が過ぎました。


3月のある日、「タイのあるサッカークラブがHAYATO NAKAMURAという選手と契約した」というニュースが。

 

このニュースを見て、中村隼がサッカーを続けてくれることに、サッカーを続けられる環境に恵まれたことに嬉しくて泣きました。


彼のした行為は取り返しのつかないとんでもない事ですし、多くの人に迷惑を沢山かけて悲しい思いや辛い思いもさせました。その事実はどうしたって消えることはありません。
実際、私もそうですが、私の知り合いの山形サポの方達もこの件で沢山泣いてます。クラブのスタッフの方々も各所に走り回ったであろうことも想像に難くありません。一緒にプレーしていた選手たちが受けた衝撃は如何ほどだったでしょうか。


「ふざけるな!」と言われるかもしれませんが、それらを踏まえてもなお彼がサッカーを続けられる事が泣くほど嬉しかったのです。

 

 

彼が逮捕されたというニュースを見てからずっと思っていた事があります。

それは「中村隼という選手を真剣に応援してなかったらこんなに辛くて悲しい思いをしなくて済んだんじゃないか?」という事。

 

練習場に通い練習風景を見学し、シュートストップ練習やミニゲームでコーチングする姿を見て、練習後のファンサービスでサインや握手をしてもらって、スタジアムでコールをして、真剣に応援して…そんな日々がなかったら恐らくあのニュースもただの雑多なニュースに紛れて素通りしていったでしょう。

 


2016シーズンはこの事件に加えチームの成績不振もあり、「応援する」という事を考え続けたシーズンでした。


応援しても結果が出ないチーム。
大手を振って応援できなくなってしまった選手。

 

結局、どんな状況になってもチームを応援する事は止められませんでしたし、隼に関しては口にすることを憚られながらも突き放したり切り捨てたりするようなスタンスを取れる訳もなくずっと心配していました。

 

応援する事に対して見返りが欲しい訳ではなく、単純に応援できることが楽しいし嬉しいんだと思い知らされました。応援しても結果が出ない事より、応援できないことの方が遥かに辛いとは。


応援の形は人それぞれ。

スタジアムで声を張り上げて応援したい人、練習見学に行って練習後に応援する気持ちを選手本人に伝えたい人、現場には行けないけどPCのモニターやTVの前で手に汗を握って勝利を願う人…真剣に応援する気持ちに何ら変わりはないと思います。

 

ただ、真剣に応援するという事は、「呪いにかかる」という事なのかなぁと思ったりもします。

「呪い」は「まじない」とも「のろい」とも読みます。

 

言葉から受け取る印象は真逆ですが、本質的にはどちらも「自分の意が及ばないものを自分の意のままになるようにする事」な訳で。応援も自分の意が及ばないチームという存在を自分の意のままに勝利するように願うという意味では呪いなんじゃないかと思っています。

 

そして、呪いをかければ呪いをかけた人間もそれに応じた呪いがかかるものです。
ある人間がチームに「応援」という呪いをかければ、その瞬間、ある人間はチームを応援する事を止められなくなるという呪いにかかります。…そうです、それは私です。

 

まぁ応援に限らず、何かを真剣にやろうとするってことは呪いみたいなものだと常々思っております。
ピッチ上で走る選手たちもサッカーという呪いにかかっているんでしょう。そしてそれを応援する私たちも。

 

サッカーという呪い、応援という呪いがこの先いつか解けるのか否か、いつどんな形で幕切れを迎えるのか、それは誰にも分らないです。

 

でも、もうしばらくはこの呪ったり呪われたりする日々を楽しめたらいいなぁと思います。


2017年のモンテディオ山形オフィシャルカレンダーですが、奇しくも、2017年のモンテディオ山形オフィシャルカレンダーの3月4月の頁の写真には隼がいます。

(このカレンダー、隼の事件を受けて販売期間が数日しかなかった上に後に回収返金対応されたので手元にある人はなかなかいないと思いますが…)

 

試合のハーフタイムにピッチで練習をする隼の写真。

 

今、日本から遠く離れたタイの地にはこんな風にボールと真剣に向き合う隼がいるのでしょう。


呪われてしまった私は、応援する事を止められないでしょう。
だからまたスタジアムに行ってモンテを応援します。

 

そしてタイで自分の道を行く隼の事も。


がんばれ、中村隼。