食品に含まれるCsとSrの基準値について | renormalization

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再規格化(くりこみ)

原発事故から7ヶ月が過ぎ、やっと食品に対する放射性物質の暫定基準値を改める動きが出てきたので、新しい基準値にはどんなことが考慮されるべきか考察したいと思います。


まずは、現在運用されているCsとSrの暫定基準値について確認しておきたいと思います。

その算出根拠は

http://www.journalarchive.jst.go.jp/jnlpdf.php?cdjournal=jhps1966&cdvol=35&noissue=4&startpage=449&lang=ja&from=jnlabstract

にありますが、岸本充生さんのコラムで丁寧に解説されています。

http://www.aist-riss.jp/main/modules/column/atsuo-kishimoto010.html


表1 放射性セシウムの暫定規制値と、その元の計算データ(単位はBq/kg)
図1 放射性セシウムの暫定規制値とその元の計算データ

表2 放射性セシウムとストロンチウムに関する計算パラメータ
表3 飲食物カテゴリと摂取量(セシウムとストロンチウムに対して)

暫定基準値を算出する際に用いる特定の核種の1年間に摂取した食品による実効線量は、CsとSrについては希釈係数を0.5としているので、

特定の核種についての1年間に摂取した食品による実効線量
=0.5×実効線量換算係数×1日あたりの摂取量×{1-exp(物理的崩壊定数×1年)}/物理的崩壊定数
=0.5×実効線量換算係数×1日あたりの摂取量×[1-exp{-1年/(物理的半減期/ln2)}]×(物理的半減期/ln2)

とされています。ここで、

[1-exp{-1年/(物理的半減期/ln2)}]×(物理的半減期/ln2)

は、物理的半減期による食品に含まれる放射性物質の濃度の減衰を考慮した実質的な摂取期間(初日の放射性物質の濃度の食品を毎日摂取した場合の期間)を表し、
Sr89は初日の約72.4日分、
Sr90は初日の約361日分、
Cs134は初日の約311日分、
Cs137は初日の約361日分
となります。

また、1日あたりの摂取量は、暫定基準値を算出する際の初日に換算した食品に含まれるベクレル数としています。

現在運用されている暫定基準値の問題点としては、希釈係数を0.5としていること、想定された核種の放出比が今回の事故の値とは異なること、事故後1年間に摂取する食品による実効線量の上限値を各世代同じ5mSvとして算出されていることなどが挙げられます。
今回の事故においては、放射性物質がかなり広範囲に拡散しホットスポットなども生じています。その濃度の食品を1年間食べ続けたとして基準値を設定したと説明したいのであれば、
希釈係数は1とした方が良いと思われます。また、今回大気中に放出されたSr90は、暫定基準値で想定されていたCs137比で求める量よりかなり小さいようですが、海に流れ出たSr90についてはそういうことは言えないみたいなので、魚介類は一つのカテゴリーに独立させた方が良いと思われます。また、生涯被曝量を考慮すると、乳児や幼児の実効線量の上限値は成人より厳しくしたほうが良いと思われます。


そこで、ここでは、希釈係数は1とし、各世代の1年間に摂取した食品による実効線量の上限値を成人は1mSv、幼児は0.5mSv、乳児は0.4mSvとして全体の基準値を決めることにし、魚介類を一つのカテゴリーとして独立させ、事故後1年から2年までの値を試算してみたいと思います。


各カテゴリーへの割り当ては

飲料水      20%

牛乳・乳製品  20%

野菜       20%

穀類       20%

魚介類     10%

肉・卵・その他 10%

としてみます。


●魚介類以外について

土壌のデータによると、大気中に放出されたSr90/Cs137の比は現在の暫定基準値で想定された0.1と比べるとずっと小さく、Cs134/Cs137の比は事故直後の値に換算するとほぼ1と考えられるようです。したがって事故1年後に土壌に含まれるベクレル数の平均は2桁程度の精度なら、Sr89:Sr90:Cs134:Cs137=0.00:0.00:0.42:0.58と考えて良さそうです。


ここで、

0.5^(1年/2.06年)≒0.714

0.5^(1年/30年)≒0.977

0.714/0.977≒0.73≒0.42/0.58

となるので、事故1年後の土壌中のCsの同位体比はCs134:Cs137=0.42:0.58と考えて良さそうです。これを、魚介類以外の食品に含まれるCs134とCs137の事故1年後の値としてみます。


希釈係数を1とし暫定基準値を算出する際と同様にして、事故後1年から2年までのCsの摂取目安を見積もると、

成人 185(Bq/day)/mSv

幼児 268(Bq/day)/mSv

乳児 128(Bq/day)/mSv

となりました。したがって、1年間に摂取する食品による実効線量の上限値を成人は1mSv、幼児は0.5mSv、乳児は0.4mSvとするなら、

成人 185Bq/day

幼児 134Bq/day

乳児 51.2Bq/day

となります。これを魚介類以外について、その1日あたりの摂取量に応じて割り当てます。魚介類と肉・卵・その他の摂取量は元々の半分ずつとしてみます。


カテゴリー    成人  幼児  乳児

飲料水      22Bq/kg 27Bq/kg 14Bq/kg

牛乳・乳製品  185Bq/kg 54Bq/kg 17Bq/kg

野菜       62Bq/kg 107Bq/kg 98Bq/kg

穀類       123Bq/kg 244Bq/kg 186Bq/kg

肉・卵・その他 74Bq/kg 255Bq/kg 205Bq/kg


となりました。これより、それぞれCsについての事故後1年から2年までの基準値を決めるとすると、


飲料水     10Bq/kg

牛乳・乳製品 10Bq/kg

野菜       50Bq/kg

穀類      100Bq/kg

肉・卵・その他 50Bq/kg


という感じでしょうか。


●魚介類について

福島第一原発近海の海水で検出されるSr90/Cs137比は暫定基準値で想定された0.1よりかなり大きいものもあるので、事故1年後の魚介類に含まれるSrとCsのベクレル数の比をSr89:Sr90:Cs134:Cs137=0.03:029:0.42:0.58としてみます(Sr90/Cs137=0.5)。


希釈係数を1として事故後1年から2年までのCsの摂取目安を見積もると、

成人 119(Bq/day)/mSv

幼児 89(Bq/day)/mSv

乳児 31(Bq/day)/mSv

となり、1年間に摂取する食品による実効線量の上限値を成人は1mSv、幼児は0.5mSv、乳児は0.4mSvとするなら、魚介類についての割り当ては10%としたので、

成人 12Bq/day

幼児 4.5Bq

乳児 1.2Bq/day

となります。したがって、魚介類の1日あたりの摂取量を考慮すると

成人 48Bq/kg

幼児 86Bq/kg

乳児 48Bq/kg

です。これより魚介類のCsについての事故後1年から2年までの基準値を決めるとすると、

40Bq/kg

という感じでしょうか。魚介類の摂取目安が乳児の方が成人より小さくなったのは、Srの実効線量換算係数が乳児の方が成人よりずっと大きいためです。


現在の暫定基準値と比較すると、

水、牛乳・乳製品については20分の1の値(乳児と幼児の上限値を厳しくしたため)、

野菜、肉・卵・その他については10分の1の値、

穀類については5分の1の値(もともと安全側に基準値が設定されていたため)、

魚介類については12.5分の1値(魚介類に含まれるSr90/Cs137の比を0.5としたため

となりました。