重し。 | HappyWomanのすすめ。

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生前の彼女を、特別に大好きだったわけではありません。失ってこそ、その存在が際立つことがあります。脇役を演じ続けた彼女ならなおさら。

樹木希林さんが9月に亡くなって、3カ月が過ぎました。死後、放送された特別番組をむさぼるように見続けた私は、どんどん彼女に魅了されていきました。特にNHKスペシャルの「“樹木希林”を生きる」は素晴らしかった。死を悟った彼女の凄みを感じました。
 

「ほうれい線、これがいいのよ。嫌がる人も多いみたいだけど、せっかくできたものだから」

鏡を見ながら、愛おしそうにそんなことを言う。


傍若無人なふるまい。嫌みな言葉。でも、それ以上に溢れ出るユーモアで、周囲に愛される特異なキャラクター。

あぁもう、なんて可愛くて面白い人なんだ!

樹木希林さんがこんなにも気になるのは、やはり彼女の恋愛観によるものが大きいと感じます。夫である内田裕也さんとはすぐに別居生活に。晩年をともに過ごしたいと希林さんは自宅に裕也さんの部屋を準備したけれど、その想いがかなうことはありませんでした。

2011年、裕也さんが女性宅に押し入り逮捕されたとき、希林さんは記者会見で離婚を否定しました。

当時を振り返り、希林さんはこんなふうに語っています。
「みんなね、理解できないらしいの。なんで離婚しないのか、って聞くんだけどね、私にはごく当たり前のことなんですけどね」と、面白そうに笑う。
まるで、「あのひと、カレーライスが嫌いらしいの。こんなにおいしいのに残念ねぇ」といっているようなトーンで。人それぞれ感じ方は違うから、仕方ないわよねぇ……。

理解されない孤独を乗り越えたのだろうと思いました。そして、私はその強さに、惹かれたのだと。

「誰に何を言われても関係ない。どんな恋愛をしたって、自分が納得できればそれでいいのよ」
そうやって、自分自身の選んだ道を、希林さんに許されたような気がしました。

希林さんにとって、内田裕也とは何なのか。
何度となく聞かれた質問に、希林さんはいつも同様の回答をしています。

「裕也さんは私の『重し』なのよ」
 

この言葉だけではすぐには理解できないけれど、つまりはこういう意味なのです。


「私は立派な人間ではないから。もし裕也さんがいなかったら、紙一重で人殺しになっていたかもしれない」

 

この言葉に、希林さんの弱さを見た思いでした。

人は弱くてもろいから、誰だって一人では踏ん張れない。

紙一重でダメになる感覚は、私もよく分かります。犯罪者でなくても、依存症に陥ったり、働かずに自活能力を失ったり。それは遠い世界のことではなく、本当にすぐ近く、ギリギリのところにあるもの。だから、踏みとどまるために「重し」が必要。

 

先日、希林さんの死後、公開になった映画『日日是好日』を観てきました。茶道の世界を丁寧に描いた素敵な映画でした。茶道の先生を演じる希林さんは凛として美しくて、そんな彼女がもうこの世にいないことを思い、涙が溢れました。

 

希林さん、平成が終わり、新しい時代が来ます。

先が見えず不安な毎日を、どう生きていけばいいのでしょう。

 

ふと空を見上げ、そんなことを語りかけてしまう私ですが、希林さんならきっと、ニヤリと笑い、こう答えるでしょう。

 

「人生を面白がらなきゃ。もったいないでしょ」