小池都知事と豊洲問題と | 十姉妹日和

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つれづれに書いた日記のようなものです。

今朝のワイドショーを見ていると、また豊洲市場の話をやっていた。

とはいえすでに共産党や公明党がとりあげていた地下施設に溜まった水の水質がどうのとか、安全性の問題がどうのではなく、なぜ「盛り土」をする計画だったものを変更し、地下空間の建設に切り替えたのかその責任者は誰なのかという方向に議論は移りつつあるらしい。


もともとこの問題は地下施設の存在が判明した直後から、いささかマスコミが先導して騒ぎ過ぎたような感じがある。

最初にこの地下施設の存在が判明したときには、豊洲市場の安全面の問題が前々から騒がれていたこともあり、「謎の地下空間に溜まっている水」というイメージが、いかにも汚染されているのではないか、という印象を世間に与えたのは確かだろうが、

しかし、これは共産党や公明党の都議団がそれぞれに採取して検査を行ったところ、特別高い濃度の汚染物質が検出されなかったことでほとんど沈静化しつつある。

 

共産党の検査で検出された基準値の4割程度のヒ素というのは別に大きな問題のあるものではなく、公明党の検査で出た基準値以上のシアン化合物にしても、直接口に入れるのでなければ身体的な影響はないだろう、というのが専門家の意見のようだ。

 

参考: http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160920/k10010700881000.html 

 

こうした問題は簡単に風評被害を生むだけに、本来マスコミはもっと慎重に取り扱ってもよかった

ヒ素にしろ、シアン化合物にしろ、今後それがどのように水の中に含まれたのかの調査が必要かはともかく、直接口に含んだり、地上に流すわけではないのなら、それほど緊急性のある問題ではなかった


一方で、都の対応にも色々とずさんなところが目立っている。

世間が知りたがっているように、なぜ盛り土を行う予定を変更したかについては今後説明の責任があるにせよ、おそらく都の職員だけの判断で行われた可能性は低く、当時の都庁の伝達がどのようになっていたかが焦点となりそうだ。

しかし、それよりも気がかりなのは小池百合子都知事の姿勢だろう。

豊洲移転には「延期」を表明したものの、この段階で「計画中止」という可能性はまったといっていいほどない中で、いまだに発言の中に「含み」を持たせていることが気にかかる。

もともとこの築地の移転をめぐっては、これまでも計画が二転三転してきた経緯がある。

振り返ってみれば、今はすっかりと豊洲の問題が騒がれているが、現在の築地市場が現状のままで維持されるには限界にきている、というのがそもそもの発端だった。

築地市場のホームページにはその詳しい経緯が触れられているが、昭和10年に設置された築地の設備はすでにかなりの老朽化が進んでおり、その安全性に問題があることはほとんどの関係者が一致しているとある。

このため当初は移転ではなく「再整備」が検討されており、平成3年度から築地の再整備事業が本格的にスタートしたものの、必要予算の増額や、工事にともなう業者の営業中止期間が長期間に及ぶことが判明したため、平成8年に工事が中断し、その後「移転計画」に方針が変更されたという経緯がある。

つまり、築地の移転そのものはどの道早い時期に行わなくてはならない課題なのだ。

 

参考: http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/faq/01/ 


しかしこうした大規模な移転計画には、当然移転先をめぐる問題や、業界団体ごとの考えの違いもあり、満場一致での解決策というのはもとより期待できるものではない。

すでに豊洲の設備が完成段階に入っている現在、考えるべきはすでに「計画そのものを根底から見直す」という段階ではなく、「豊洲への移転後に問題が発覚した場合、その対処をどのように都として行うか」というべきであるはずなのだが、そうした議論に向かう気配が問題をとりあげるマスコミに一斉見られないのはいささか問題だろう。

それどころかテレビなどではすでに「誰が勝手に計画を変えたのか」という犯人捜しの方にすっかり興味が移ってしまい、これが終わらない限り、移転計画そのものが進まないという論調になりつつある。

今朝見たある局のワイドショーでは、歴代の築地市場長が退職後にどこに天下りをしたとか、どれだけの報酬をもらっているかまでを番組で取り上げていたが、天下りそのものに批判があるのはともかくにせよ、これを東京都庁の体質、公務員批判と絡めて論ずることにメリットがあるとは思われない。

 

これは今の豊洲の問題ばかりではないが、舛添前知事の辞任の前後から、何かネットやテレビを含めたマスメディア全体が犯人探しに躍起になり、新しい問題が出てきては、そのたびに大騒ぎをするというサイクルがすっかり出来上がってしまっているような印象がある。

 

確かに世間からすれば、詳しい背景や、専門家の解説を聞くよりも「誰が原因で、次に誰に責任をとらせればいいのか」という、わかりやすい回答が欲しいのはそうなのだろうが、こうした問題の煽り方があまりいいとも思われない。

私は先日の都知事選で、増田氏が都知事になるのが結局都政にとっては一番いいだろうと考えていたが、これはもちろんまだ小池氏の都政がスタートもしていない段階で否定するものではなく、どちらかといえば小池氏を都知事にと推していた人々の論調を見ていて感じた不安でもあった。

 

あのとき小池陣営の応援をしていた人々は、都議会自民党と都連の会長を務めていた石原のぶてる経済産業担当大臣への批判を展開していたが、そもそもこの小池氏の都知事選への出馬については私もブログで書いたように「自民党のお家騒動の延長にしか思えない」でしかない。

そのため案の定「誰が責任をかぶるのか」ということになると、都知事も自民党をはじめとする都議会も、ほぼ東京都の職員に丸投げしたいというのが本音だろう。

こうした状況では、おそらく豊洲移転ついて、移転の判断をできるだけ急いで行うべきだ、という主張をするのはなかなか勇気がいる。ようするに都庁の「スキャンダル」としては面白くとも「政治判断」としては次第に手詰まりになってきているというわけだ。

 

もちろんこの問題そのものは小池都知事の責任によるもの、というわけではない。

だがここに来て次第に小池都知事と、東京都民の首を絞めはじめたのは、あの都知事選の構図が「改革派の小池氏と旧来の自民党との対立」ではなくて、「自民党内部での安倍政権後を睨みながらの政治闘争」であったのは間違いない。

さらに加えて「自民党に勝つことだけ」のために、鳥越氏のような終わってみれば支持者からも批判がでるような発言を繰り返す候補をわざわざ引っ張り出してきた野党の不甲斐なさもある。

これは概ね国政にしても同じことだが、現在の政治情勢は「支持率の高く安定している安倍政権」を軸に、与党は内部でのポスト争いに、野党はただ与党を批判すればいいというだけで理念も何もない、選挙のための共闘だけを繰り返している状況になりつつあるのは確かだ。

 

もう4年も前にもなるが、私は「安倍さんと麻生さんでしか日本は立ち直れないと思っている」と書いたことがあった。

これは今も正しい認識だったと思っている。

しかし、安倍政権後に訪れる政局が、果たして今よりも安定したものになるかといえば、まったく見えない。

自民党は確かにこの数年で勢力を回復し、政党支持率でも独走を続けているが、大所帯であるだけにかつても「派閥の理論」が再び動き出しそうな気配もある。

このため東京都知事選の構図も、自民党内で最大の影響力を持っている森喜朗元総理と、小池百合子東京都知事の間の諍いの延長として、とくに小池氏は当時党内でもやや他の女性閣僚に比べて「出遅れていた」ために、起死回生の一手としての都知事選出馬だったのだろうと見ていた。

これはまだ当たっていたかはわからないが、最近の小池都知事に関する報道を見ていると、まあ当たらずとも遠からずといったところだろうと思う。

小池氏は確かに自民党に勝った構図とはなったが、負けた自民党側もさすがにここで小池氏への批判を強めていくようなことはしない。

自分の派閥を持たない小池氏は、常にイベント性を演出する必要があるが、それは言い換えれば「都民の関心」こそが彼女の生命線ということであり、果たしていつまで都民が注目しているかを都議会側は冷静に観察している。

こうした構図はある程度予測はできたが、困るのは小池都知事を支持して「おかしな期待」をしていたタイプの人たちだろう。

 

私は小池氏よりも増田氏の方がおそらく都政は安定するだろうと見ていたが、その一番の理由が調整能力だった。

小池氏にはこれが意外とないのだ。

しかし一方でパフォーマンスは非常に上手い。

こうなると都民からの人気を得ることでは増田氏よりもはるかに能力はあるが、都知事として都の職員や、都議会と折り合いをつけるという部分では、数段小池氏よりも増田氏の方が上だった。

そのため、もしも増田氏であれば、おそらく豊洲への移転はすんなりと決まっていただろうし、地下施設の存在が発覚した後でも、計画そのものを部分的に見直すことはしても(もちろんこの段階で野党とマスコミからは相当なバッシングを受けるだろうが)、今のように犯人探しが本題になるような事態は避けられた可能性は高かったと思う。

 

私はどちらかというと自分は右派的なタイプの方だと思っているが、保守という思想が政治的なものによって実現できるとはあまり考えていない。

むしろ日本の歴史を見ていると、官僚制度の安定している時代の方が、国も落ち着いていたのではないかと思っている。

しかし、実際の政治の場では、地味な官僚タイプよりも、急進的な改革者の方が人気があることは多く、今回の小池氏の「フィーバー」にもそうした要因が強かった。

これが私が小池氏を支持しなかった最大の理由でもあるが、安倍政権後の自民党は、少なくとも今の保守的な層が安倍政権に期待しているようなもの(戦後レジームからの脱却など)を急いで行うようなことはないだろうし、またこれは時代の状況にもよるが、そうであってもいいと思っているからだった。

 

おそらく今のネット上で行われているような保守と左派の対立は、後数年で終わるだろう。

 

その後にどういったタイプがリーダーとなるのに相応しいかを考えたときに、政治信条にはあまり賛同できないものの、大きな波風を立てないタイプの増田氏を選んだ方がいいというのが、私なりの結論だった。

なので、今のところその成否はともかく、気分としては非常に楽ではある。

 

もちろん小池氏が嫌いというわけではないのだが・・・。

 

今回も読んでいただき、ありがとうございました。