「食わず嫌い」ならぬ、「観ず嫌い」は良くなかったです。思っていたほど難しい映画でも無く、エンターテイメントだと思いました。(もちろん、反論の余地はあると思いますけど)
私、日本公開当時に予告を見た記憶があるのですが、当時は「猟奇殺人のエロくて気持ち悪いやつやろ~」という印象しかなく、見る気0でした。
今なら蹴ってでも観に行かせるところですが、10年前の私がこの世界観を理解できただろうか?と思うと微妙です。
どうかな…白黒ハッキリしてないと気が済まない人には無理かもしれません。あと、ブラックユーモアを楽しめる感性も必要です。
私の中で、良い映画のポイントっていくつかあるのですが、そのうちの1つに、「観た後尾を引く作品」というのがあります。
観終わった後、「あ~、良かった~」で終わるのでは無く、「あれって、こう?いや、やっぱこういう風にもできたんじゃ?」みたいな感じで、ず~っと自分の中を作品がグルグル回るのです。
アクション映画みたいにスッキリはしませんが、後々深く印象に残る映画、という点ではこの映画は100点満点間違いなしです!
確かに、最初の十数分はグロいシーンがてんこ盛りですが、それを越えるとほとんど気持ち悪いシーンはありません。頑張って最初を耐えれば、後はそれほど気持ち悪くないですよ?
中盤には、ちょっと笑えるシーンもいくつかあって、バランスのとれた良いストーリーです。
後半、何度も思わず「え~?」と声を上げてしまうほど、予想を裏切る展開の目白押し。
終わりの見えない展開に、ワクワクすらしてしまいました。
猟奇殺人の話なのに犯人のグルヌイユを憎めないのは、彼がどこまでも純粋に香りを追求しているから、その純粋さの前に、我々の善悪感を揺さぶられてしまうからかもしれません。
純粋って孤独なのかしら…。抱きしめてあげたい。(はっ、脳内の妄想が漏れちゃった)
エロティックなはずの動作を、猟奇的なシーンを、どこまでも崇高な行為であるかのように演じてしまうウィショー君、怖いくらいです。
観終わった後、グルヌイユの特徴的な歩き方を真似しそうになるぐらい、彼の演技に引き込まれてしまいました。
最初の方は、役のためなのか、あばらが分かるぐらい痩せている彼の心配を少ししていましたが、そのうち演技に引き込まれて、そういう生き物なのだと(笑)思い始めてしまいました。
プロヴァンスの美しい景色も楽しめます。
一面のラベンダー畑や、屋敷に這う薔薇。
たった1滴の香りのためにたくさん摘まれるチューベローズなどなど。
貴族文化、美しいガラスの香水瓶の陰に潜む、虐げられる人たち。良い香りの下の悪臭。
それらが、どちらが良い悪いというわけでは無く、混沌としてあるところが、この映画の醍醐味かもしれません。
そんなものにとらわれず、ただただ自分の香りを追求したグルヌイユの物語、良かったら観てみてください。