ドイツ銀行を始めとする欧州の金融機関の抱える危機 | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 すでに一部で言われているように、ドイツ銀行(ドイツ最大の民間銀行、ドイツの中央銀行ではない)がかなり深刻な状態になっています。2015年度の業績においては日本円に換算して約9000億円の赤字を計上しました。(以下も理解しやすいように、すべて日本円で記述します。)さらに排ガスの不正事件に関連して、フォルクスワーゲンの当面の資金繰りを助けるためにドイツ銀行は1兆3000億円の融資を行わざるをえなくなりました。フォルクスワーゲンは米政府の制裁金が2兆円ほど必要となると見られ、不正エンジンの改修費用でさらに5兆円以上かかると見られています。消費者のフォルクスワーゲン離れが進んでいることによる販売不振が続くことも想定せねばならず、フォルクスワーゲンを救済するための金融負担は10兆円を超えると考えられます。つまり、回収のめどが立たないのに、フォルクスワーゲン絡みの融資を拡大させねばならないところにドイツ銀行は追い込まれているわけです。

 ところで皆さんは、ギリシャと並んで破綻の危機に陥ったスペインの国債の金利がどうなっているか、ご存知でしょうか。なんと、あのスペインの10年もの長期国債の金利が現在では1.6%ほどしかないのです。ユーロ圏の短期国債の金利は現在軒並みマイナス金利に陥っており、長期国債の金利にしても2%割れまで下がっています。これはECB(欧州中央銀行)が日銀に先駆けてマイナス金利を導入するところまで金融緩和を進めたこととも関係しています。

 ではスペインの危機は去ったのかといえば、決してそんなことはありません。スペインにおいては昨年の12月20日の総選挙の結果に基づいた組閣が未だにできないままとなっており、行政が機能していない状態に置かれています。スペインではこのまま5月頃まで組閣ができないまま放置されて再選挙になるのではないかとの観測が有力視されていますが、これは要するに5ヶ月間も行政がまともに機能しない状態のまま放置されることを意味します。スペインの政府純債務残高対GDP比は2015年10月段階での推計値で、リーマン・ショック時の2008年の30.02%から2倍以上の64.79%にまで跳ね上がっています。しかしながら、他に運用先が見当たらないことから、欧州の金融機関はこんな不安定な国の国債でさえ買い進めないとやっていけないところまで追い込まれているわけです。

 このように国債においてもまともな運用ができなくなったこともあって、欧州の銀行はリスクの高い新興国への投資などを積極的に展開してきました。例えば近年ドイツが中国に接近していたことはよく知られているとおりで、要するに中国などの新興国向けの融資残高が膨らんでしまっているわけです。

 全世界的に経済が順調に拡大を見せている段階では問題にならないことが、この歯車が逆転するととてつもない反作用をもたらすことになります。先進国から新興国に向かって流れていた資金の流れが逆転してきていることから、新興国の経済危機がどんどんと高まっています。そしてその経済危機の高まりがなおさら新興国からの資金の引き上げに向かわせることになり、さらに危機が進化することになるわけです。

 ドイツ銀行が抱えるデリバティブの想定元本は8000兆円程度とみなされており、デリバティブがいったん弾けて、ドイツ銀行がその想定元本の1%の毀損を負わなければならなくなったとしても、80兆円という負担が発生することになります。リーマン・ショック時には金融緩和を行うことによってそのショックを和らげることがある程度可能でしたが、今回は通常の金融緩和に加えてマイナス金利を導入するところまで量的緩和も進めきってしまったために、金融政策でこのショックを和らげられる余地がないわけです。

 フォルクスワーゲンが引き金になるのか、中国のハードランディングが引き金になるのか、それ以外のことが引き金になるのかはわかりませんが、一旦どこかで歯車が狂うと、それらが連鎖的につながっていく危機があることを見据えておかないといけないでしょう。

 このように見た時に、ドイツ銀行だけが問題を抱えているわけではなく、欧州の銀行は総じて同じような問題を抱えていると考えるべきだということになります。先進国の経済政策はこれまで金融緩和一辺倒で進めてきましたが、これに対して壮絶な逆バネが作動することになると、経済にとてつもなく大きな負担をかけることになります。そういう危険の一端がドイツ銀行の危機に典型的に現れているように、私には感じられます。


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