遅ればせながら、
2018年のシナデミー賞を発表します。
昨年は例年よりあまり映画を見れなかったので自重しようかとも思いましたが、「それでもやるのが大事でしょう!」と、あるツイッターでのやりとりを経て思い直しました。
2018年に劇場で見た新作を対象に10本を独断で選びます。
[追記:関連作は対象外にしています!]
1年のランキングを決めていくのは細やかな楽しみでもあるのです。
作品の優劣と言うよりは自分にとって重要だった10本です。
それでは発表します!
1. 寝ても覚めても(濱口竜介)
2. ラブレス(アンドレイ・ズビャギンツェフ)
3. 幻土(ヨー・シュウホァ)
4. きみの鳥はうたえる(三宅唱)
5. BPM(ロビン・カンピヨ)
6. 心と体と(エニュディ・イルディコー)
7. それから(ホン・サンス)
8. ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)
9. バルバラ(マチュー・アマルリック)
10.タクシー運転手(チャン・フン)
5本目まで、個人的な見地から選出理由を述べます。
この映画を見た時、今年のベストはこれになるだろうという予感があった。
時々、「ホラー映画のようだ」「人の業の話だ」というような意見を目にしたけど僕はそうは思わなかった。
流れていく時間に身を任せると、過去と繋がる瞬間も訪れる。それは通り過ぎて切り離されたものではなく、並列に繋がっているものだ。
映画の中のとあるショットのように、「自分の世界に存在しているが見えてなかったもの」が照らされる感覚になった。劇場の灯りがついても映画から抜け出せないほどのめりこんだ。文句なしのBest1。
2.ラブレス(アンドレイ・ズビャギンツェフ)
「愛」について語るには、「愛」のない世界を思い描くと良い。それは冷徹なだけでなく、(無自覚の)暴力であることに気づかされる。
この映画は、ルーマニアの人工中絶を描いた「4ヶ月、3週と2日」を見た時のような、人生において必要なトラウマを与えてくれた。
ショッキングな点もある映画だがすべての人に勧めたい。
失ってからは遅い。
繋がりやすく、そのために繋がりづらい今こそ、愛について考えるべきだ。
3.幻土(ヨー・シュウホァ)
なるべくシナデミーは、「読んでくれた方がDVDや配信で映画を選ぶ参考に…」という名目があるが、
この作品は他の作品と違って東京フィルメックス(映画祭)で見た劇場未公開のもので、日本で一般公開はされていない点をお詫びしたい。(今後の一般公開を切に願う)
「シンガポールは土を各地から集め埋め立てて、国土を広げてきた」というところから生まれた「幻土(げんど)」というタイトル。
夢と現実が錯綜する。まるでシュールレアリスムのような世界観。
僕たちが生きるリアルも、幻の土の上に立ってるような気持ちになった。あやふやなネット世界、デジタル情報の洪水が現実を凌駕する勢いで溢れてる現代と、観ながらピタリと重なった。
正直よくわかってない部分もあるけど、それが良い。僕らは現にわからないものに振り回されてる。理屈で納得のできるものなど、身の回りには一握りだ。
4.きみの鳥はうたえる(三宅唱)
去年は社会的にも「万引き家族」「カメラを止めるな」と受賞&異例のヒットした素晴らしい邦画が多かった中、
シナデミー会員の間では「寝ても覚めても」「きみの鳥はうたえる」が双璧だった。(出演作は外してるけど「飢えたライオン」と「恋愛依存症の女」もネ!)
社会に対して責任がない、いわば"猶予期間"のような時間の煌めきとその終わり。
傷つかないように自分の心を隠したり無いことにしようとしても、存在を否定することはできない。
主人公がそこに向き合えるようになるまでの時間。自分の問題のようにも思え、沁みた。
5.BPM(ロバン・カンピヨ)
この映画は2018年で1番切実な1本だったかもしれない。エイズへの偏見と戦う団体、"ACT UP"に実際にいた監督と共同脚本の2人の実体験が基となり、映像から気持ちがガンガン伝わってくる。
後半に少しばかり冗長に感じる部分もあったが、それもどうしても細部まで描きたかったのだと思うと泣けてくる。命の限りを知る者たちの団体での戦い。その切実さは思い出すとまた胸を打つ。映画内に出てくる民主的な会議の方法もぜひ見習いたい姿勢だった。
6位以下は長くなるので、泣く泣く割愛します。
そして、役者の付けるベストということで、例年通り男優賞と女優賞も発表します。
最優秀主演男優賞
『ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート』(BPM)
圧倒的なエネルギーと繊細さを持って、時にセクシーに、ユーモラスに、残りの時間を生きるショーンを魅力たっぷりに演じ切った。
彼(役柄)の人生の問題だから見ていたくなったし、映画が何段階も輝いた。そう思わされた素晴らしい演技。
最優秀主演女優賞
『アレクサンドラ・ボルベーイ』(心と体と)
知的なハンデを持ったマーリアを、深い理解と洞察を持ってチャーミングに演じあげた。
表情に出なくても内面の変化が画面に映り込み、無表情な瞳からは緊張感、恥じらいやときめきまでも感じられた。その「表に出ない」葛藤が、この映画を文字通り創り上げていた。
他にも素晴らしい方がたくさんいましたが、2人の演技にとりわけ大きな拍手を送ります。
以上で2018年シナデミー賞の発表とさせていただきます。
「あれも入ってないじゃない!」など、色々あると思いますが、観逃した作品も多く、その可能性もあります。どうか目くじらを立てないでいただけたら。
2019年もたくさん映画に触れて、豊かな時間を過ごしたいですね。
映画といえば私の監督作「不感症になっていくこれからの僕らについて」は、2/17(日)札幌で出演した「恋愛依存症の女」他と特別上映、
また、2019年夏にテアトル新宿で田辺セレクションの一環で公開です。
そして2/7(木)〜11(月祝)の