6、再来
「さぁ、行こう。少し遠回りになるけど、まだ歩けるか?」
「うん…。でも、さっきのやつ追いかけて来ないかな?」
アイは活発な瞳を曇らせる。
「大丈夫。地下道を通ってここに来たから、あの男にはわからないよ。森の道に詳しくないと地上からは絶対来れない」
「そっか…。ならよかった…」
アイは言葉とは裏腹に暗い声で言った。
何でも1人で背負わなければならないヨマを見て、アイはいまいち気持ちの整理がつかなかったのだ。
ヨマはシコンを見る。
「シコンはもう歩けるか?」
すると、シコンは別なものに気をとられていたらしくハッとしてヨマを見た。
「あ、は、はい、私も大丈夫…」
ヨマはシコンが見ていたものに気づいた。
「あぁ…。それか。それが本物のポルクだよ」
「えっ?」
アイとシコンは同時に叫んで先ほどの人間のような木を見た。
「想像してたのとかなり違うだろ?」
「はい…。お土産屋さんにあったやつみたいに小枝なのかなって…」
シコンが首から下げた偽物のポルクを触るのを見て、ヨマも服の中に入れてあった首飾りを出した。
「お守りにすると似たようなものだよ。ほら」
鳥の羽で飾られてはいるが、ヨマも小さな枝に紐を通し、首から提げていた。
アイも興味深そうにヨマのポルクを覗きこむ。
ヨマはアイとシコンの顔を交互に見た。
「簡単な願いだったら大体叶えてくれると言われてるよ。あとは、危険なことから守ってくれるともね」
2人は神秘的な話に感嘆のため息をついたが、小枝になる前のポルクの姿を思い出すと、やはり気分が滅入った。
小枝になっているということは、あの人間のような形をしたものから折り取っているということである。
ポルクの正体が本当に木なのかどうか、アイとシコンにはわからなくなっていた。
萎びた人間の一部を折り取る光景が脳裏に浮かぶ。
そこまで考えが至ると徐々に気分が悪くなり、それ以上の思考を停止させるしかなかった。
心なしかヨマも口数が少なくなったようで、アイとシコンはこれ以上何も聞いてはいけないことを悟った。
「それじゃあ、行こう。こっちだ」
ヨマが村への道を見ると、そこには先ほど巻いたはずの男が立っていた。
思いがけない光景にアイとシコンは息を飲み呟く。
「ど、どうして…?」
ヨマの表情にも緊張の色が浮かぶ。
男は火事の現場と猛植の攻撃をかわし続けたことで興奮しているのか、ぎらついた目で3人を見た。
「良い反応してくれるじゃねぇか…おまえら…。そっちのか弱そーうな嬢ちゃんに働いてもらったんだよ」
「わ、私…?」
アイとヨマが驚いてシコンを見ると、シコンの頭の中は一気に混乱に陥った。
「わ、私何もしてないよ!?何も…」
すると男は狂ったような笑い声を上げた。
「よーしよしよし!嬢ちゃんは悪くないよなぁ?自分が道案内をしてるなんて気づかなかったもんなぁ?」
「み、道案内…?」
「まさか…」
ヨマはシコンの腕を引っ張り自分の方へ引き寄せると、シコンの服の襟のあたりを覗きこんだ。
「発信器がつけられてたのか…」
「は、発信器…?」
アイも同じようにシコンの襟を見る。
すると、確かに小さな機械のようなものが、襟の裏側につけられていた。
「いつの間に…?」
アイが記憶を手繰り寄せるようにいうと、男は耳障りな声で高笑いをした。
「おまえらさっき店で俺たちの話聞いてただろぉ?ダメだぜぇ、こっちはプロなんだから、聞かれてるのなんてお見通しなんだよ」
一体いつからそんなことが知られていたのか。
アイとシコンは、ようやく自分達が危ない人間と関わってしまったことに気づいた。
「髭のおじちゃんとぶつかったの覚えてるか?発信器はあのときに取り付けたんだよなぁああっ!おまえらがその白い狐ちゃんに会いに行くって言うからさぁぁあぁああっ!」
アイはさすがに恐怖に駆られたが、シコンは罪悪感でいっぱいだった。
男たちが森の奥ではなく村への道へ入ったのも、シコンに発信器がついていたためだった。
そして、あれほど森を焼いて男を巻いたのに、結局ポルクがあるこの地まで導いてしまったのだ。
男は1人で盛り上がって悪態をついていたが、ヨマは冷静に2人の少女に囁いた。
「俺の銃はアイとシコンまで巻き込んでしまう。振り返らず全力で逃げろ。俺がやばくなったら、たとえ2人を巻き込んででも使わせてもらうからな」
「でも…」
人間の大人の男同士だったらアイも素直に聞いただろう。
しかし、ヨマは体の小さなパルミクだ。
とても勝算があるようには思えなかった。
ヨマはそんなアイを勇気づけるように叫んだ。
「行け!シコンを頼むぞ!」
ついにヨマは背中の銃を抜いた。
細い銃身には小さな刃がついており、ヨマは剣のように銃を構える。
「ヨマさん…」
アイは何も言えないまま、シコンの手を引いて力いっぱい走りだした。
一方、男は嬉しそうにヨマに小銃を向ける。
「バカか!?そんな細っこい銃で勝てると思うなよ!」
男は言い終えないうちにヨマに狙いを定め引き金を引いた。
乾いた破裂音が響き渡り、ヨマの体が衝撃で弾け飛ぶ。
「い…いや…っ」
すでに離れ始めていたアイは、恐怖で全身を震わせながらヨマを振り返った。
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☆ ☆ ☆ ☆ ☆
先週、旦那が仕事に関する本を探したいと言い出したので一緒に図書館へ行きました。
私は元々本が好きなのですが、毒親の歪んだ方針によって「自分の娯楽に割く時間があったら義務を果たせ。家事しろ、仕事しろ、勉強しろ」という人間に育て上げられていたのでここ10年くらいはまともに本など読んでいませんでした(*_*)
読み始めたら止まらなくなり、義務を果たせなくなることは自分が1番わかっているのでw
しかし、いい加減私も大人なのでそんな毒親からの呪縛も薄くなり、図書館に行ったついでに東野圭吾の『流星の絆』を読んでみました♪♪
せっかく読むなら話題作の方が外れがないですしねw
正直、数年前に読んだ村上春樹の作品が衝撃的すぎて、男性作家さんのはもう読めないかも…と思っていたので、『流星の絆』も後半までかなり苦痛でした(笑)
村上春樹ばりの謎の性描写が出てきたらどうしよう、「なんかやりたい気分だから」みたいな感じで営みが始まったら二度と男性作家は無理…みたいな(*_*)
一応言っておきますが、村上春樹さんを批判しているわけではないので、ファンの方はごめんなさいね((/_;)/)
単に私が性に対して潔癖すぎるのと厳しすぎるだけなんですが、『ノルウェイの森』で世界がひっくり返るかと思うほどのショックを受けちょっとトラウマなのですw
東野圭吾の『流星の絆』はそんな感じで読み始めたので「あー、はいはい、どうせ安易に誰かが営みを始めちゃうわけでしょ?いつですか?そのシーンはいつ始まるわけですか?(←ひどい偏見w)」と思っていたのですが、終盤になっても誰も服を脱がない(当たり前だw)。
私は最後まで醜い心の持ち主だったので、「ご都合主義で終わるのかな?それともバッドエンドでリアルな犯罪者の末路を書くのかな?」と思っていましたが、最後の1節で大どんでん返しでした( ;∀;)
最後から2番目の節の終わりの方でラストが見えた時点でもはや泣きまくり(笑)
こんなに綺麗に登場人物を救うラストがあるんだなーっていうのと、中心人物たちの心の美しさと素直さが最高でした(о´∀`о)
やっぱ小説はハッピーエンドがいいな(ノ´∀`*)
悲しい話はニュースの中だけで十分(*_*)
私の心が汚れきっているだけで、『流星の絆』は最初から最後まで綺麗な作品だったんですねw
赤ちゃんが生まれるのは春なので、それまでに図書館に通ってまた本漬けの生活を満喫したいものです(о´∀`о)