チャッピーのデザインは『アップルシード』を参考にしたと言うほど監督は日本アニメに造詣が深い。対するムース<MOOSE>のデザインは『ロボコップ』から引用していると監督もコメントしているが、この作品はオイラか思っていた以上に『ロボコップ』だった!
警察が導入したロボットと言えば『ロボコップ』である。本作の「スカウト」は、それに当たる。凶悪犯罪に対抗する警察と企業、そして企業内部での対立する開発者という『ロボコップ』の構造を軸に、人工知能を搭載した「イレギュラー」の成長を描く。『ロボコップ』では、未熟な機械を人間のパーツで補う事で 「イレギュラー」を生み出したが、コンピュータが人間に追いつこうとしている現代に於いて、もはや人間のパーツは必要ではなくなった。その上で生まれた「イレギュラー」の、アイデンティティを問う、まさに『ロボコップ』そのもののテーマを、圧倒的なリアリティで描き出しただけでなく、更に踏み込んで「次の世界」への可能性を提示した。まさに、ニール・ブロムカンプ監督は、21世紀の『ロボコップ』を再発明したのである。
ビジュアル面でも『ロボコップ』にオマージュを捧げ、MOOSEがED-209にインスパイアされている事は勿論だが、効果的にTVのニュース映像を取り入れ、ディストピアと化したヨハネスブルグの世界観の構築に成功している。後半にも、ロボコップが麻薬工場で、クラレンスを放り投げ、ガラス扉を何枚も突き破る!あのシーンを再現したような映像を、キッチリと描いている!
それでいてこの映画は傑作である。オマージュだけではない!普遍的なテーマとオリジナリティ溢れる新しいテーマを見事に融合させている!チャッピーの成長に、思わずハラハラさせられる。ロボット映画でありながら、人間の「基本的本能」に訴えかける傑作だ。
俳優陣も素晴らしい。
『第9地区』で主人公を、『エリジウム』では悪役を演じて来たブロムカンプ監督の盟友、シャルート・コプリーは、この『チャッピー』ではタイトルロールのロボットを、モーション・キャプチャーで演じている。動きで感情を表現する彼の演技は、ロボットに魂を吹き込む事に成功している。
『スラム・ドッグ$ミリオネア』のデーブ・パテルは、治安維持ロボット「スカウト」の開発担当として登場し、自らが組んだ「人工知能プログラム」を廃棄処分のロボットに仕込む。彼の上司は、僕らのSFクィーン!『エイリアン』のシガニー・ウィーバーが嬉々として演じている。
ヒュー・ジャックマンが、ライバルの開発担当者として登場する。珍しく悪役を演じており『プリズナーズ』の時にも見せた凄みを出しており、「自分の正しさを信じて一線を越える男」を怪演している。
特筆すべきは、ギャングの夫婦、ニンジャとヨーランディだ!彼らは南アフリカで活躍するダイ・アントワードというラップ・グループで、芸名もそのままニンジャとヨーランディ!俳優でもないミュージシャンが、ギャングを演じている。
見るからに、いかちぃ2人だが、映画を見ていると、二人の魅力にグイグイと引き込まれてしまう。ニンジャはイケメンに、そしてヨーランディは、きゃりーぱみゅぱみゅに見えて来るから不思議だ!ブロムカンプ監督が「彼らを使いたいから舞台をヨハネスブルグにした」と言う程の魅力は納得で、役者顔負けの演技を披露してくれている。私生活においてもご夫婦のお二人は、ニンジャの名前が示す通り、大の日本贔屓!日本でも彼らのブレイクは必至だ!劇中でも、彼らの曲がかかりまくっているので、Check it out!
レーティング問題で、カットを理由に観ないとの声もあるが、この映画を劇場で観ないのはもったいない。若きこの監督は、将来ハリウッドで巨匠と呼ばれる地位に登り詰める才能を秘めている。『チャッピー』は今後、彼を語る上で欠かせない作品となるだろう。是非、劇場で観ていただきたい一本だ。
一貫して「変身」を描いて来たブロムカンプ監督に、今回もブレはない。早速、彼の投げかけた問題は、賛否が分かれているようだが、オイラはこの作品は、ハッピーエンドと解釈している。SF映画に於いて、賛否が分かれる作品は良作だ。
この映画では、あえてラストの葛藤が描かず結果を見せる。コレは、彼の作品の特徴だ。ここに拒絶反応を示さず、しかと見て欲しい。ここでテーマの是非を託されたのは我々だ。賛否が分かれ、誰かと語り合える映画こそ、SF映画の本来の姿である。
ブロムカンプ監督は、ソニーとの契約を満了し、次回作は20世紀フォックスと契約した。次回作は『エイリアン』である。誰もが見たかった「真の『エイリアン2』の続編」を作るという!
今度は『エイリアン』で、どんな「変身」を見せてくれるのか!期待せずにはいられない!もう、ワックワクで待機している。