「創る」ことで生きていく―31歳クリエイターの美学 | HappyWomanのすすめ。

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 フラワーデザイン、ネイルアート、引出物のデザイン。関尚美(31)は、一見バラバラなように見えるこれらの仕事を器用にこなすクリエイターだ。
 「何か一つに特化しないんですか?」と問いかけてみた。
 「私はあることをきっかけに、一つの夢だけを追うことをやめたんです。今は必ず予備の夢を持つようにしています。そうすることが、次への活力になると思うから」
 哀しみとも諦めともつかない表情で、尚美はそう答えた。



「創るの上手ね」という母の洗脳
褒められることが嬉しかった


 尚美は幼い頃から工作が得意だった。娘が創ったものを母は褒めたたえた。「なおちゃんは、創るお仕事に就くのね」。
 「今思えば、あれはある種、洗脳だったと思う」と尚美は振り返る。
 そんな尚美が「装花」と出合ったのは、高校2年生のときだ。ある映画のワンシーンを観て衝撃を受けた。
 「未来を表現するシーンに、さりげなく花が飾ってあって、空気がすごく変わったんです。お花でこんなことができるんだ!って。大道具などの空間装飾に憧れはあったけれど、何かをやるなら特化してその分野の一番になりたい。お花は素材が面白いし、デザイナーとして極めることができるかもしれない、と思いました」
 そのときから付属の大学ではなく専門学校へと進路の舵を切った。高校時代は地元の小さな花屋でアルバイト。3年生のときには作品展に初めて出展し入賞した。大学進学を望む父をその授賞式に呼び、説得した。



突然の挫折
生花の匂いも苦しくなった


 専門学校では、尚美は決して抜きん出た生徒ではなかった。とにかく必死に練習を重ねた。 
 「誰よりも努力した」と自負するのは、技能五輪大会。そこで尚美は全国優勝を果たす。
卒業後は大手フラワーショップやフラワースクールでさらに実績を積んだ。着実にデザインの幅を広げていった尚美は、23歳のときに仲間と2人で夢だった独立を決意する。しかし、思いもよらない事態が起こった。
 「当時、勤めていた会社に独立を伝えて、よしっ!というときに、突然パートナーの子にやっぱりできないって言われたんです。まだ若かった私には衝撃的すぎました」。
 生花のデザインは、16歳の時から追い続けてきた夢だった。やっと自分の手で形にできる!とモチベーションが上がった瞬間にダメになり、激しい絶望感から暗闇に迷い込んだ。
 「それまで夢や目標がないことなんて想像したこともなかったんです。このときはじめて、これまでの自分が当たり前ではなく、いろんな人がいて、いろんな想いで生きていることを知りました」
 このときから、尚美は生花から少し距離を置いている。それには、友人に裏切られたのと同時にもう一つの背景がある。
 「私はお花が大好き。だけど、生花での装飾はその大好きな花を殺しているんです」。生きた花の美しさを表現することの残酷さ。また、そのために大量の廃材を出してしまうことに尚美は違和感を覚え始めていた。「自分のやっていること、やりたいことがわからなくなって、このときはお花の匂いをかぐのも苦しくなった」という。
 この時期を経て、尚美は「もしまた私が生花の世界に戻ることがあるとしたら、そのときはその命を最後まで見届けられることが条件になると思う」と話す。
 「たとえば枯れかけたらすぐ捨てるのではなく、綺麗な部分だけを生け直すことができます。ただ、枯れかけた花は手間がかかるし、元気な花よりメンテナンスが難しいんです。でも、生命のあるものをデザインするってそういうことだと思うから。豪華なものをただ活けることが美しいとは私は思わない」




0より1やってみる
葛藤や迷いの中で日々成長


 挫折から約10年が経とうとしている。「あれから私が大事にしてきたことは、一つの夢を強く追い求めるのではなく、そのときどきの小さな夢と、私はこうだったら満足だというところに到達できるよう努力することです」
もし、今なりたい自分になれていないならば、届くようにまたひとつ努力すればいい。尚美のモットーは「0より1やってみる」ことだ。
 悲しみから立ち直る過程で、大事に増やしていった夢が少しずつ形になり始めた。今はネイルアートの仕事が半数以上。フラワーデザインについては、プリザーブドや造花を使った空間装飾に力を入れつつ、生花の分野でも、枯れかかった花を最後まで生かすためのレッスンやセミナーなどに挑戦したいと考えている。また、友人と立ち上げた結婚式の引出物ブランド「écrin(エクラン)」のクリエイティブディレクターとして「引出物をセレモニーのひとつにしたい」という思いで新しい市場を切り開くことにも熱意を燃やす。
 「あの経験から、確実に私は強くなった。だから、今ならまた一つの夢を強く追いかけることもできるかもしれない、と思うこともあります。花からも、結局離れることはできない。嫌だけど好きなんです。矛盾ですよね。でも、それが生きているってことだとも思うから」
 日々、いったりきたり。矛盾や葛藤の中で、尚美は成長を続ける。先のことは決めつけず、 「今はこう」だとその時々に揺れ動く自分の心と向き合っている。
 ただ、そんな尚美が心に決めている信念が一つだけある。
 この先の人生、「創る」ことからは絶対に離れない。




せき・なおみ
1983年・埼玉県生まれ。ネイル自宅サロンを経営しつつ、お花や空間装飾など、ジャンルを問わず制作している。引き出物を中心としたブランド「écrin(エクラン)」を立ち上げ、クリエイティブディレクターとしても活動中。
Naomi Nail&flower http://ameblo.jp/naomiracle827/
écrin http://www.ecrinshop.jp/