ガルパンはなぜ「いい」のか? | 十姉妹日和

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つれづれに書いた日記のようなものです。

私はもともとガルパンこと「ガールズ&パンツァー」にはあまり興味はなかったのですが、最近twitterを見ているとフォロワーさんたちが次々と「ガルパンはいいぞ」とつぶやきだしたのを見て「あれそんなに面白かったのかな」と不思議に思い、そこでまずテレビ版をあらためて見てみることにしました。


このガルパン、どんな作品かといいますと、この世界では女性が戦車を乗り回して試合を行う「戦車道」という競技(武芸)があり、淑女の嗜みとして古くから親しまれている、というのがまず作品の前提になっています(それでも過去よりは戦車道の人気は衰えているそうですが)。


物語の主人公西住みほは、この戦車道を代々継承する「西住流」家元の家系に生まれ、かつては全国大会で九連覇を果たした名門黒森峰学園で一年生ながら副隊長を務めていた才女でした。

しかし前年の全国大会決勝の途中、競技中の事故で激流に流されてしまった仲間の車両を助けるため、戦列を離れたことで学園が試合に敗北してしまい、その態度を勝利することに拘る母(西住流家元)から叱責されるも、チームの勝利よりも仲間の身を守ることを選んだ自分の判断を否定することはできず、黒森峰から転校し、戦車道からも離れようとしていました。


そんな彼女がやって来たのが茨城県の大洗学園(といっても、この世界ではなぜか学校と周辺の都市はすべて巨大な空母の上にあり、大洗学園もまたそうした「学園艦」の一隻にあります)。

ここは過去にはたびたび戦車道の大会でも活躍しながら、現在はすでに廃止されていると聞いていたからです。

ところが突然生徒会から戦車道が復活したと発表され、みほにも戦車道を履修するように迫ります。


と、実はテレビ版の一話を見たとき、このあたりまで判明したところで「いや、さすがにこれはないだろう」と、視聴をやめてしまったんですね。「らき☆すた」のヒットによって鷲宮に多くのアニメファンが訪れるようになったことから「アニメで町おこし」というのが一時期テレビでも取り上げられるなど盛り上がったことがありますが、ガルパンはそうした「町おこしブーム」の中でも最大のヒット作となりました。

「戦車道」の設定もなんだかよくわからないし、戦車に知識があれば面白いのかも知れないけど、後はどうせよくある萌えアニメみたいにしかならないだろうと考えたからです。


しかしこの作品は私の予想に反してかなりの「ヒット作」となり、この時期の作品としては2011年にヒットした「魔法少女まどか☆マギカ」や、2013年の「ラブライブ!」ほどの話題性こそありませんでしたが、わざわざ作品の舞台になった茨城県の大洗まで足を運ぶファンが出るなどネットでは根強い人気を獲得しました。


こうした熱心なファンは「ガルパニスト」などと呼ばれ、数ある作品のファン層の中でもとくに熱心な一派としてネットでは知られています。

このため、大洗にもかなり大きな経済効果があったといいます。


参考:アニメと聖地巡礼――深夜アニメはまちを救う?

http://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/content.php?pid=662550&sid=5620682


この成功の秘訣は製作陣が事前に現地と意思疎通を行いながら、あくまで大洗が「作品の背景」として邪魔にならない範囲で親しみを持ってもらうことに務めたことが大きな要因だったようですが、なぜこれほどガルパンがヒットしたのか、となるとそれはおそらくファンの多くにもわからなかったろうと思います。

そう。この作品の評価で、一番よくわからないのがここなのですが「なぜこの作品が面白いのか」という点になるとほとんど客観的な評価というのが出てきません。

これは魔法少女まどか☆マギカなどが一時期盛んに様々な媒体で論評されていたことに比べても大きな違いでした。



むしろガルパンに「はまった」人たちの話を聞いていると、そうした作品批評とは無関係に「「とにかく面白い。見ればわかる」という態度で、後はみんなが黙々とそれを楽しんでいるような印象さえ受けます。

そんな彼らが劇場版が公開されるや、万感の思いをこめたように。



「ガルパンはいいぞ」



と、またつぶやき出しました。



私の友人にもすでに映画に三回いってきた、というのが「何人か」いますが、この盛り上がりを見ているうちに「ここまで人を動かす作品には何かあるぞ」と思い直したわけです。



そこでテレビ版をもう一度あらためて見直してみますと、一話、二話はややキャラがごちゃごちゃしていてそれほど面白いとは思わなかったんですが、そのうちに次々と強烈な個性のあるライバル校があらわれ、戦車同士の激しいチーム戦が繰り広げられていくようになると「これ結構面白いんじゃないか」と思うようになりました。



しかし、これが「ストーリー」としての面白さなのか、というとよくわかりません。正直にいって、この作品はあまりにも「王道過ぎるほど王道」の展開の連続です。



後に判明するように、大洗学園は現在廃校の危機にあり、それを回避するためには戦車道の全国大会に出場して優勝するしかないという状態でした。

つまり「負ければ即廃校」という中で、ほとんど予算もなく、経験者もいない弱小チームが戦術を駆使してどうにか格上の名門チームを相手に勝利を収めていく。というのが作品の概要になるわけです。

そして作品そのものも毎回ピンチの連続ながら、とくに大きなどんでん返しもなく最終回となります。

その意味では、こう書いてしまうと誤解があるかも知れませんが「確かに面白いんだけど、どこがどう面白いのか説明するのは難しい」というのがテレビ版を見た後に抱いた私の率直な感想になります。



「一体この面白さとはなんなのか」



何か煮え切らないもやもやしたものを抱いたまま、その回答を見つけるべく、いよいよ劇場版を見に行くことにしたわけですが。



――ここからはかなりのネタバレがありますのでご注意ください。







劇場版はアニメ最終回の後、大会に優勝した大洗学園と知波単学園のチームと、ライバル校のセントグロリアーナ女学院、プラウダ高校の連合チームによるエキシビジョンマッチからはじまります。


実はこのエキシビジョンではこれまで大洗学園がなぜ格上の相手を撃破することができたのか、後の展開にも関係する大きな要素が含まれています。

振り返ってみると、アニメ版の大会で対戦した相手校のいずれにも、大洗学園よりも規模が大きく、保有する戦車の台数でも勝り、個々の能力にも秀でていたことから、大洗を「潰そう」とする余裕がありました。

西住みほはその「余裕」を逆手にとる形で相手チームを巧みに誘導し、直接大将(フラッグ車)を狙うことで試合に勝ってきたのですが、今回はセントグロリアーナもプラウダもそうした大洗学園の作戦を研究してきただけになかなか勝負に乗ってきません。

実は西住みほは黒森峰学園時代から副隊長として少数の部隊を率いるのは得意でも、複数の学園の混成軍や、大規模な戦車を指揮する大戦にはあまり慣れていないのです。

ともあれエキシビジョンマッチを終え、試合後の「打ち上げ」を楽しんでいた大洗学園のもとに、突如として文部科学省から「廃校決定」の通達が届きます。



文部科学省としては、確かに戦車道全国大会に優勝すれば廃校の見直しを「検討する」とはいったものの、やはり廃校の決定を覆すことはできない、というのです。

突然の通達に落ち込む生徒たち。

しかし、ここで大洗学園の生徒会は、日本戦車道連盟と西住流家元(みほの母)を見方につけて、あまりにも強引なやり方だと直談判に訴えます。

その結果、文部科学省の事務官から「大学選抜チームに勝てれば(廃校を撤回してもいい)」という言葉を引き出すことに成功し、大洗学園はここで再び学校の存続をかけての試合を行うチャンスを得ることができました。


ですが相手の大学選抜チームは社会人チームを破ったこともある強豪。

しかも試合では最大30両の戦車を用い、先に相手の車両をすべて倒した方が勝ちという殲滅戦方式で行われることとなります。

大洗学園の戦車はわずかに8両。

格上のチームを相手に、得意の大将車狙いの作戦も使えず、それでも勝つしかないと思い戦術に悩む西住みほ。

そんな大洗学園の絶対絶命の危機に駆けつけてきたのはかつて大会を戦ったライバル校の選手たちでした。


と、大体ここまでが劇場版のハイライトになります。


これが「燃える展開」であるのは間違いありません。

しかし、同時に「やっぱりそうなるのか」と思うほどの「王道展開の連続」ともいえます。

「王道」。

実はこの言葉こそ、ガルパンという作品を評価するのにもっとも相応しいものかも知れません。


「圧倒的に不利な状況からの逆転劇」

「次々と駆けつけてくる仲間たち」


これは今風の「アニメ」よりは、むしろ「昔の少年漫画」に近いものです。

例えば「キン肉マン」や、あるいは「疾風アイアンリーガー」のように、ストーリーそのものが面白いというよりも、キャラクターの圧倒的な魅力が作品の持ち味だった作品の系譜に連なるものといえるでしょう。


このときはじめてこの作品の魅力がよくわかりました。


つまりガルパンという作品は「かわいい女の子と戦車が昔の少年漫画のような戦いを繰り広げる」というところにその「よさ」があったわけです。

このため「どこがどう面白いのか」といわれても「いい」(見ればわかる)という回答が返ってくる現象が起きた。

そう考えると色々なことがうなづけます。


思えば少年ジャンプ全盛期の名作というのも多くはこういうものでした。


ドラゴンボール。

聖闘士星矢。

キン肉マン。


そのいずれもはストーリーよりはキャラクターに大きな魅力のあった作品です。

ですがこうした「王道」を、女の子たちを主人公にして成功した作品はあまり多くはありません。

例外的な存在としては浦沢直樹の名作「YAWARA!」が挙げられるでしょうが、実際にガルパンとYAWARAには。


・主人公がもともと天才的な素質を持つ家系で育った

・過去の経緯から才能はありながら競技から遠ざかっていた

・周囲の楽しんでいる仲間を見て競技への評価が変化していく


など、多くの共通点が見られます。

この意味で、ガルパンという作品は実は「目新しいもの」ではなく、かつての名作漫画にあった「キャラクターもの」としての性質と、近年の「萌えアニメ」の要素を絶妙なところでミックスさせることに成功した「王道萌え(戦車含む)バトルアニメ」だったわけす。


劇場版のその後の展開もまた、こうした咲くほんの王道を踏襲したもので当初は「定石」通りの戦い方をしようとするも、正面からでは敵わないと考えた高校生チームが市街戦に持ち込み、得意な戦法を駆使して逆転していくというものになります。

この試合でもまた大学生チームには「相手は高校生」という油断がありました。


そして、公式の選抜チームらしく同じ仕様の戦車をそろえてきた相手に対して、混成軍の長所を活かしての局地戦をしかけて、逆転していくというのも本編からほぼ連続したものです。

ですが相手の猛攻の前に次々と仲間たちは倒れていき、ついには指揮官のみほと姉の西住しほを除いてすべて車両が全滅します。

そしていよいよ敵の指揮官との戦車戦。

圧倒的な技量を持つ相手に守勢になることを強いられて苦戦しながらも、最後は「友情パワー(あるいは姉妹パワー?)」の逆転勝利、となるわけですが、これはネタバレにしても、想像のつくもので、そこまで含めての「王道展開」がここまではまった作品もめずらしいといえるでしょう。


こうした作品のためガルパンの感想を聞いて「ガルパンはいいぞ」という返信をされたら、そんなものだと思った方がいいのです。

どこがどう面白いかではなく、すべてが「熱い」。そしてキャラクターが「かわいらしい」。

いうなれば極上の料理の余韻を味わった後で、思わず漏れるものこそ「ガルパンはいいぞ」というあの言葉なわけです。

そしれその感動をもう一度味わいたくて映画館にいく。

あるいはよりそれを味わいたくて大洗までいってしまう。

これこそガルパンのもっとも危険なところといえるわけです。


こうした作品が「まどか☆マギカ」のような作品が出た後で、これだけ支持されるというのは大変面白いことだと思います。

今はもう、ほぼ三ヶ月ごとに新しいアニメが次々と放送され、その中では話題になる作品もあれば、すぐに忘れられてしまうものも多数あります。

そうした中で「面白い作品はなぜ面白いのか」という問い。

これはやはり今読んでも「キン肉マン」や「聖闘士星矢」は面白いし、今もまた続編が作られているのはなぜだろう、ということにも繋がっていると思います。

それはやはり「あのキャラクターにもう一度会いたい」。

「あのキャラクターが活躍するのをまた見たい」というファンの強い愛着によるものではないでしょうか。


実際、ガルパンのキャラクターたちはどの学校にしてもとても魅力があります。

それが「何度も見返したくなる」理由でもあり、また例え劇場版が終わったとしても、なおファンであることを続けられる人が多い理由ともなると思います。

そんな昔の「王道」のような展開の作品。

もし、興味をもたれたら一度ご覧になってみてはいかがでしょう。



今回も読んでいただき、ありがとうございました。