貧困拡大を政府が進める唯一の先進国・日本(「朝まで生テレビ」で湯浅誠氏が「新たな貧困」告発) | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 年越し派遣村から半年。自殺者は11年連続で3万人を超え、若年層の自殺が増加。子どもの貧困などが新たにクローズアップされる中で、6月27日の「朝まで生テレビ」は、「新たな貧困」を取り上げました。


 貧困問題をテーマにしての「朝まで生テレビ」は3回目となりますが、今回「反貧困チーム」から、首都圏青年ユニオン書記長の河添誠さんが出演していなかったのは非常に痛かったと思いました。今回も出演した湯浅誠さん(反貧困ネットワーク事務局長)は、年越し派遣村の村長もつとめましたが、ベースはやはり「NPO法人・もやい」の活動にあるので、生活困窮者の相談が専門ですし、感性が研ぎ澄まされた作家でもある雨宮処凛さん(反貧困ネットワーク副代表)は、自身の体験も踏まえた貧困当事者の代弁者ともいえる存在ですが、生存/労働運動の中ではやはり生存運動の方に力を発揮される方です。


 ですから、湯浅さんと雨宮さんの二人に加えて、首都圏青年ユニオンという生存/労働組合の最先端で奮闘する河添誠さんの力がプラスされることによって、リアルな労働現場の実態、それこそ「新たな貧困」を日々生み出す企業の横暴をも鋭く告発する「反貧困チーム」ができあがっていたのです。(※参考過去エントリー→★ワーキングプア、貧困は自己責任vs反貧困(「朝まで生テレビ」観戦記)★反貧困が議論をリードした「朝まで生テレビ」 - 派遣法抜本改正・緊急支援含むセーフティーネットを


 あんのじょう、河添さん不在の今回の「朝生」は、「新たな貧困」の最大の問題である「派遣切り」「非正規切り」のリアルな告発とそれに抗して立ち上がった非正規の仲間の取り組みの前進や、最大の焦点である「労働者派遣法の抜本改正」問題などはほとんど語られませんでした。それに、番組で「新たな貧困」として、「子どもの貧困」や「シングルマザー」の問題も取り上げていましたが、それならそうと、そうした運動で奮闘している当事者団体などもきちんと出演させて欲しかったと思いました。


 そんなわけで、今回の「朝生」の議論は低調であったと私は思います。冒頭で、全体状況を湯浅さんが語りましたが、その後、湯浅さんが提起した問題が深められるどころか、相変わらずの恣意的な田原総一朗氏の司会で、正規労働者と非正規労働者の無用な対立をあおってみたり、評論家の金美齢氏などがあきもせず「自己責任論」の視点で「危機管理能力が全然できていない貧困者に同情などしている場合じゃなく、企業の国際競争力を高めなければいけない」などと唱えたりで、うんざりでした。


 しかし、湯浅さんの発言を紹介することには意義があると思いますので、以下、湯浅さんの発言の要旨を紹介します。


 年越し派遣村から半年が経過しましたが、現在、「もやい」には、毎日40人の生活困窮者が相談に訪れ、100件の電話相談が殺到しています。新潟で自殺防止の電話相談活動に取り組んでいる知人の話では、毎日60~70件の相談が殺到していて、電話がつながりにくい状況にもなっており、自殺を防止するための最後の電話もつながらず、そこからももれてしまう人がいるような現状だということです。


 このような状況が、ただ本人の頑張りが足らない、本人がもう少し頑張ればいいという話だけですませていいのでしょうか? いまの日本のあり方が私は問われていると思っています。
 子どもの貧困率は、日本以外のOECD諸国は、政府による所得再分配で貧困を救っているのに、日本だけが、政府による所得再分配=税金と社会保険により逆に貧困に突き落としています。政府が12.9%から14.3%へ子どもの貧困率を高めているのです。


      ▼日本政府が所得再分配で「子どもの貧困」を拡大

すくらむ-子どもの貧困


 教育についても、親の年収が高いほど学歴も高くなり、貧困家庭に育った子どもは低学歴になっています。そして、低学歴で社会に出ると、高卒の女性は61.8%、高卒の男性は40.1%が非正規労働者になっています。


 男性15~34歳のフルタイムの非正規労働者は150万人にのぼっています。これで食べていっている非正規労働者が増えただけでなく、男性の低所得正規労働者も増加しています。年収300万円以下の1997年から2007年の割合は、30~34歳で1997年の11.3%から2007年の20.3%、35~39歳で8.1%から13.6%、40~44歳で7.2%から10.0%、45~49歳で7.4%から9.1%など、すべての年齢階層で低所得正規労働者がこの間増えているのです。


 こうした低賃金・不安定雇用の非正規労働者の増加と、正規労働者の低所得化に加えて、税金と社会保険の不公平な負担が貧困を加速させています。下の表は、人口を所得に応じて「所得の低い人20%」「真ん中の人60%」「所得の高い人20%」に分けて、それぞれが、社会全体の総所得と、総負担=税金・社会保険料をどれだけシェアしているかを2006年に調べたものです。ようするに階層別に所得がどれだけあって、税金・社会保険の負担をどれだけしているかというものです。


▼所得階層 ▼所得シェア ▼税金・社会保険シェア ▼その差


▽日本
所得の低い人   6.7%    7.9%         +1.2
真ん中の人    55.7%   52.8%         -2.9
所得の高い人   37.5%   39.3%         +1.8


▽アメリカ
所得の低い人   6.2%    1.8%         -4.4
真ん中の人    53.0%   41.1%         -11.9
所得の高い人   40.8%   57.1%         +16.3


 上の表のように、日本の「所得の低い人20%」は、所得は6.7%しかないのに、税金・社会保険は7.9%も負担しているのです。1.2ポイントも負担が大きくなっているのです。つまり、少ない所得なのに、多くの負担を強いられているわけです。


 一般的に格差が大きい社会と指摘されているアメリカでさえ、「所得の低い人20%」は、所得6.2%に対して税金・社会保険は1.8%と、4.4ポイントも負担が軽減されているわけです。逆に「所得の高い人」は16.8ポイント負担が重くなっています。


 「所得の低い人」には税金・社会保険の負担を軽くし、「所得の高い人」には税金・社会保険の負担を重くするというのは、ヨーロッパ諸国も同様です。


 「所得の低い人20%」に所得よりも税金・社会保険の負担を重くしているのは、欧米先進国の中で、日本だけなのです。そして、「所得の高い人」の税金・社会保険の負担は、欧米先進国の中で日本が一番少ないのです。日本政府だけが、貧困と格差を一層拡大する政策を打っているわけです。


 そして2002年以来、日本政府は社会保障費を一貫して削減し続けました。日本の母子家庭の子どもの貧困率は66%にのぼっているにもかかわらず、今年4月に生活保護の母子加算さえ全廃してしまいました。むしろ、母子加算は引き上げなければいけなかったのに、社会保障費2,200億円削減ありきの中で削ってしまいました。長い間、日本政府は貧困の実態調査さえ実施していません。貧困の実態さえ把握しないでおいて、貧困問題への有効な対策が打てるのでしょうか。


 これまでの日本政府は、貧困問題ときちんと向き合ってこなかったと私は思っています。子どもの貧困問題という深刻な事態もクローズアップされてきているわけですから、日本政府には今度こそ貧困問題ときちんと向き合ってもらって、解決への具体的な手立てをはかっていただきたいと思います。


(byノックオン)