只見線とフラワー長井線がプロレスでつながる――全国に広げようプロレス鉄道の輪・中編 | KEN筆.txt

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鈴木健.txtブログ――プロレス、音楽、演劇、映画等の表現ジャンルについて伝えたいこと

BGM:GODIEGO『銀河鉄道999』
 

 

「只見線列車内プロレス」が3年ぶりの開催だったのに対し「ローカル線プロレス」は2019年の第5回以来4年ぶりの復活となる。スタートは2015年7月4日と只見線より2年早く、今や全国に広がった鉄道プロレスの元祖的存在だ。

 

 

山形鉄道フラワー長井線で繰り広げられるこのイベントは「存続に困難を抱えた鉄道でも全国から人が集まる楽しい機会を作れることを、実践をもって見せていく」を主旨とし、沿線の高校生をプロレス列車に招待するクラウドファンディングも実施。また、鉄道プロレスの元祖らしく、2017年の第3回よりPWLL(Professional Wrestling in the train of the Local Line)無差別級王座を認定し、のはしたろう、山形新幹線つばさ、日向寺塁が各年の王者となっている。チャンピオンベルトは木製なのだ。


 


前回までは長井駅前にリングを設営していたが、2021年に駅舎が改装され(市役所庁舎と一体に)今年は「わいわい秋フェス」の会場となり、1000人芋煮会やアンパンマンショーがおこなわれたため、リングは駅舎隣の待合室前広場にへと移動。それによって、すぐ隣を列車が通り過ぎていくというより絵になる風景が臨めることとなった。



芋を煮る直径2メートルの巨大鍋を横目で見つつ、駅舎をはさみ反対側へ。前夜、新潟からやってきたGAINAとのはしだけでなく、盛岡組も深夜出発し早朝に到着。6時半よりリング設営にかかったのだ。列車が通過するとこんな感じに。

 




広場には駐輪場があり、パンチ田原リングアナウンサーはそこを本部席とした。待合室の売店で買ってきた玉こんにゃくを郡司歩に持たせてパチリ。



広場の向かいにはタクシー会社があり、前日のトラさんに続いてこちらでも猫と遭遇。この数時間後、多くの人々が集まったばかりかプロレスで盛り上がることをまだ知らず、おひさまへ当たり気持ちよさそうにしていた。

 

ローカル線プロレスはAブロック列車(赤湯駅発→長井駅着)とBブロック列車(長井駅発→荒砥駅折り返し→長井駅着)とルートが分けられ、それぞれ時間差バトルロイヤルがおこなわれる。優勝した者同士がリングを使用した通常のプロレスによってベルトを争い、PWLL新王者が決まるという寸法だ。

 

各ブロックごとに乗車するお客さんが分かれるわけだが、中には両方とも観戦するファンもいた。9時になるとAブロックに出場するザ・グレート・サスケ、のはしたろう、Ken45°、卍丸、日向寺塁、がばいじいちゃん、義経がマイクロバスで出発地点である赤湯の隣駅・南陽市役所へ移動。11:08に赤湯駅を出発した列車が到着するのを、目の前一面田んぼが広がる無人駅のホームで待つ。いやー、こういう情景、みちのく旗揚げの頃を思い出す。石川一雄カメラマンが撮ったような一枚だ。



赤湯出発から2分後には南陽市役所駅へ到着。只見線列車内プロレス同様、2両編成の控室車両へと選手が乗り込む。私はご厚意によりAブロック列車は客席へと座らせていただく。ちゃんと切符が発行されるのだ。なお、乗客車両は只見線と違い土足禁止だった。




出発とともにいよいよ試合開始。まずは前回覇者の日向寺がPWLLのベルトを巻いて登場。車内にはパンチさんが乗り入場曲も流す。のはしが2人目に登場し、まずはこの両者による一騎打ちから。
 


 

前日に、のはしが言っていたようにローカル線プロレスではつり革を持ったまま床から足を離す行為は反則となる。つり革が古く、レスラーの体重でぶら下がったらブチッ!といく可能性があるためだ。代わりに、立った状態のままつかめばロープエスケープならぬつり革エスケープとみなされる。のはしにリストを取られながら、あっさりとつり革を持って脱した日向寺はドヤ顔。
 



この技も縦長の戦場では重宝されるアキレス腱固め。のはしは2日続けて列車内でヒドイ目に遭っている。

 



その後、Ken、義経、サスケが登場したところで列車は宮内駅へ到着。ここでは停車中の車外戦が認められ、選手たちはホームで乱闘を繰り広げる。出発までに戻らないと失格となるが、なんとか全員間に合った。

 



この間、最後の入場者であるがばいじいちゃんがフツーに乗車入り口から入ってきた。どうやらいったん控室車両を降りてホームを歩いてきたらしい。さらに、これまたフツーに座席へ腰を下ろすと参加者に配られた資料を熟読。フラワー線では日常でよく見かける光景と思われる。
 



そんな中、サスケはつり革にぶら下がりKenを蹴り倒す。当然、反則だがプロレスは5カウント以内ならセーフなのだ。
 



そして慈悲深いマスターは近くへ座るチビっ子の頭を撫で撫でしたが、マスクマンが怖かったのかそれとも子どもの直感でかかわってはいけないと判断したか、何もそこまでというほどギャン泣きし、お母さんにしがみついてテコでも動かない。それでも慈悲深いマスターはさらに顔までクシャクシャになるほど撫でまくったのだが、最後までサスケに対し顔を見せようとはしなかった。どうやらムーの太陽をびた一文信じない模様。マスター、信じない者はどうなるんでしたっけ?
 



一方、なかなか試合へ参加しないじいちゃんの前に卍丸とKenが立ちふさがりガンを飛ばす。こんな場面をなんの説明もなくSNSにアップしたら炎上確実な世の中だ。
 



子どもに心を開いてもらえなかったマスターは、またしてもつり革殺法を見せようとするも、のはしにパワーボムで切り返され1人目の脱落。一方、じいちゃんは着物を脱がされあられもない姿に。暴行を加えるKenに、列車内がブーイングで包まれる。
 



だが、この行為によって火がついたかじいちゃんは得意の杖攻撃で逆襲。さらにがばいボムを狙ったが、揺れる中で人間を持ち上げようとしたため腰を痛めてしまった。こんな間近で腰に手をやる列車内の人間を見たのは初めてだった。
 


 

それまでほとんど闘いに参加せず水戸黄門ばりに様子を見ていた義経だったがKen45、卍丸、じいちゃんと次々と脱落していく中で空中殺法を全開。のはしをステップ台にしてのドロップキックや飛びつきスイングDDTを日向寺にさく裂させる。この男にとって、列車内はまったくハンディではないのか。
 



そして、日向寺を退場させると客席からムーンサルト・プレスを敢行。人類史上初かと思われたが、2016年の第2回大会で日向寺がパイプイスを踏み台に成功しているとのこと。とはいえ、列車の座席からとなるとやはり史上初になるのだろう。
 


 


それでも大和議員との直接対決に執念を燃やすのはしは、このムーンサルトをカウント2でクリア。そしてラ・マヒストラルで電光石火の逆転勝利をつかんだ。




「ローカル線プロレス2023」
★2023年10月1日=山形鉄道フラワー長井線赤湯駅~長井駅列車内(乗客50人)

▼Aブロック時間差バトルロイヤル(7人参加/長井駅到着まで)

のはしたろう(35分ぐらい、ラ・マヒストラル)義経
※退場順=ザ・グレート・サスケ、Ken45°、卍丸、がばいじいちゃん、日向寺塁、義経


このバトルロイヤルに懸ける意気込みの根底に、ヒロシの存在があることを乗車客へ熱弁するのはし。それを冷めた目で遠巻きに見つめるマスターと義経。「狙うは大和ヒロシの首一つ!」と言っておきながら、のはしは別ブロックだったため対戦するにはお互いがバトルに優勝しなければならない。とりあえず、自分は生き残った。
 



長井駅へ着くより早く試合が終わったことから、場をつなげなければならなくなったのはしは最初一人で語っていたが、そこにマスターも加わりやおら漫談を始める。内容は、一日の終わりに奥さんへ電話するさい、最後に「愛してるよ」と伝えているという他愛もない話。最後はマスターがボケて、のはしがツッコみ終了。これを一般メディアの報道陣はどのような思いで見ていたのか。
 



最後は、この日が10月1日とあり「まことにせん越ながら」と前置きしつつ、のはしの音頭による「1、2、3、ダーッ!」で締め。猪木さんが列車内プロレスを見たらなんと言うだろうか。
 



こうして11:52に列車は長井駅へ到着。約44分間の旅だった。


撮影後、ホームから線路を渡り駅舎内の控室へ戻ろうとするサスケのそばにいるのは…あのギャン泣きしまくったボーイではないか! 怖がったのではなく、ましてやヘイトでもなく照れていたに違いない。きっとそうだ。そうに決まっている。その慈悲は少年に通じていたのだ。やはり、マスターを信じてよかった。
 

 

赤湯からやってきた列車はそのままBブロックの戦場へと変わり、長井駅より乗車する皆さんが乗り込む。そして12:11に荒砥駅へ向けて出発進行。ちなみにAブロック方面に乗車する際、パンチさんはゴングを忘れたようで停車中に本部席まで取りにいきBブロック車両には乗せた。




長井駅から4つ目の蚕桑(こぐわ)駅で列車の到着を待つBブロック出場選手たち。こちらはフジタ“Jr”ハヤト、MUSASHI、郡司歩、OSO11、シーサー王、大和ヒロシ君津市議会議員、梶トマトが優勝戦進出を懸けて闘う。シーサー王がすでに威張っている。



MUSASHI、軍事に続き3人目の登場の梶は、列車内でもトマトダンスを踊りハイテンション。こんな乗客に近づきたくない。



今年のローカル線プロレスは人間だけでなく2匹の動物も参戦。シーサーと熊がド迫力のタックル合戦で肉弾戦を繰り広げた。




列車が折り返し地点の荒砥駅へ到着すると車外戦が可能に。他の選手がホームで暴れ回る間に入場してきた大和先生はここでも熱唱。繰り返すが、市議会議員が列車内にて大声で歌いまくるという案件。





そうこうしているうちに出発時間が刻々と迫りくる。寸前にOSO11がシーサー王を蹴落とすと無情にも扉が閉まり、シーサーは置いてきぼりを食らうハメとなった。GAINAに代わって大和を倒すつもりだったのが、このようなミステイクをおかしてしまうとは…去りゆく列車をボウ然と見ながら立ち尽くすその姿が涙を誘った。




列車は出発地点の長井駅を目指す。大和はシットダウン式パワーボムを狙うと予告し、一人で何度となく尻もちをついてデモンストレーション。ところがあっさりとショルダースルーで切り返される。




髙橋ヒロム戦を2週間後に控えたハヤトは列車内でもバチバチファイト。これも切り取られてSNSにアップされたら炎上案件になるというほどに、OSO11の肉体へすごい蹴りをブチ込むと車内がどよめきに包まれた。



さらに郡司へKIDを決めたハヤト。だが、凶器が壊れるほど思い切り殴打し反則負けに。シーサー王、大和、MUSASHI、梶、ハヤトの順で脱落し、最後に残ったのは郡司と熊だ。




結果はOSO11がランニング・ボディープレスで郡司を圧殺。熊なのにダークホースと見られていたOSOがBブロックの代表へ! だいぶ喜んでいたが、人間の言葉を話せないので両手をあげて「ウーッ! ウーッ!」と吠えるだけだった。


 

★2023年10月1日=山形鉄道フラワー長井線赤湯駅~長井駅列車内(乗客55人=満員)

▼Bブロック時間差バトルロイヤル(7人参加/長井駅到着まで)

OSO11(30分ぐらい、片エビ固め)郡司歩
※ランニング・ボディープレス。退場順=シーサー王、大和ヒロシ、MUSASHI、梶トマト、フジタ“Jr”ハヤト、郡司

 

言葉は通じずとも、子どもに対してはやさしい一面を見せたOSOさん。マスターは拒絶されたのに、こちらの熊さんは握手に応じてもらっていた。




試合終えたハヤトは乗客の皆さんを撮影。この日も、こちらのインタビューで語っていたようなことは微塵も感じさせず楽しそうに闘っていた。



12;54にBブロックも無事、長井駅へ到着し記念撮影。梶はこういうシチュエーションでもBJW認定ジュニアヘビー級のベルトを帯同してきた。偉い! ところで大和先生、のはしとGAINAによる謎の挑発行為は本当になんことやらわからなかったそうだが、のはしから直接説明を受けて納得。ロープウェイプロレスが実現したあかつきには、のはしへオファーすることを約束した。政治家には市民との約束を守る務めがあるため、これで確定だろう。



踏切を渡るだけでこんなに高いテンションでいられるのは、たぶん梶トマトだけ。このあと選手たちはしばし休憩。14時からのリングを使った試合に備えた。



6度目の開催にして、念願だったローカル線プロレスを初めて体験できた。のはしが言った通り、只見線と比べるとより密閉感があった。その分、自由度は只見線の方があるとも言えるが、前日にはなかった車外乱闘シーンをはじめ元祖ならではの経験値による工夫が随所で発揮された。

私以外に、只見線からフラワー長井線に乗り換えたお客さんもいた模様(前日、車内アンケートをとったところ、1人が手をあげた)。その情熱には恐れ入る。史上初の2日連続鉄道で闘ったのはしともども称えたい。(後編につづく)