学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEADとゾンビ | リュウセイグン

リュウセイグン

なんか色々趣味について書いています。

長文多し。

今期の期待作とされている一つ『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』(以下HOTD)が放映されたり放映されたと思いきやされていなかったり している。

僕も1話を視聴した。
動画素人な自分でも分かるくらいとっても動きが良いし、ヒロインが素晴らしい人間のクズなので興味を惹かれる作品ではありました。

ただ現時点に於いて「ゾンビ物としてはどうなんだろう」というような印象もあります。
これは『世紀末オカルト学院』にも共通する感慨で、

「一個のアニメとしては面白そうだけどジャンル物としてはどうなっていくのか予断を許さない」

みたいな感じです。
前期は『HEROMAN』にジャンルものとしての期待を掛けた(あまり応えてくれたとは言えない)事の裏返しみたいなもんか。

そんな訳で、ゾンビ映画とは何かそしてHOTDの場合はどうなのかをちょっと考えてみたいと思います。

とまぁ偉そうな出だしですが、そんなに多くのゾンビ映画を見た訳ではありません。
むしろ同好の士としてはロメロ辺りをちょっとを撫でた……いや触れただけというレベル。

ただどちらかというと「ゾンビ」という存在そのものに対して考えていくので、その辺りはご寛恕下さい。

ゾンビものを分けると幾つかの系統に纏められます。

クリーチャー(ホラー・アクション)
ゾンビは戦うor逃げるべき敵として出てくる(シリアスに)

スプラッター
ゾンビが人を襲う描写、ゾンビになった後のグロい描写が中心

パニック
ゾンビによって群衆が逃げまどい社会に影響を与えるもの

滅亡
ゾンビによって人類が終演していく様を描く

コメディ
ゾンビや襲われる人間がコミカルに描かれる

考えつくのはこんなところ。
もちろん、これらは単純に分割出来る物ではなく複合的な要素を持っています。
ロメロのゾンビはパニック&滅亡の要素が強く、『ブレインデッド』などはスプラッター&コメディ、『バタリアン』もそんな感じでしょうか。最近で言えば『REC』はクリーチャー&パニックとか。
ただどの作品も例えばクリーチャーとしての要素を持っていないかと言えばそんなこともなく、要するに程度の問題ですね。

これらの系統はゾンビ物のカテゴリとして存在すると同時に、ゾンビの魅力としても存在すると思います。
では、ゾンビの特色とは何でしょうか。

一つ、数が多いこと。
一つ、数か増えていくこと。
一つ、生物の死体であるということ。
一つ、死体は基本的に損壊していること。
一つ、生前の意識がほぼ残っていないこと。

これらが主として挙げられるでしょう。
逆に言えば数が少なく、数が増えず、元が生物でなく、肉体が完全であればゾンビとは言い難い。別のクリーチャーです。まぁバイハザなんかでは色々なのが出てきていますが、アレを全てゾンビと言えるかどうかは難しい。

これらの要素を俯瞰して、人間に当て嵌めて考えてみましょう。
数が多いというのは人間と同様ですが、その数か増えていく・死んだ生物(人間)となってくるとその意味は違ってきます。
ゾンビというのは増えれば増えるほど人間が減っていく仕組みになっているのです。
そして多くは食いちぎられた状態でゾンビとなり、生前の精神状態からはほど遠いところにあります。

精神を浸食し、肉体を咀嚼し、種族を駆逐する。

これがゾンビです。
彼らは直接的な「死」を与えるクリーチャーとは全く異なる恐怖を人間に与えるのです。
浸食の恐怖、いや不気味さとでも言うべきでしょうか。
人間を人間たらしめているものを段々と削り取ってしまい、どんどんと増えていく。
言うなればひたひたと迫り来る腐食の海のようなものです。
そういえば日本の代表的なゾンビゲーム『SIREN』は赤い水をゾンビのキーワードにしていたはずですね。

更に言えばゾンビ自身が浸食するだけではありません。
ゾンビ物の中には逃げ込んで籠城する人間は多く仲違いをしたり自己中心的な行動に走ったりするものがあります。またゾンビを駆逐する人間達は本来嫌々やっていたはずなのに、いつの間にか狩猟気分で楽しんでいるような描写が出てくる物もあります。
ロメロなんかは結構そういうのが多い……かな? そこまで多く見ていませんけどw
これはゾンビのスペックが低いと起こりやすい現象で、団結しなくてもやってける余裕や慣れれば案外楽に殺せる事に気付いた結果、人間自身が自ら人間性や社会性を失っていくという皮肉です。

ゾンビはそれ自体が人間の戯画化であると同時に、
あらゆる意味で人間を剥いでしまう存在


なのですね。
さて振り返ってHOTDは、第1話はこれらゾンビ物の基本をよく踏まえていました。
現時点ではクリーチャー&パニック&滅亡ってところでしょうか。
TVアニメだからスプラッタとして見るとそれほどじゃないですし。

で、人間のクズの鑑とも言うべきヒロインですが、実にゾンビ物に相応しい精神状態であるとも言えます。
ただちょっと気になるのは「溜め」が少ないかなという部分。
友達連れでピンチになったら逃げる人も、もう少し溜めをやっておいた方がクズっぷりが効いてくる気がします。またヒロインの彼氏もアッという間にゾンビ化してしまうのでやや残念。彼が居ればもう少しドロドロっぽい展開や先に触れた静かな不気味さ、悲しさや感動といった諸要素を盛り込めたと思うのですが………。
エログロ一本で攻めていくのかという気もしないではないですけれども、そのやり方だとアニメ作品として飽きがきやすい予感もします。
ただ原作の佐藤大輔さんは書き手としては実力のある方。
どこにアニメとしてのオチを持ってくるかも含めて不安もありますが、ここは期待したいところ。