この指とまれっ! -2ページ目

この指とまれっ!

気まぐれに小説を更新していきます~^皿^

8、役立たずが役に立つ日

柔らかな感触が頬をなでる。

優しい声が名前を呼ぶ。

いつものあたたかい日の光が体を包んでいるのを感じた。

徐々に全身が楽になるのを感じ、ヨマはゆっくり目を開ける。

「…あぁ…良かった…」

愛らしい少女の声を聞き、ヨマは一気に現実に引き戻された。

「ア、アイ…!?」

近づいて確認しようとしたが、左肩が激しく痛み断念する。

そのとき、ようやく自分の身がもう1人の少女に支えられていることに気がついた。

「シコン…」

穏やかに微笑むシコンを見て、ヨマの目はうるんだ。

「ちょっとぉ、ヨマさん、大人なんだから泣かないでよぉ」

アイは楽しそうに笑う。

あたりは金色の光に包まれていた。

ヨマは涙を拭いて、不思議そうに周囲を見回す。

「なんだここ…?天国なのか?」

「え、ヨマさん天国とか信じちゃってるの?かわいい」

「な…!天国は本当にあるんだぞ!ホントに人間は罪深いな!」

アイとヨマが言い合っていると、金色の光はだんだんと晴れていき、やがて先ほどまでの大樹の姿がはっきりと見えてきた。

金色の光は、アイが首から提げているポルクに吸い込まれるようにして消えていく。

「ポルクの光だったのか…?偽物なのに…?」

ヨマは目を真ん丸くしてアイのポルクを覗きこんだ。

それはどう見てもポルクが願いを叶えている証拠だった。

人間には使えないはずの、しかも土産屋に売ってあるおもちゃのポルクが発動したのだ。

アイはあっけらかんと笑った。

「お土産屋さんに本物が混ざってたのかな?」

「い、いや…間違いなく作り物だ…。奇跡としか思えない…」

「じゃあ私にポルクを使う才能があったんだ!」

「…………」

ポルクが本物ならそういうことになるかもしれないが、アイのポルクはあくまで偽物である。

しかしヨマは優しい瞳でアイを見た。

「そうかもな…」

金色の光が完全に消えても、3人はしばらくアイのポルクを眺めていた。

奇跡を目の当たりにして声を発することすらできなかった。

気づけばもう日は傾きかけ、あれほど高かった太陽も夕日になり始めている。

「…あ、ヨマさん、怪我はどう?」

最初に口を開いたのはアイだった。

ヨマはハッとしたように自分の胸を触る。

骨が折れていたはずなのに、まったく痛みがなかった。

「すごい…。本物のポルクよりも力があるな…」

ヨマは左肩をさすりながら言った。

こちらは完全に痛みが消えたわけではなかったが、血で汚れた服まですっかり綺麗になっていた。 

アイはシコンを見る。

「目は開く?声はどう?」

シコンは難しそうな顔をしたが、わずかに掠れた声が出ただけだった。

「目も…開かないのか…?」

ヨマが心配そうに言うと、シコンは笑って"大丈夫"、と口を動かした。

元々ポルクは万能なわけではない。

シコンの喉と目の傷は深すぎて、癒しきれなかったようだ。

ヨマはそっとシコンを抱き締める。

「ごめんな…。俺のせいだ…」

シコンは首を横に振りながら困ったように笑った。

ヨマはシコンを抱き締める腕を緩めると、小さな手でシコンの頭を撫でた。

「さっきは助けてくれてありがとう…。シコンの勇気のおかげで、俺は今生きてるんだな」

シコンと同じく、猛植の犠牲となった男を見る。

男は相変わらず猛植に寄生されており、誇らしげに咲く花の苗床となっていた。

そこへアイが口を挟む。

「ちょっとー!ずるいんじゃないのぉ?なんで男ってみんなシコンにばっかり優しいわけ?私だって頑張ったのにさぁー!」

「何言ってるんだよ」

ヨマはアイに体を向けると、大きく両腕を広げた。

「ほら、来いよ?俺の胸で優しく包んでやるぞ?」

「ぎゃー!もう、何言ってんの?私がほしいのはそういうやつじゃないの!」

2人の幼稚なやり取りに、シコンも思わず笑みをこぼす。

そのとき、生い茂る木々の向こうから微かに太鼓のような音が聞こえた。

「あ、村の消防団だ。こんな奥まで消火に来てくれたのか?」

ヨマは慌ててシコンの手を引いて立たせながらアイに言った。

「行こう。猛植は火で焼かれたくらいじゃ死なないものもいる。こんな奥まで来たら村の人が喰われるぞ」

「え!そうなの?じゃあ私も消火手伝う!」
 
「あのなぁ、そのポルクはもう二度と奇跡は起こしてくれないぞ。アイとシコンは大人しく消防団と村に帰るんだ」

「えー!やだよぉ!1人にしたらヨマさん心配だし!」

ヨマは大人の男性のような笑みを浮かべた。

シコンと繋いでいるのとは逆側の手を、アイに差し出す。

「アイは本当に愛情深いな。さぁ、行こう。ご両親も心配してるぞ」

「う…」

アイはヨマの手が自分に向けられているのが急に恥ずかしくなって戸惑った。

「なんだよ、俺の胸だけじゃなくて手も嫌なのか?」

ヨマはいたずらっぽく笑った。

「べ、別にそんなんじゃないし!私、背高い男の人が好きだもん!」

「ふふっ、そうかそうか。俺の良さがわかるのはあと10年くらい先かもな」

「う、うるさいなぁ!」

アイは勢いに任せてヨマの手を握った。

「ち、ちゃんと無事に送り届けてよね!」

「あぁ、もちろん」

シコンはおかしそうに2人を見て笑った。

何千年生きたかわからない大樹が揺れる。

ヨマに手を引かれながら、アイとシコンは、ふと大樹に抱かれる大きなポルクを振り返った。

結局ポルクの正体を知ることはないまま。

しかし、今の2人にはそれもどうでもいいことだった。

この地はヨマにとって神聖な土地。

アイとシコンには、ただそれだけで十分だった。

目次

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


今回のお話はここで終わりになります。

少しでも読んでくださった皆様本当にありがとうございました(*´ω`*)

「役立たずが役に立つ日」を書こうと思ったのは、「幼神の決意」を書き終わったときにいつもブログに遊びに来て下さっているさんが「ここで一区切りですか。異色のオリジナルファンタジー…
神という存在のコガミが前回まさかの展開で、どうなるか気になっていましたとコメントしてくださったのがきっかけでした。

「こんなに一生懸命読んでくれる人がいたのに、私は中途半端な話を書いてしまったのでは…?(-_-;)」と思いまして(笑)

しかし、すぐに続きを書けるような準備はしていなかったので、一旦「幼神の決意」からは離れて、そこから数百年後の話を書くことにしました。

ついでに、中学生くらいのときに流行った「お題」というものを思い出して懐かしく思ったので、今回はお題を提供するサイトに飛びそこからタイトルを拝借することに。

そこで見つけたのが、「役立たずが役に立つ日」という言葉でした。

「お土産屋さんに売ってるおもちゃのお守りが本物以上の力を発揮するっていうのはどうだろう。"役立たずが役に立つ日"になるよね??」

こうしてアイのポルクがシコンの命を救うという構想ができあがりました。

お題に挑戦したのは初めてでしたが、ちゃんとストーリーになってよかった(T▽T)

こうして去年の12月頃、推敲まで終わった状態で私のスマホの中に物語は保存されました。

そんなとき、私はもえたんさんのブログと出会うのです。

お話のたびにイラストを添えているのを見て、「やっぱ絵があると華やかだなぁ。私もやってみようかなぁ」と思ったのが運の尽き。

2月くらいにはすべてのイラストの下書きが終わっていたのですが、そのタイミングで結婚が決まってしまいました。

入籍は3か月後。

それまでに2人で住むアパートを探したり引っ越しの準備をしなくてはいけません。

物件の下見に行くたびに片道4時間だしw

そして入籍して2か月後妊娠。

地獄のつわり。

まさかの切迫流産。

ようやく安定期に入ったと思ったら、もう次の12月( ゜▽゜;)

時間の流れとは恐ろしいものですねぇw

あっという間に1年経ってしまっていたなんて(笑)

こんなに時間が経つとさすがにモチベーション下がったり興味をなくしかけたりしたこともあったのですが、皆さんのブログを毎日見ていたおかげでなんとか完成まで漕ぎ着けることができました(о´∀`о)

やはり同じジャンルの仲間の作品を見るだけでテンション上がりますね♪♪

本当にありがとうございました(^皿^)

あ、ちなみに、アイは「愛情」を表しており、シコンは士魂、つまり「勇気」を表しております。

全体的に泣き虫だったシコンが一気に武闘派に(笑)

筆が遅いので次のお話はいつになるかわかりませんが、それまではまた日常のことを中心にブログを書こうと思いますので、今後もよろしくお願い致します(*´ω`*)


7、最終兵器

アイの心配をよそに、男に撃たれたヨマはすぐに身軽に起き上がる。

その体は金色の光に包まれていた。

「俺は大丈夫だ!走れ!アイ!」

アイは無我夢中でシコンの手を引いた。

頭の中がぐちゃぐちゃで、見えない力に押し進められるようだった。

華奢な男は歓喜の声をあげる。

「見たぞ…。それがポルクの力か…。銃弾も弾くなんて便利な代物だなぁ…」

「言っておくけど、ポルクの力は人間には作用しない。ポルクの恩恵を受けられるのはパルミクだけだ」

ヨマを守るようにしていた金色の光は、首から提げるポルクに吸い込まれるようにして徐々に消えていく。

「そうかぁ?じゃあ試させてもらわないとなぁ…」

男は銃が効かないとわかると小さな鉈を振りかざしてヨマに飛びかかった。

ヨマは持ち前の素早さで簡単に男の攻撃をかわす。

「ウザいやつめ…!」

男は力いっぱい鉈を振り下ろしたが、ヨマは銃剣で半分ほど力を受け止めたあと、残りの半分は横に薙いで流した。

「人間って動き遅すぎ。俺にはかたつむり並みのスピードに見えるけど」

「んだとぉ!?」

ヨマの挑発に乗り、華奢な男はめちゃくちゃに鉈を振り回す。

ヨマは防戦に徹しながら、うまく男を誘導し、どんどんアイたちとの距離を離した。

「ポルクを寄越せえぇぇえっっ!」

男は目を血走らせながら叫んだ。

ヨマは男に対して半ば呆れながら横目でアイとシコンを確認したが、すでにかなり距離がとれているようだ。

あと数十歩も離れれば、猛植の銃を使っても問題ないだろう。

「余裕ぶっこいてんじゃねぇぇえ!」

男の絶叫を聞いてヨマは再び目の前のことに意識を戻したが、やはり男の動きは遅く、何でもないことのように鉈の届く範囲から身を引いた。

「くっ…」

どんなにパワーがある攻撃でも当たらなければ意味がない。

身のこなしはヨマのほうが断然上である。

すると男はにやりと嫌な笑みを浮かべた。

「なぁ…守るもんがあるって辛いよなぁ…?」

「は…?」

男はヨマの返事を待たず、アイとシコンに向かって走りだした。

「姑息なやつ…!」

ヨマもすぐに走り男の前に立ちふさがったが、先ほどまでの守りの戦い方では簡単に抜かれてしまう。

男はもう挑発にも乗ってこないようだ。

「止まれ!ポルクがほしいんだろ!」

仕方なくヨマは男の力に真っ向から挑む戦法に出た。

「そう来なくっちゃな!」

男は弱者を虐げる喜びを見出だし、嬉しそうにヨマの言葉に応じる。

パワーのぶつかり合いになると一気に形勢は逆転した。

ヨマが1歩でも引けばあっという間に男と少女たちの距離は縮んでしまう。

「結構頑張るじゃねぇか白い狐ちゃんよぉおっ!」

男の一撃を受け止めるヨマの手が、だんだんと痺れて感覚を失う。

「大人しくポルクを渡せば許してやってもいいんだぜぇ?」

華奢な男が気まぐれに鉈を振るう。

しかし、すでに体力を消耗していたヨマはその一撃を受けきることができず、小さな体は草むらに薙ぎ払われた。

「うぅ…っ」

ヨマはすぐに起き上がろうとしたが、左肩が鉈で深く斬り込まれてしまい、立ち上がることはできなかった。

男は薄ら笑いを浮かべながらヨマに近づく。

「悪い悪い、痛かったかぁ?小さい子に対してついムキになっちまったなぁ」

ヨマは傷口を押さえながらなんとか身を起こす。

1歩ずつ近づいてくる人間の男はやはり大きかった。

人間にとっては小さな鉈も、ヨマにはとても大きな凶器に見えた。

「ふーん…おまえ、まだやる気なんだ?」

男はおもむろに立ち止まり呟いた。

力を振り絞って立ち上がったヨマが、男に銃口を向けている。

「…ポルクは生きてる…。おまえには渡せない」

まだ撃つことはできない。

男と交戦するうちに少しアイたちとの距離が縮まっていた。

"俺がやばくなったら、たとえ2人を巻き込んででも使わせてもらう"。

そんなことが本当に実行できたらどんなに楽だろうか。

だが、ヨマの頭の中は自分の命と引き換えてでも少女たちを守りたい想いでいっぱいだった。 

そんな事情など知らない華奢な男は、チャンスとばかりに間合いを詰めると、容赦なく鉈の背でヨマを殴りつける。

大樹の根本まで吹き飛んだヨマはまた立ち上がったが、肋骨のあたりに折れたような痛みを感じた。

しかし、おかげでようやく十分な距離がとれた。

言うことを聞かない全身に鞭を打ち、すぐにでも男を撃ち抜こうとするが、小さな引き金がとても重く感じる。

「へっ…。健気だな。これで終わりだ!」

「まだだ…っ」

引き金を引こうとするヨマの瞳に、男が鉈を振り下ろそうとする姿が写る。

引き金を引ききるより鉈が自分を貫く方が早そうに見えた。

アイとシコンの顔が頭をよぎる。

ポルクさえ手に入れば2人の命が奪われることはないだろう。

しかし、案内なしに村まで帰れるだろうか。

猛植の餌食にならないだろうか。

危険なことに自ら首を突っ込んで厄介だと思ったが、あんなになついてくれた人間は初めてだった。

森を守って1人になったのはいつからだっただろう。

久々に他者の優しさや気遣いに触れることができて、少し楽しかった………

気づけばヨマは、無事に引き金を引ききっていた。

猛植の種が風に舞い、辺りを綿毛が白く染めている。

男が持っていた鉈が地面に落ちているのが視界に入った。

どうやら鉈を振り下ろされるより、銃を撃つほうが早かったようだ。

「なんだよ…良かっ…」

ヨマは1歩踏み出して歩みを止めた。

空中に舞う綿毛が落ち着いてくると、認めたくない現実が広がっていた。

「シ…シコン…?」

ヨマの目の前には、華奢な男に後ろから抱きつくようにして倒れるシコンがいた。

いつの間に戻ってきたのか、シコンが身を呈して、男の鉈を止めたらしい。

その体からはすでに無数の猛植が芽吹き、今にも花を咲かせそうな蕾さえある。

「どう…して…?」

ヨマがシコンを抱き起こすと、シコンは微かに目を開いた。

「ヨ…マさ…大…丈夫で…か?」

猛植の根がシコンの体の中をすごい勢いで支配していくようだった。

「どうして…どう…して…?」

ヨマはシコンの体が寄生されていく事実を受け入れられず、涙を溢れさせた。

「…迷惑か…て…ごめ…なさ…」

掠れた声で言うと、シコンはそれきり動かなくなった。

「嘘だろ…シコン…嘘だ…」

シコンの閉じられた右目から大きな蕾が伸びた。

泣き崩れるヨマに見せつけるように、猛植は一瞬のうちに立派な花を咲かせる。

ヨマは激しい吐き気を感じ、シコンの体の上に突っ伏すように倒れこんだ。

血を失ったショックと救えなかった結果がヨマの生命力を奪う。

ぼやける視界に、泣きながら近づくアイが入った。

来るな、おまえまで寄生される、と叫んだつもりだったが、口はまったく言葉を発していなかったようで、アイはシコンの隣に座り込んでしまった。

"ああ、猛植に喰われてしまう"。

ヨマの意識は絶望の底に沈みながら途切れた。

第8話

目次

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


旦那のお母さん、つまり義母なのですが、旦那から妊娠報告をして以来ちょっとだけ電話が増えた気がします(^_^;)

私に来るんじゃなくて旦那に電話がいくだけだからいいんですけど、そのたびに「腹帯どうするの?だってさ。普通はお嫁さんの親が用意するらしいよ」とか、「戌の日はアイスのお母さんどうするの?って聞かれたよ。普通はお嫁さんの親が付き添うらしいから」とか言われると、ちょっとめんどうだったりします(笑)

私の実家も旦那の実家も片道4時間の距離。

小まめに頼ることはできないし、最初から頼る気もありません(*_*)

自力ですべてやっていくつもりで高校生くらいのときから心の準備をしてたのに、他のご家庭から「親がやるもんだ」って言われるとわずらわしくて( ̄▽ ̄;)

気軽に頼れない親子関係ってありますしねw

お義母さんの電話が苦手だなって思う理由はもう1つ…いや、2つあって(笑)

どちらかというとこの2つが私の中でネックになってしまっています(*_*)

1つ目は、3年にわたり結婚を反対され続けたこと

_<)

しかもバブルのときの金銭感覚が捨てれない人だから不況世代の私たちと話が噛み合わないw

2つ目は挙式を中止するよう騒がれたことです(T▽T)

理由はやっぱりお金のことらしくて、全部自分達でできるように用意してるのに口出しが激しく、最終的には「旦那の家に従えないのか!」「アイスちゃんの親だって次男だから結婚を許したに決まってる!」とかどんどん話が逸れるのでちょっとめんどうに思ってしまったりw

結局挙式は切迫流産で中止になったけど、お義母さんにいろいろ言われてたから「どうせ中止になって内心は喜んでるくせに」とか意地悪なこと思っちゃうし、赤ちゃんのことにあまり口出さないでほしいとも思っちゃいます(^_^;)

旦那の家は男の子しかいないから「初めての女の子!」ってことで楽しみにしてくれてるみたいですけど、この子はあくまで私の子だし(笑)

心狭いなって自分でも思いますが、お義母さんを好い人だなって思えるのはまだちょっと先になるかもしれません(*_*)

6、再来

「さぁ、行こう。少し遠回りになるけど、まだ歩けるか?」

「うん…。でも、さっきのやつ追いかけて来ないかな?」

アイは活発な瞳を曇らせる。

「大丈夫。地下道を通ってここに来たから、あの男にはわからないよ。森の道に詳しくないと地上からは絶対来れない」

「そっか…。ならよかった…」

アイは言葉とは裏腹に暗い声で言った。

何でも1人で背負わなければならないヨマを見て、アイはいまいち気持ちの整理がつかなかったのだ。 

ヨマはシコンを見る。

「シコンはもう歩けるか?」

すると、シコンは別なものに気をとられていたらしくハッとしてヨマを見た。

「あ、は、はい、私も大丈夫…」

ヨマはシコンが見ていたものに気づいた。

「あぁ…。それか。それが本物のポルクだよ」

「えっ?」

アイとシコンは同時に叫んで先ほどの人間のような木を見た。

「想像してたのとかなり違うだろ?」

「はい…。お土産屋さんにあったやつみたいに小枝なのかなって…」

シコンが首から下げた偽物のポルクを触るのを見て、ヨマも服の中に入れてあった首飾りを出した。

「お守りにすると似たようなものだよ。ほら」

鳥の羽で飾られてはいるが、ヨマも小さな枝に紐を通し、首から提げていた。

アイも興味深そうにヨマのポルクを覗きこむ。

ヨマはアイとシコンの顔を交互に見た。

「簡単な願いだったら大体叶えてくれると言われてるよ。あとは、危険なことから守ってくれるともね」

2人は神秘的な話に感嘆のため息をついたが、小枝になる前のポルクの姿を思い出すと、やはり気分が滅入った。

小枝になっているということは、あの人間のような形をしたものから折り取っているということである。

ポルクの正体が本当に木なのかどうか、アイとシコンにはわからなくなっていた。

萎びた人間の一部を折り取る光景が脳裏に浮かぶ。

そこまで考えが至ると徐々に気分が悪くなり、それ以上の思考を停止させるしかなかった。

心なしかヨマも口数が少なくなったようで、アイとシコンはこれ以上何も聞いてはいけないことを悟った。

「それじゃあ、行こう。こっちだ」

ヨマが村への道を見ると、そこには先ほど巻いたはずの男が立っていた。

思いがけない光景にアイとシコンは息を飲み呟く。

「ど、どうして…?」

ヨマの表情にも緊張の色が浮かぶ。

男は火事の現場と猛植の攻撃をかわし続けたことで興奮しているのか、ぎらついた目で3人を見た。

「良い反応してくれるじゃねぇか…おまえら…。そっちのか弱そーうな嬢ちゃんに働いてもらったんだよ」

「わ、私…?」

アイとヨマが驚いてシコンを見ると、シコンの頭の中は一気に混乱に陥った。

「わ、私何もしてないよ!?何も…」

すると男は狂ったような笑い声を上げた。

「よーしよしよし!嬢ちゃんは悪くないよなぁ?自分が道案内をしてるなんて気づかなかったもんなぁ?」

「み、道案内…?」

「まさか…」

ヨマはシコンの腕を引っ張り自分の方へ引き寄せると、シコンの服の襟のあたりを覗きこんだ。

「発信器がつけられてたのか…」

「は、発信器…?」

アイも同じようにシコンの襟を見る。

すると、確かに小さな機械のようなものが、襟の裏側につけられていた。

「いつの間に…?」

アイが記憶を手繰り寄せるようにいうと、男は耳障りな声で高笑いをした。

「おまえらさっき店で俺たちの話聞いてただろぉ?ダメだぜぇ、こっちはプロなんだから、聞かれてるのなんてお見通しなんだよ」

一体いつからそんなことが知られていたのか。

アイとシコンは、ようやく自分達が危ない人間と関わってしまったことに気づいた。

「髭のおじちゃんとぶつかったの覚えてるか?発信器はあのときに取り付けたんだよなぁああっ!おまえらがその白い狐ちゃんに会いに行くって言うからさぁぁあぁああっ!」

アイはさすがに恐怖に駆られたが、シコンは罪悪感でいっぱいだった。

男たちが森の奥ではなく村への道へ入ったのも、シコンに発信器がついていたためだった。

そして、あれほど森を焼いて男を巻いたのに、結局ポルクがあるこの地まで導いてしまったのだ。

男は1人で盛り上がって悪態をついていたが、ヨマは冷静に2人の少女に囁いた。

「俺の銃はアイとシコンまで巻き込んでしまう。振り返らず全力で逃げろ。俺がやばくなったら、たとえ2人を巻き込んででも使わせてもらうからな」

「でも…」

人間の大人の男同士だったらアイも素直に聞いただろう。

しかし、ヨマは体の小さなパルミクだ。

とても勝算があるようには思えなかった。

ヨマはそんなアイを勇気づけるように叫んだ。

「行け!シコンを頼むぞ!」

ついにヨマは背中の銃を抜いた。

細い銃身には小さな刃がついており、ヨマは剣のように銃を構える。

「ヨマさん…」

アイは何も言えないまま、シコンの手を引いて力いっぱい走りだした。

一方、男は嬉しそうにヨマに小銃を向ける。

「バカか!?そんな細っこい銃で勝てると思うなよ!」

男は言い終えないうちにヨマに狙いを定め引き金を引いた。

乾いた破裂音が響き渡り、ヨマの体が衝撃で弾け飛ぶ。

「い…いや…っ」

すでに離れ始めていたアイは、恐怖で全身を震わせながらヨマを振り返った。

第7話

目次

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


先週、旦那が仕事に関する本を探したいと言い出したので一緒に図書館へ行きました。

私は元々本が好きなのですが、毒親の歪んだ方針によって「自分の娯楽に割く時間があったら義務を果たせ。家事しろ、仕事しろ、勉強しろ」という人間に育て上げられていたのでここ10年くらいはまともに本など読んでいませんでした(*_*)

読み始めたら止まらなくなり、義務を果たせなくなることは自分が1番わかっているのでw

しかし、いい加減私も大人なのでそんな毒親からの呪縛も薄くなり、図書館に行ったついでに東野圭吾の『流星の絆』を読んでみました♪♪

せっかく読むなら話題作の方が外れがないですしねw

正直、数年前に読んだ村上春樹の作品が衝撃的すぎて、男性作家さんのはもう読めないかも…と思っていたので、『流星の絆』も後半までかなり苦痛でした(笑)

村上春樹ばりの謎の性描写が出てきたらどうしよう、「なんかやりたい気分だから」みたいな感じで営みが始まったら二度と男性作家は無理…みたいな(*_*)

一応言っておきますが、村上春樹さんを批判しているわけではないので、ファンの方はごめんなさいね((/_;)/)

単に私が性に対して潔癖すぎるのと厳しすぎるだけなんですが、『ノルウェイの森』で世界がひっくり返るかと思うほどのショックを受けちょっとトラウマなのですw

東野圭吾の『流星の絆』はそんな感じで読み始めたので「あー、はいはい、どうせ安易に誰かが営みを始めちゃうわけでしょ?いつですか?そのシーンはいつ始まるわけですか?(←ひどい偏見w)」と思っていたのですが、終盤になっても誰も服を脱がない(当たり前だw)。

私は最後まで醜い心の持ち主だったので、「ご都合主義で終わるのかな?それともバッドエンドでリアルな犯罪者の末路を書くのかな?」と思っていましたが、最後の1節で大どんでん返しでした(  ;∀;)

最後から2番目の節の終わりの方でラストが見えた時点でもはや泣きまくり(笑)

こんなに綺麗に登場人物を救うラストがあるんだなーっていうのと、中心人物たちの心の美しさと素直さが最高でした(о´∀`о)

やっぱ小説はハッピーエンドがいいな(ノ´∀`*)

悲しい話はニュースの中だけで十分(*_*)

私の心が汚れきっているだけで、『流星の絆』は最初から最後まで綺麗な作品だったんですねw

赤ちゃんが生まれるのは春なので、それまでに図書館に通ってまた本漬けの生活を満喫したいものです(о´∀`о)