【アタカマ砂漠マラソン再挑戦物語~エピソード3~】
<第1ステージ>
レースのスタートは8時。
みんなそわそわしたのか、5時半には起きて朝食を食べた。
テントの中で準備をしながら、話題は昨日の夜のはるぴぃの寝言の話に。
「そらTEAM A☆H☆Oは損害賠償保険に入っといた方がええと思うで」
3人の子供を育てながら、ファイナンシャルプランナーとして独立しているはるぴぃは、アタカマの夢の中でも仕事をしていた。
そんな話をしながら、和やかに時はすぎていった。
そしていよいよスタートのカウントダウンが始まる。
スリー!
ツー!
ワン!
GOーーーー!!!!
僕らは円陣を組み、こうちゃんのかけ声で気合いを入れてハイタッチしてスタート。
僕はその後すぐに、感謝と感動がこみ上げてきた。
再びここに立たせてもらえたことが、本当にうれしい。
応援してくれたみなさんのおかげ。
次々とありがとうがあふれてきて、涙を堪えるのに必死だった。
今年はどんなドラマが待っているのだろう・・・と思ったのもつかの間、まさかのいきなりのドラマが動き出した。
ジーニョが追いついてこない。
レース2日前、15年ぶりに鼻風邪を引いた影響なのか、ぜいぜい言い苦しそうだ。
「ハァ、ハァ、、、、なんか空気が全然入ってこないんだよね・・・ハァ、ハァ」
ペースが上がらない状況で、最終的にまさおくんがジーニョのリュックを持った。
まさおくんはいきなり30kg以上の荷物を背負うことになった。
だけどまさおくんは涼しい顔をしていた。
やっぱりこの人はすごい。
そしてペースが上がらないジーニョを、らんぼうが引っ張り始めた。
らんぼうは過去に何度も膝を痛め、手術を何度もしている。
しかも直前にむちうちになった。
なのにジーニョのサポートを自ら買って出る。
もともと人力車を引っ張っていたので、その要領でぐんぐん引っ張った。
歩幅の広いらんぼうに、ジーニョは必死に小走りでついて行く。
ジーニョはなんとか呼吸を確保するため、声を出しながら息を吐き始めた。
その様子を見る限りでは、普通の人なら1日目でリタイアしてもおかしくない状態。
しかし、らんぼう&ジーニョコンビは、僕らよりも速いペースで進み始めた。
僕たちは波乱の幕開けだったが、なんとかタイムリミットの30分前にCP1をクリア。
岩の迷路のような場所を進んでCP2へ向かう。
このあたりから僕は視野が95%以上欠けているので、誰かのサポートが必要になってくる。
主に誰かに先に歩いてもらって、その人の足元を見ながらついていく。
そして段差などがある時は教えてもらう。
僕がどんな世界を見ているのか。
この世界が、僕の場合はこうなる。
ドーナツ状に欠けた視野の真ん中に、断片的に次々と石や段差といった障害物が入ってくる感じ。
遠近感もないので、実際に足で踏むまで段差の深さや斜め具合がわからないことが多い。
だから足裏で踏ん張ることも多くあり、人よりも足裏のダメージはどうしても激しくなってしまう。
視野に入ったら瞬時に判断をしなければならず、集中力が途切れると転びまくる。
実際にこの日は、20回以上転んだ。
ズボンの右膝が破れ、膝から血が出た。
昨年も何度も転び、嫌になって何度も弱音を吐いた。
しかし今年の僕は違っていた。
僕にとって転ぶのは当たり前。
その時にいかに気持ちをすぐに切り替えられるかが大事だと思った。
そこで転ぶたびに
「ハッピー!!」
と笑顔で叫んだ。
仲間にも、僕が転ぶたびに「ハッピー!」って言ってもらうことにした。
すると、僕が単純だということもあるのか、驚くほどすぐに気持ちが前を向く。
言葉を人に書く仕事をしているのに、改めて言葉の力を味わった。
結局その日は、ジーニョの荷物を男子たちで分けて持ちながら、最後は元自衛隊のスーパー主婦いけちゃんもジーニョの荷物を持ち、まさにチームワークでその日のゴールまでたどり着いた。
今日の距離は36kmと少し。
キャンプ地に着き、夕食タイム。
僕は昨年、この時点でご飯が食べられなかった。
今年はというと、昼間も行動食をモリモリ食べ、夕食もしっかり食べられた。
こんなことにもうれしさがこみ上げてきて泣きそうになる。
今日1日、ゼーゼーと息切れしながらなんとかゴールできたジーニョも、食欲があり一安心。
万が一明日もジーニョが荷物を持てなかったらと考え、いけちゃんとあっこはジーニョの食べ物を減らす作戦に出た。
2~3kgは軽くなったっぽい。
明日の回復を祈るばかりだ。
その夜にゃんちゃんは、自分が疲れているにも関わらず、全員をマッサージしてくれた。
どれだけ人のために力を使えるメンバーが揃っているんだ。
初日からみんなの凄さに感動しまくる1日だった。
エピソード4へ続く