貴女はなかなか人の言うことを聞かなかった
少女のようにヤキモチを妬いては
子供のように拗ねた
誰よりも早く起きては誰よりも遅くまで起きていた
寝室を覗くと
老眼鏡をかけて本を読む貴女の姿
私がベッドに潜り込むと
さも私を待っていたかのように電気を切った
ある夜は眼鏡をかけたまま
口を開けて本を片手に寝ていた
そっと眼鏡を外して電気を切った
そしたら暗がりの中
「あんた、随分遅かったなー」
と私に言った
「 映画ずっと見てたから」
「明日は朝ちゃんと起きないや」
いつものパターン
翌朝貴女は先に起き早々と朝食をすませ
私がリビングに入る時には山へ行く準備をしていた
「昼過ぎには帰るから 」
小さなリュックを抱えて出掛けて行った
車のエンジン音が聴こえ、その音は遠くに消える
暫くして父親が二階から降りてくる
「 お母さん、また山か? 」
「 うん。昼過ぎに帰るって」
だるそうにポットからコーヒーを注ぎ
「 最近毎日山に行っとるで。お母さん母は」
呆れたようにため息をつく
私は無関心に電源の入っていない冷たいコタツに潜り込む
いつものパターン
わかってたんだ
私が一緒に行くよ
と
言ったならば
貴女が本当に喜んでくれる事
わかってたんだ
ずっとわかっていたんだ
でも出てくる言葉は
「 行ってらっしゃい 」
今年の夏は
大山に登るからね
貴女に会いに行くからね
山頂に着いたら私を抱きしめて
「 どう?山登りって最高でしょう?」
自慢げに言いないや
いつもの口調で
それまで拗ねないで待っていて
ありがとう
元子によく似合います