2015年に結婚した夫婦のうち、両方、またはいずれかが再婚だった割合は26.8%。
先日、厚生労働省が発表した調査結果だ。いま、結婚する夫婦の4分の1が再婚だという。
私は時々、結婚の記事を書くことがあるけれど、編集部から「“一生に一度”という表現は使わないでください」と言われることも多く、なんとも複雑な気持ちになったりする。
離婚は珍しくない時代とはいえ、結婚と同じように、ひとりではできない。相手だけでなく、その家族も関わる大きな出来事だ。
だから、経験者が話す、
「離婚は結婚の何倍も大変!」
「離婚を機にランニングを始めて、悲しみから逃避してる」
「離婚してギックリ腰になった」
という言葉の数々に、身震いしてしまうのだった。
それでも、人生の正解など誰にも分らないのだから、その苦行の先には、明るい未来が待っていると信じるしかない。
前に話を聞いた女性が言っていたな。
「幸せな結婚もあれば、幸せな離婚もありますよ」と。
■友の離婚に立ち会って
昨年の秋、友が離婚した。
理由は一言では言えないが、敢えて言うならセックスレス。その裏にあるのは、友の「子どもが欲しい」という思いだった。
10年近く寄り添った元夫との間に何があったかをすべて書こうとすると、おそらく本1冊分くらいになる。
だから、ちまたで言われているような、「たまにはHな下着をつけて夫を誘惑しよう!」とか、「温泉旅行で熱い夜を!」、「シチュエーションを変えて、ラブホテルに行こう!」などという解消法では、おそらく関係は微動だにしないだろうことは、傍目にも明らかだった。
友も元夫のことは嫌いではない。情もあるから、関係の維持を望んできた。この先のことを考えないように仕事に打ち込んでみたり。しかし、そうしている間にも迫りくるのは出産のタイムリミット。
彼女の背中を押したのは、去年、友と一緒に仕事をした作家の女性だった。
再婚してハッピーになろう!という本を出版したその先輩女性は、自身も再婚して、今まさに幸せオーラ満開!
「そのままで本当にいいの? この先、子どもができるかどうかは分からないけど、可能性が1ミリもないなら、さっさと別れて、次の相手を見つけたほうがいい」
「この先、絶対に後悔しないと言える?」
会うたびにこんなことを言われ続け、数年間停止していた思考が動き始めた友は、元夫との離婚を決めたのだった。
■本籍はどこにするのか?問題
意を決して離婚に突き進もうとする友。まずは、役所に離婚届を取りに行くことから。
「ダンナに破られたらどうする?間違うことも考えて、2枚はもらっておいでよ!」となぜか独身の私がアドバイスする。
「4枚もらおうと思ったら(←多すぎだろ)訂正印でいけると言われて、2枚しかもらえなかったわ」と友。
そして、しばらくして、またメッセージ。
「離婚後の本籍を書く欄がある。どうしよ」
実家に戻すのは嫌だという。なるほど、離婚へのプロセスとは、一つひとつ、未来に対する決断を迫られていくことなのだと実感する。
「日本で一番多い本籍地は、皇居らしいよ」
ネットで調べながら適当なことを言う私。
「あ、2位は富士山の山頂だって!」
「高いからやだこわい」
「行きつけのバーは?」
「もう、近くのコンビニとかでいーや」
友も結構適当である。
「あ、東京タワーよくない?港区」
「高いからやだこわい」
くだらないやりとりをしながら、離婚届の必要事項が埋められていった。
■お義母さん、ごめんなさい
かくして、元夫に離婚を切り出した友。
「別れたくないけど、あなたが望むなら書くよ」と答えたという元夫。目の前では書かないからと、その日、友と私は一緒に飲みに行き、「書いてあるかなー」「どうだろうねー」と話しながら、帰りの駅までの道を歩いた。
周囲の人は「たぶん書いてないよ」「そんな簡単に離婚なんてできないよ」なんて彼女に言っていた。
それに対して友は、「私は、書いてくれてると信じてるの!」と力強く言った。
彼女がそう言うなら、そうなのだろうと思った。これから夫婦関係を解消しようとしているふたりであっても、それが人生のある時間を、ともに生きたふたりにしか分からない機微であり、絆なのだろうと思った。
それから30分後、珍しく寄り道をせずに帰宅した友からメッセージが届いた。
「書いてあった」
その一文を見た瞬間、私の涙腺が決壊。
あぁ、そうか、書いてくれたんだな、と。部屋でひとりで、元夫はどんな気持ちで離婚届を書いたのかな、とその姿を想像したら切なくなった。
「書いてくれてよかったね」
「義理のお母さんの遺影がうちにあるんだけど。お母さんごめんなさい。お母さんやさしかった」
「うん。きっとわかってくれる」
「甥っ子、すくすく育て」
「うん」
「みんなごめん。がまんできなかった。ふつうに仲良くやっていく道もあったかも。でも、無理だった。力およばず」
「うん」
後日、私は友の離婚届に保証人として署名し、判を押した。婚姻届も書いたことのない私にとって、それはもちろん、人生で初めての経験だった。友のこれからを思い、判を押す手が震えた。
書いた後、友とふたりで、顔を見合わせて少し泣いた。それから一緒に、ワインを飲みながらお肉を食べた。
繰り返しになるけれど、離婚はひとりですることはできない。子どもであったり親であったり、周囲の人を傷つけてしまう可能性もある。それはもしかしたら、自分が傷つくことよりもつらいことかもしれない。
だから、決心が鈍り一歩を踏み出せないこともある。
それでも、その痛みを敢えて選び、決断したのであれば、その先にあるものは、幸せであってほしいと願うばかりだ。
■引っ越しはどうするんだ?問題
数日後、役所で無事に離婚届が受領された彼女から、メッセージが届いた。
「引っ越しどうしよう。お金ない」
新たな問題勃発である。
「うん、仕事頑張って貯めるしかないね……」
人生には、潮目が変わる瞬間というのがあって、そこではある種の瞬発力が試される。その波に乗れた人だけが見ることのできる、次の世界があるのだと思う。
では、その瞬発力とは何かというと、結局はお金だったりする。そして、身軽さだろう。
貯金なし、物を溜め込み、散らかり放題の自分の部屋を見渡し、私は途方にくれた。
このままだと私も瞬発力が鈍ってしまうわ!と、友とふたり、「貯金と掃除、頑張ろうね!」と誓い合ったのだった。