はじめての人にこそわかりやすく⑪特別展茶の湯に寄せて | 自然派茶道教室「星窓」

自然派茶道教室「星窓」

自然派茶道教室「星窓」主宰。
西麻布茶室


今回の茶の湯展を、どう観じたか。
順を追いつつ、話しの端緒を書き残してみたい。
展示自体の解説などは、他のサイトに
お任せするとして、ここでは自然派茶道の世界観から、
茶の湯展をもう一度、展覧してみたいと思う。

- 空前絶後オールキャスト結集 -

作品や登場人物を挙げれば、
切りがない、、(笑)

どこを見ても、圧倒されるほど!!
四方八方で美の魔物が、微笑む恐ろしさ。
わずか2ヶ月の会期中に、この魔物たちは
総数300点以上
6回も順次入れ替わり、見所を変えていく。

見所が変われば、その都度、
少しずつ見方も変わる。
歴史上の名優たちを前に、思い思いに語らう。
こんな機会は、生涯二度とないかもしれない。
 - 牧谿からはじまる - 

本展の素晴らしさは
第一章の冒頭
牧谿法常の作を展示したところにある。

ちなみに、本作品は室町の末期、
今川義元の軍師でもあった高僧太原崇孚が所蔵し、
遺産分けに妙心寺大徳寺に、
本作観音猿鶴図50貫文の現金と
どちらにするかと聞いたところ、
妙心寺は現金を、
大徳寺は「観音猿鶴図」を選んだ
というエピソードもある国宝の三幅一対。

歴史的に、この牧谿法常の作品以前の絵画は、
唐絵(やまと絵)と呼ばれるものが主流だった。

フルカラーで、具体的に
はじめての人も仏教的世界をイメージしやすいように。
それが、中国の時代に
ももクロならぬモノクロである
墨絵が隆盛を迎えた。

足利義満や禅の僧侶たちにとって
衝撃的な作品だったろう。

室町コレクションとして始まる
美術品の収集は、
〈君台観左右帳記〉という言わば、
美術品のガイドブックなどでまとめられていった。

上上
徽宗(時の皇帝)
趙昌(宮廷画家)
山水(題材)
花鳥(題材)
この衝撃は、絵画だけでは終わらず、

でも起こった。
なかでも、
一山一寧の書は
注目して鑑賞してもらいたい
何ものにも囚われず
豪快で迷いのない伸びやかな線に
多くの僧が、帰依した。

この衝撃は
やがて、怪僧夢窓疎石を輩出し、
五山文化を決定づけていく。
その一方で
時の最高権力者である
後醍醐天皇や花園天皇と大徳寺との関係性で欠かせない
御宸翰がないのは残念でもあったが、
本展示は、三千家寄りを避けることに
かなり配慮したように感じた。

これから30年の茶道界発展を考えた時、
オール茶道、オール流派で
多様な茶道の形が継承されていくことが
何より重要ではないだろか
- 曜変天目輝き -

この曜変天目については
他の数多の書籍、評論に解説と見所は譲りたい。
ただ、一つだけ展示法について。

これは曜変においての
鑑賞方法をどう工夫するかということだ。

幾時代、権力者をはじめ多くの者を魅了してきた
七色の輝き
簡単に言えば、茶碗にガラス膜
かかることによる発色の妙だ。

つまり、ひかりの当たり具合で
反射率がかわるために、発色の良さが展示方法で
かなり変化する。

今回は、静嘉堂美術館からの借り物
という点もあり、かなり照明具合に考慮があった。
最もNGなのが
混雑と展示品への接近

混雑すると、ができやすい。
展示品へ近づき過ぎても、ができる。
すると、曜変天目の醍醐味である

輝きが失われてしまう可能性がある。
少し離れた位置で、鑑賞をお願いしたい。
唐物受容国産化 -

ブランド品と化した唐物と総称される舶来品は
やがて、大陸の国々にとっては
日本への最大輸出品になった。

売れるとわかれば、いつの世も
パクる(笑)
高麗茶碗も、日本の瀬戸茶碗も作られはじめた。

技術力
目利き
販売経路
相互が、影響しあい、高め合うことで

何と何を取り合わせるかという
絶妙な演出力を研く土壌を育んだ。

今でいう
ファッションリーダーの全盛期

千利休も、ここに生まれた一人だ。
- 千利休表と裏 -

本展示では
絵師、長谷川等伯による利休像が展示された。
利休を描いた肖像画で有名なものに、下の写真がある。
実は、どちらも
長谷川等伯によるものとされる
等伯は、利休の取りなしで
冒頭の「観音猿鶴図」を、大徳寺で拝見できた
大きな恩があった。

下の利休像は、死後の釈免ののち描かれたもので
すでに、神聖視された利休を感じさせる。

一方、今回の利休像の表情
まさに新しい価値を創造しようとする
意欲と気概に満ち、鋭い目をしている。
これが茶人の顔つきとは信じがたいほど。

この表情から、利休という人物が
茶人でありながら
豊臣政権の重要な政治家であり、
堺でも有数の大商人だったことを暗示する。

この点は
今後の利休研究を待ちつつも
極めて
茶道を考える上で、見逃せない点であると思う。

一つ欲張りを言えば、
キリシタン大名たちに
少し言及があれば、
今後の研究への励みにもなったように思う。
- 江戸時代の栄華 -

江戸時代になり、茶の湯のファッションリーダーたちは
安定した世情を繁栄して
の都周辺に留まっていた
形式
全国へと広げていった。

その中の代表に
小堀遠州松平不昧金森宗和片桐石州らがいる。
ちなみに、松平不昧公
今年が没後200年という節目。

彼らの愛蔵品から
本阿弥光悦や、野々村仁清をはじめとした
新たな茶道の展開が垣間見れる。
突然、作風が現代的な
フォルムを見せながら、それでいて精神的豊かさを
感じさせる光悦の村雨などは
何時間と時が許される限り見ていたいと思う。
それ以前の
長次郎の作風との違いを
じっくりと味わってみるのも乙かもしれない。

展示はなかったけれど
女性茶道と井伊直弼の茶道についても
ぜひ、どこかで注目してもらえたら嬉しい。
たとえば、後水尾天皇の妃である東福門院をはじめ、
女性茶道の源流にも繋がる展示展開、、

江戸時代は、多様な茶道文化が交差した。
その最後に、滋賀県彦根に生まれた
井伊直弼の存在は、
江戸から明治へと至る茶道史を語る上では
決して見逃せない茶人のような気がしている。
- 近代の茶道 -

本展の最後は、近代数寄者たちの茶の湯。
会期中、次々に展示の近代数寄者が変わる。

写真の益田鈍翁をはじめ、原三渓や松永耳庵など
豪華なメンバーが並ぶ。

ここに加えて、あと僅にスペースがあったなら
バーナード・リーチ
柳井宗悦
浜田庄司らの
民芸運動にも注目があれば、
より充実感の増す人は
多かったのではないだろうか。

総じて
本展に寄せて

茶道界の裾野を広げていく
その点を考え合わせると
非常に重要な展示展開を構成していた。

基本的な茶道の来歴を至宝の道具を辿りながら
味わえる稀有に感謝したい。

まことに
数寄で、欲張りな世界の微笑みが、
そこにはある。


自然派茶道「星窓」主宰  目黒公久

会期
2017.4.11-6.4
東京国立博物館
特別展「茶の湯」