【β線(電子)の平均エネルギーを訂正し、γ線(光子)の吸収率を変更しました】
(2011年12月30日)
年齢による内部被曝の影響の違いに注目が集まっているので、今回はCs137を経口摂取した場合の実効線量換算係数を年齢別に見積もってみます。
実際の計算では、各臓器の等価線量換算係数をモンテカルロ計算で求め、それに組織荷重係数の重みをかけて足し合わせ実効線量換算係数を算出するわけですが、ここでは、Cs137は体内に一様に分布し、さらに各臓器の等価線量は等しいと近似して、実効線量換算係数を見積もることにします。
体重Mは、
3ヶ月:5kg、1歳:9kg、5歳:18kg、10歳:35kg、15歳:55kg、成人:60kg、
としてみます。
放出されるγ線のエネルギーが全身で吸収される割合は、
3ヶ月:20%、1歳:22%、5歳:25%:10歳:28%、15歳:30%、成人:33%、
としてみます。
β線のエネルギーはほぼ体内で吸収されますが、γ線は透過率が高く体内に吸収される割合はそのエネルギーによって異なります。次の資料のfig.5によると、成人の場合、その全身による吸収率はMIRD法では約30%です。また、MIRD法での体重による吸収率の違いはfig.10にあります。
体内動態モデルは以下の資料を参考にします。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001cyyt-att/2r9852000001cz7c.pdf p.15
●Cs137の1Bqあたりの原子核の個数A
Cs137の半減期は30.1年なので、
A=(3600×24×365)×30.1÷ln2個/Bq≒1.36E+9個/Bq
です。
●体内で崩壊する割合について
体内のCs137原子核の個数Nは物理的崩壊と生物学的な排出によって減少していきます。
物理的崩壊定数をλp、生物学的崩壊定数(排泄定数)をλbとすると、単位時間あたりのCs137原子核の個数の変化dN/dtは、
dN/dt=-(λp+λb)×N
と表せるので、体内で崩壊する割合をSとすると、
S=λp/(λp+λb)
となります。ここで、物理的半減期をTp、生物学的半減期をTbとすると、
Tp=ln2/λp
Tb=ln2/λb
という関係があるので、TpとTbを用いてSを表すと、
S=(ln2/Tp)/(ln2/Tp+ln2/Tb)
=Tb/(Tp+Tb)
となります。Cs137の場合TbはTpよりずっと短いので、ここでは、
S≒Tb/Tp
と近似することにします。
●体内動態モデル
Cs137は早いクリアランス成分aと遅いクリアランス成分bがあり、それぞれの割合を、Pa、Pb、それぞれの生物学的半減期をTba、Tbbとします。このとき、
S=(Pa×Tba+Pb×Tbb)/Tp
となります。
・3ヶ月 Pa=0、Pb=1、Tbb=16day
S=16day/(365day×30)≒1.46E-3
・1歳 Pa=0、Pb=1、Tbb=13day
S=13day/(365day×30)≒1.19E-3
・5歳 Pa=0.45、Pb=0.55、Tba=9.1day、Tbb=30day
S=(0.45×9.1day+0.55×30day)/(365day×30)≒188E-3
・10歳 Pa=0.30、Pb=0.70、Tba=5.8day、Tbb=50day
S=(0.30×5.8day+0.70×50day)/(365day×30)≒3.36E-3
・15歳 Pa=013、Pb=0.87、Tba=2.2day、Tbb=93day
S=(0.13×2.2day+0.87×93day)/(365day×30)≒7.42E-3
・成人 Pa=0.10、Pb=0.90、Tba=2.0day、Tbb=110day
S=(010×2.0day+0.90×110day)/(365day×30)≒9.06E-3
●体内でのCs137の1崩壊あたりの全身に吸収されるエネルギーE1
Cs137の大部分(94.4%)はβ線を放出し中間体であるBa137mになってからさらにγ線を放出します。
それらのCs137の1崩壊あたりの平均エネルギーは、
β線:0.19MeV+0.944×0.065MeV≒0.251MeV
γ線:0.944×0.60MeV≒0.566MeV
ぐらいです。
http://www.evs.anl.gov/pub/doc/Cesium.pdf
http://nucleardata.nuclear.lu.se/NuclearData/toi/nuclide.asp?iZA=550137
ここで、β崩壊では電子とともに反電子ニュートリノ及び娘核が生成され、それらが崩壊で生るエネルギーを分け合うので、電子が得るエネルギー分布は幅広くなります。1.176MeVや0.514MeVは発生するβ線のエネルギーの最大値で、これらの平均値が0.19MeVになります。
・3ヶ月 放出されるγ線のエネルギーが全身で吸収される割合:20%
E1=0.251MeV+0.20×0.566MeV
≒0.364MeV
≒5.82E-14J
・1歳 放出されるγ線のエネルギーが全身で吸収される割合:22%
E1=0.251MeV+0.22×0.566MeV
≒0.376MeV
≒6.02E-14J
・5歳 放出されるγ線のエネルギーが全身で吸収される割合:25%
E1=0.251MeV+0.25×0.566MeV
≒0.393MeV
≒6.29E-14J
・10歳 放出されるγ線のエネルギーが全身で吸収される割合:28%
E1=0.251MeV+0.28×0.566MeV
≒0.409MeV
≒6.54E-14J
・15歳 放出されるγ線のエネルギーが全身で吸収される割合:30%
E1=0.251MeV+030×0.566MeV
≒0.420MeV
≒6.72E-14J
・成人 放出されるγ線のエネルギーが全身で吸収される割合:33%
E1=0.251MeV+0.33×0.566MeV
≒0.438MeV
≒7.01E-14J
●実効線量換算係数F
F=(A×E1×S)/M
で見積もることができます。
Cs137の生物学的半減期は全ての年齢において50年よりずっと短いので、Fは預託実効線量換算係数とみなして問題ありません。
・3ヶ月
F=(1.36E+9個/Bq×5.82E-14J×1.46E-3)/5kg
≒2.3E-8Sv/Bq
・1歳
F=(1.36E+9個/Bq×6.02E-14J×1.19E-3)/9kg
≒1,1E-8Sv/Bq
・5歳
F=(1.36E+9個/Bq×6.29E-14J×1.88E-3)/18kg
≒8.9E-9Sv/Bq
・10歳
F=(1.36E+9個/Bq×6.54E-14J×3.36E-3)/35kg
≒8.5E-9Sv/Bq
・15歳
F=(1.36E+9個/Bq×6.72E-14J×7.42E-3)/55kg
≒1.2E-8Sv/Bq
・成人
F=(1.36E+9個/Bq×7.01E-14J×9.06E-3)/60kg
≒1.4E-8Sv/Bq
と見積もれました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001cyyt-att/2r9852000001cz7c.pdf p.16
およその傾向は再現できたようです。体重Mの値の選び方によって実効線量換算係数の値は変わりますが、年齢による実効線量換算係数の違いが小さい主な理由は、Cs137は0歳児を除いて低年齢の方が生物学的半減期が短いためだとわかります。
今回は、各臓器の等価線量を等しいとする近似したので、各臓器の等価線量の違いが実際大きい場合は見積もりの精度が悪くなります。β線源の場合はそれが体内に一様に分布すれば各臓器の等価線量は等しくなりますが、各臓器が吸収するγ線のエネルギーは臓器の配置と大きさに依存するので、γ線による影響が大きい場合は各臓器の等価線量の違いが大きくなり、体内に一様に分布していても、見積もりの精度が悪くなります。