the after years. part 8 | ワールズエンド・ツアー

ワールズエンド・ツアー

田中ビリー、完全自作自演。

完全自作、アンチダウンロード主義の劇場型ブログ。
ロックンロールと放浪の旅、ロマンとリアルの発火点、
マシンガンをぶっ放せ!!

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the sunshine underground / after life

「あんた、そんなところで何やってるんだ?」
  振り返った俺の視線の先、波間から顔を出した岩の上に人の姿を確認できた。
波を打ち、砕けた水が光を乱反射させていた、眩しさに眉をしかめる、声の主は細長い両手を広げ、頼りない足場を楽しんでいるようにさえ見えた。

  俺はその姿を凝視した、細長いシルエット、全身を黒で包んではいるが、声やその肢体の印象から攻撃性をまるで感じなかった、島の人間ではないと判断するには充分だった、そして、その青年には敵意もない。
  ディータを、あるいはディータにしてみれば俺になるのかもしれない、どちらにしてもその無防備さはアンダーグラウンドに生きたころの俺たちを思い起こさせた。もう戻ることのできない少年期ってものなんだろう。センチメンタルだと分かっていて、それでも、俺は「ただ、生きることが全てだった」時代から離れられずいる。

「さあな、じゃあ、お前は何をやってるんだ?」
  少年はそれに応えず、海面から出た岩を踏み場にしながら駆けるようにやって来た。下半身、それも膝から下の筋力とバネ、並大抵のものではない。純粋なニホン人ではないだろう、何気のない動作のひとつだけでも、人種の差は必ず露になる。被服に覆われた下に蠢動する筋肉は隠すことができない。
  島に入りたいんだろう、息ひとつ切らせず彼はそう言った、まだ少年の声だった。同類だ、俺は瞬時にそれが分かった。
  同じ種類の人間の匂いがする、それは俺が世界中の貧民を見てきたからかもしれない、彼から感じるのはどうしようもなく同類であると云うことだ、国籍や人種ではない、アンダーグラウンドに生きた人々、そしてディータ。遺伝子に組み込まれたように色濃い孤独が華奢な肉体から悲しくなるほどに漂っている。

「目的は知らないし聞かないけどさ、とりあえずはあんたもこの島に用事があるわけだ、そうゆうことで間違いないだろ?」
  ああ、短くそう伝える。
「じゃあ、夜になるまでここにいよう、昼間は監視が強いしさ、面倒ごとは少ないほうがいい」
「サンシャイン・アンダーグラウンドは以前とは……お前が知っているかどうか分からないけど……いったい、どうなってるんだ?」
  俺と少年は長く垂れた防風林の葉の下に身を寄せた、互いに身を寄せ、タバコに火をつけ合う。
彼がくわえたそれは見たことのない銘柄だった、いわゆる闇タバコだろう、かつて、サンシャイン・アンダーグラウンドでもそんなものを製造している連中がいた、味も香も申し分ない、だが、それを口にするのは階級制が定着した欧州圏の貴族たちと、彼らと契約を持つギャングたちだ。

「このシマは……ああ、縄張りって意味のシマだけど。たぶん、あんたが思うものとはまるで違うものだと思うよ、俺は……いや、俺たちはさ、ニホンに生まれたんだ、純粋種のニホン人じゃないけどね、けども、やられっ放しってのは我慢できねえからさ」
「負け戦であっても、やるとやらないじゃ違うもんな」
  そうだね、そのとおりだ、少年は満足そうに下を向いたまま笑った。

「俺はジタン、とりあえずその名で通ってる、本名なんて知らないよ、だから、それが俺の名前だ」
 そうか、お前も同じか。俺は……、
「ガゼルだろ、あのサンシャイン・アンダーグラウンドの暴動の首謀者のガゼル。やっぱり、生きてたんだな」
  そうだ、俺は答えた。 ジタン、もう一人生きてるんだ、所在は分からないし連絡もついていない、でもな、俺の友人もやはりアンダーグラウンドに向かっている。
  ディータ、お前も島へ向かってるんだろう、俺たちはまた、あの地で再会するんだ。

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