「羊をめぐる冒険」へ | カノミの部屋

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ブログ・489「『羊をめぐる冒険』へ」2019・3・14

 

 村上春樹は1981年「ピーターキャット」の経営権を売り、専業作家になった。店はよく繁盛していたし、まだ作家としての地位が定まっているわけではない。陽子夫人は「いいよ」と言ってくれたがが、周りの人たちは反対の声が大きかった。

 

 最近、五木寛之の「作家のおしごと」という本が出た。彼はあらゆるジャンルの仕事を続けて来た、ユニークな作家だけれど、この本の中に、「羊をめぐる冒険」を出版した頃の村上春樹との対談が掲載されている(「小説現代」1983・2月号 講談社)。昭和7(1932)年生まれの五木寛之、昭和24(1949、年生まれの)村上春樹とは27歳の差がある。それぞれの時代の対比が興味深い。

 この対談の中で、五木は、村上の3作目「羊をめぐる冒険」が、初期2冊に比べ、「よく、これだけ短い期間でこんなに変わって来たな、と思うくらい変わってきてますよ」と言っている。それに答えて、彼は「最初に書いた時は、アメリカの作家の手法を、日本語に移し替えるところから始まったのですが、自分自身が非常に日本的なものに向かっているんじゃないか」、「自分の体にまず同化したい」、「自分が手に触れているものだけが本来のもの」で、「文章というものは、そう言った一連の行為の帰結でありたいと思うんです」。

 このように思うようになって、彼は店を売り、住居を移し、持てる力をありったけつぎ込んで書くことに集中した。時間を気にせず好きなだけ毎日小説が書けるということがどんなに素晴らしいことなのか会得できた。

こうして「羊をめぐる冒険」という長編小説が生まれた。

 さて、私は小さい時から本が好きで、手当たり次第本を読んできたが、村上春樹を読み始めたのはずいぶん遅い。彼の本が何冊も出版され、その名声がひろがって何年も経って、たまたま息子が買ってあった「ノルウェーの森」を手にして読んでみた。直子が死んで旅に出て泣くところで思わず泣いた。自分が泣く小説がそれまであっただろうか、この作家の小説を初めから読んでみよう。ということで、夏目漱石以来初めて全作品を読みつつある。

 彼の小説は読みやすく、けれども読んだ後に「謎」が残り、切なさが残り、また繰り返し読みたくなる。今から第1作から読み直しをしているところだ。