『ヒーローショー』 | リュウセイグン

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君子DQNに近寄らず




結構ウワサになってた『ヒーローショー』が6月映画三連戦の最後でした。
井筒監督作品は初見で、しかもあんま良い印象を持っていなかったんだけどこの作品は面白かった!

どうやら東大阪集団暴行殺人事件 が元ネタになっている模様。


主人公のユウキはお笑い芸人の卵、投げやりな態度でバイトを辞めてしまい、元コンビを組んでいた先輩の紹介でヒーローショーのバイトをすることに。
ところが先輩の彼女がヒーロー側の男にNTRされ、ショーの最中に喧嘩に発展する。
喧嘩に負けた先輩は鬼丸兄弟というハイレベルDQNを引っ提げてヒーロー側を恐喝、ヒーロー側もそれに対抗して【勝浦最強】と言われたDQNを助っ人として呼ぶ。
かくして事態は泥沼化……という作品です。


色んな魅力があるんですが、まず最初は問題の原因になった女の子(声優の卵って設定)。

微妙に平野綾っぽいwwwww

実際は石井あみさんて方らしく写真見るとあんま似てない。
ただ作品の中では妙にブリッコなところとかやや劣化した平野さんみたいな描かれ方をされており、この時点でちょっと笑えました。
この記事なんかは「微妙に平野綾っぽい」 印象が伝わるかな?

続いてDQNの描写、コレがバツグンに上手い。
DQNってのは実に不思議な存在で、ハッキリ言って相当ダメな人々のはずなのに妙に人を惹き付けるような所があります。DQNの野郎がモテるようなところがあるのは何となく御存知でしょう。
男性はといえばやはり何処かしら憧れを抱くような所もあって、最近だと『クローズ』とかもヒットしましたし昔ッからDNQ物(不良物)というのはマガジン辺りでしょっちゅう出てきます。
自信満々な感じと、アウトローな雰囲気、腕っ節や胆力で決まる辺りが男心をくすぐる部分があるのでしょう。

けれども実際はどうかというと、

「ケンカ最強」の暴走族特攻隊長、一般人に負けそうになり仲間が警察に通報、逮捕→「オレに教育はいらない  

「クレイジーなことをやろう」警官に生卵投げた少年ら逮捕

みたいに、掛ける言葉が見付からないくらい残念な人だったりする訳ですね。

つい美化してしまうところのギャップみたいなものがよく描けています。

鬼丸って奴はかなりヤバイっぽく描かれているのに、ヒーロー側の関係者が

「チワワの世話で手が離せないんで勝浦まで来て下さい!」


とか低姿勢で頼むとムカつきながらも行っちゃうとか。


ヒーロー側の助っ人で元自衛官のユウキ(お笑い芸人と同じ名前)が【勝浦最強】で、仕事は配管工ってのも笑える。彼は色々と同情すべき部分もあり、付き合ってる女の人が実はバツイチだったのを知って不機嫌なところにこの騒動が持ち上がる。

鬼丸一行を待ち伏せして鈍器でフルボッコ。
やたら偉そうだった鬼丸が、奇襲と凶器攻撃でのされてしまう情けなさ。
その後始まるヒーロー側の一方的な暴行。
嵩にかかってつけあがるヒーロー連中。
でも元自衛官ユウキなんか虫の居所が悪いので、本来味方であるはずの発端になったヒーロー側のNTR野郎まで殴り始める
この辺りの不条理さも実にDQNっぽい。

暴行はエスカレートする際の「生意気だ」とか「ケジメつける」みたいな精神性、そしていざ暴行をし終えた時に

「どうしよう」

って始めて事態を真剣に考えるのもいい。

DQNの行動が何故自信満々かと言えば、それは何となく自分の思い通りになるという見込みの甘さに加え、先のことを考えない無計画性にあります。ひょっとしたら切れ者もいるかもしれないが、基本的には彼らの自信や意気揚々とした行動は無知と無能と無謀に彩られている結果なのです。

だから暴行を加え続けて相手がヤバイ状態になった結果始めて

「どうしよう」

と考え始める。
これは長野の少年リンチ殺人事件女子高生コンクリート詰め殺人事件 にも共通する要素です。

相手に尋ねて「考えろよ!」と返す方も当然考えていない。
責任を誰かに背負わせようとする見苦しさまである。

そしてどうするか。

隠蔽

被害者を埋めてしまおう。
この短絡的な発想といったらありません。
で、

重機使えるオッサン待ってる間に案外元気な鬼丸に逃げられるとか(笑)
重機のオッサンに強請られるとか(笑)

その間にも「どうする?」「自分で考えろよ!」の応酬。

観てるこっちがいたたまれなくなる残念さ。

挙げ句の果てに折角遺体を処分したにも関わらず、ヒーローショーの車を処分する前にヒーロースーツ着てナンパして選挙カーにロケット花火打ち込んで

事故


あぁ……もうバカとしか言いようがない。
危機感を持って対処していれば少なくとも証拠隠滅までは行ったものを(正確には鬼丸に逃げられた時点でアウト)これもまた無計画性の極み。犯罪モノを結構好んで読む自分としては、こういう描写が凄くリアルで非常に興味深かったのです。


そして、本作のもう一つの顔なんですが。
それは「口だけで夢を語る人間」をこれまた相当シビアに描いているって事です。
主人公のユウキはお笑い芸人の卵。しかしネタすら満足に覚えていない。
家は汚くて牛丼とかカップラーメンばっか喰ってて、パソコン版のラブプラスみたいなのやってる(笑)
バイトも偉そうな口効いてマトモにやらない。親の仕送りに不満を漏らす。
先輩はユウキのギャグセンスを誉める。でも先輩自身のギャグは物凄く面白くない。
ヒーロー側に囲まれた時も怯えるだけで、逃げることも立ち向かうことも、何一つ出来ない。
その場で適当なことを言いつくろう。いざ逃げようとしてもすぐに失敗する。

先輩が埋められてしまった後、自衛官ユウキとの下りで少しばかり役に立つものの、結局逃げようとしたりその場しのぎの嘘を吐いたりすることは同じ。

嘘で検問を切り抜けるシーンは、警察官が芸人ユウキに騙されている訳じゃありません。
余りにも情けないのでバカにされて見過ごされただけ。
その後もう一度自衛官ユウキに捕まって穴埋め現場に連れられた時も、芸人ユウキの独白が自衛官ユウキの心を打った訳じゃない。情けなさ過ぎて相手にすらされなかっただけ。

その場その場で口先だけの適当なことを言い、なんとなく命が大事で、ピンチになったら泣きわめく。
それで結果的にやり過ごせればそれでいいやという人間。

DQNの話は他人事として客観的に笑えるのですが、芸人ユウキは「夢を口先だけで語る人間」「その場しのぎで生きる人間」のカリカチュアとして出てきます。
だから物凄く情けなくて冷笑したいのにどこか他人事じゃない。自分自身に刃が当てられているような感覚があります。

最後に芸人ユウキは実家に戻りますが、性根を入れ替えたって感じには見えません。
これもまた彼にとってはその場しのぎに思えます。

「俺の邪悪なメモ」 さんではEDに掛かるピンクレディーの「SOS」を芸人ユウキの空っぽなままの心の叫びと捉えていらっしゃいます。(この方の記事を読んで観に行ったので全体的な内容もやや引きずられてますね……反省)



個人的には「男はオオカミなのよ~」という部分も皮肉として選んだのかなぁと思う部分はありますけれども、兎も角芸人ユウキという人間は徹頭徹尾変わっていないんですね。
最後が多少地に足着いただけ、それも決定的な物じゃないだろうという。



そんでそのまま終わってしまうところにこの映画の怖さがあるような気がします。