10日目の升ノ山関の取り組みはすごかった。
升ノ山関は心臓疾患の為に長い相撲が取れない。他の力士よりも軽い稽古しかできない。スタミナは普通の人以下と診断された。
それでも幕の内にいる。
十両になれずに辞めていく力士がたくさん居る厳しい角界で。
当然どの力士も升ノ山の疾患は知っているだろう。
過酷な星の取り合いの中でその弱点を責めない余裕はないだろう。
立会い、升ノ山の強烈なぶちかましからの押しに体格で劣る双大竜は横に横に回り勢いをいなし引き落とそうとする。それでも自分の、文字通りの生命線である「速攻」「押し相撲」を変えない升ノ山。
パワーと勢いだけでなく、足も良く動いている。食らいついて行く。
何度も何度も土俵際に追い詰められながらも、その度に双大竜も絶妙の間で巧みに体を入れ替える。
10秒経ち、20秒経ち、長い相撲になる。
チアノーゼで真っ赤を通り越して真紫になった升ノ山の顔。それでも猛然と押す。
少し勢いが弱まったのを見逃さない双大竜はいなす作戦から四つ相撲へと切り替えようとする。
胸を張り升ノ山のぶちかましを受けいい形でまわしをとりにいく双大竜。
いい形でまわしを取られた刹那、ほとんど意識も飛んでいるであろう升ノ山は両腕で双大竜の左下手を抱え力任せに投げた。
崩しも体重の入れ替えもないブサイクな小手投げだった。
客席からすごい歓声が浴びせられた。
取り組みを終えた升ノ山は天を仰ぎ明らかに過呼吸気味な息遣い。
真紫色の顔で膝に手をつき息も絶え絶えに喘いでいた。
めちゃくちゃかっこよかった。