マイマイ新子 | リュウセイグン

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イイハナシ……カナー?




これまた昨年エラく評判の良かった『マイマイ新子と千年の魔法』を観ました。
全体的に凄く良い雰囲気の作品で、教室の汚さとか、ウィスキーボンボンでキマってしまうとことか、そういう部分が素晴らしい。あと千年の都が生えてくるところもね!

だから誉めるだけのが良いような気もするんだけど、どうにもお話的には後半が引っ掛かっちゃうんですね。
タツヨシのオヤジさんが自殺しちゃうところと、ひづる先生の結婚話。
あれは納得しちゃって良いのかなぁ? と。

登場人物が納得するというのもそうなんだけど、それ以上に我々が納得してしまって良いのかという。

タツヨシは真面目な警官と言われていたオヤジさんが女と借金作って自殺しちゃう訳ですよ。
そんで敵討ちに言ったら逆に女が泣き出してヤクザに言われるまま一発ゲンコツ喰らわして叫びながら帰って、そんで反面教師としてオヤジの事を考えようとしてたみたいだけど、そこで笑えるかなぁ。自殺した日の夜に。
よしんば本人が笑えたとしても僕らもそこで「良かったね」と笑ってしまっていいもんなんだろうか。

ひづる先生も同じで、同名の金魚がひづる先生自身の暗喩みたいになってるし、最後の表情も暗いという訳では無かった。かといってそれがハッピーなのかは誰にも分からないと言う。

警官の話もひづる先生の話も『うわさ話』で伝わってきているから、本当はそこまで酷い事じゃなかったのでは……という考察も見かけました。でも推測出来る要素が少ないのにバイアス掛けて「良かったね」と完結させてしまうのも迷うんだよなァ。タツヨシだってひづる先生だってあそこで笑ったから終わりじゃなくて、もっと大変であろう人生が待ってるんだしね。

という感じのモヤモヤを抱えていたら原作の文庫版を見かけたので購入読了。
で、ちょっと分かりました。
この話、構成的な意味では映画が凄く頑張ってます。
千年の魔法にも実体を持たせたし、それぞれのエピソードを上手く加工&絡めて一つの物語に仕立て上げてる。

原作は半分回想エッセイみたいなもんで、ある意味取り留めのない話がつらつらと続いていくだけだから、これは凄く評価出来る。しかしその分色んなエピソードにテーマ性を持たせなきゃいけなくなって、それが難しかったんじゃないかと。

タツヨシの話はまさにその通り。これは原作版だと逆にちょっと怖くなる。
話の流れはほぼ一緒なのだが、タツヨシが女にゲンコツした後、帰りがけに新子が


「ネオンとか綺麗だったね、もう一回カタキウチに行こうか」(取意)


って言うんですよ(タツヨシも帰りは楽しそうだった、とも書かれている)
この辺り、無邪気という恐ろしさを感じます。
当たり前っちゃー当たり前なんですが、この話は徹頭徹尾新子の視点で描かれてるんですね。
だからタツヨシの話も、新子にとっての主観としてのみ語られ彼女の物語として消化されています。
動機こそ差はあれども他の冒険や遊びの並行として『カタキウチ』が語られている。
これはひづる先生の時も同じで、ひづる先生が可哀想なので「カタキウチに行こうか」と考えるも、結局足し算引き算の「引かれた数は何処へ行くのか」という話と繋げて「ひづる先生は保健室からは引かれるけど東京からすれば足される」と考えて自己消化される。

ひづる先生がどうこう、というよりひづる先生を通した新子の思考回路の物語として貫かれているの為に話はここで終わり。実際がどうとかは無い(思いを寄せてた男性らしい人を新子が目撃する部分はある)

これは小説の場合「そういう作品」として出来上がっているので動かしがたい部分があるのですが、それをドラマチックにしかも小説のように主観的にするのが難しい中を再構成したからかなり困難になってしまったものと思われます。

あとお爺さんの結構困った部分が見え隠れしていたのも印象的でした。
地主だったのに自分のやりたいことやって農地解放で土地持ってかれたけど、元小作人が田んぼ潰して店だそうとすると難しい顔をする……とかね。まぁこれは自分の苦い教訓から、とも読めますけど。
アニメじゃ厳めしいけどいい人っぽかったから、それも意外だったなぁ。

こうやってみると、話としてはアニメ版のが頑張っているのですが、原作のがつらつらと書いている分「まぁ実際こんな感じだったろうからツッコむのも野暮かね」という印象になってしまう。
ちょっとアニメは可哀想かもしれない。

でも自然描写とか昭和三十年代の生活感、子供の妙にハイで生き生きした感じ、そして子供の持つ世界観とかはとても気持ちがいいのでそういう意味では評価に値します。
あと一番凄いと思ったのは千年前に於けるナギコちゃんの追儺 !!!
方相氏の人形取りだした時なんか「おぉっ」って言っちゃったよ!
やっぱこういうのをちゃんとやってくれると物語の深みがグッと増す感じがして好きだ。
終盤は個人的にやっぱり引っ掛かっちゃうと思うけど、良いところも沢山ありましたね。