〓ナンせねえ、言語に関するあらゆるサイトをピックアップしてあったんで、新しいパソちゃんは、ひじょうに不便なんでござんす。古いパソちゃんはディスプレイが、何もディスプレイしないので、「お気に入り」 とか、「ワープロの辞書」 とか、そういったものも、よう引っ越しせんのです。さてね。
【 「スーパー」 ってナンだ? 】
〓「スーパー」 とか 「スーパーマーケット」 なんてコトバのせいで、
「スーパー」 = 「すげえ、超」
みたいな感じになってますけど、もとのもとはと言えば、
super [ ' スペル ] 古典ラテン語
[ 副詞 ] 上に(向かって)、上から、そのうえ。
[ 前置詞 ] 上に、上へ、越えて、に際して、に優って。
なんですね。
〓「インド=ヨーロッパ祖語」 には、もともと、“前置詞” なんてものはありませんでした。格の数が減るとともに、
「場所を示す副詞」 + 「名詞の斜格」
※“斜格” (しゃかく) は 「主格」 以外の格。
で、「減ってしまった格の埋め合わせをしたのが始まり」 なんです。ですから、
“前置詞” は “副詞の分家”
みたいなもんなんです。
〓ラテン語でも super- は接頭辞として用いられますが、superman 的な 「超~」 という意味では、ほとんど用いられません。たいていは動詞の接頭辞として、
「上に~する、上を~する、上へ~する」
「越えて~する、~して越す」
「過度に~する、~し過ぎる」
などの意味を持たせます。
superimpono [ スペリン ' ポーノー ] 上に置く、重ねる
英語 superimpose [ , スゥパリン ' ポウズ ] スーパーインポーズ
supervīvō [ スペル ' ウィーウォー ] (~よりも)生き長らえる、生き延びる
英語 survive [ サァ ' ヴァイヴ ] 生き残る
superstitiō [ スペルス ' ティティオー ] 神への過度の恐れ、誓約
英語 superstition [ , スゥパァス ' ティッシャン ] 迷信
〓英語の “survive” のような単語は、フランス語で p が落ちて、super が sur [ スュル ] に縮まってのちに英語に入ったものです。ですので、
surréalisme [ スュふへア ' りスム ] シュルレアリスム。フランス語
というのは、super-realism 「スーパーリアリズム」 ということになってしまいますね。これから説明しますけど、ラテン語の super とギリシャ語の hyper 「ハイパー」 は、同源・同義です。ですから、
hyperrealism [ ' ハイパァ , リアりズム ] ハイパーリアリズム。英語
と surrealisme は、本来なら 「同じもの」 であるべきなんですね。
〓ラテン語の super は、印欧祖語 (いんおうそご) の
*uper, *super [ ウペル、スペル ] 上に
にさかのぼります。ギリシャ語・ラテン語では *super であらわれ、ゲルマン語など、その他の言語では *s- なしの *uper であらわれます。
〓これは、英語の upper に似ていますが、そうではなくて、
over 英語
über [ ' ユーバァ ] ドイツ語
に相当します。
〓ギリシャ語という言語は、古典語の段階で、すでに、語頭の s- が h- に転訛する傾向がありました。たとえば、
hexagon [ ' ヘクサ , ゴン ] 六角形。英語
はギリシャ語の
ἑ ξ ά γωνον hexágōnon [ ヘク ' サゴーノン ] 六角形。ギリシャ語
に由来します。語頭の ἕξ héx [ ヘクス ] が数詞の “6” で、英語の six、ラテン語の sex に当たります。
〓日本語でも、「それでは」 の発音がザツになると 「ほいじゃ」 に変化しますが、同じことですね。
〓そんなわけで、ラテン語の super は、ギリシャ語では ὑπέρ hypér [ ヒュ ' ペル ] となります。切り花を買うのが好きなヒトは、
ヒペリカム hyperīcum [ ヒュペ ' リークム ] ラテン語
という、夏から 「赤い実」 になって売られている木の仲間を知っていると思います。あれは、ギリシャ語では、
ὑ περικ ό ν hyperikón [ ヒュペリ ' コン ]
と言いました。アレコレ説明するより、英単語に置き換えてみましょう。
hyper icon 「ハイパー・イコン」
〓これは、「ひときわ背の高い姿」 という意味です。野生のヒペリカムは、かなり背が高くなり、荒れ野で、その姿が目立ったことをいうそうです。
〓そんなわけで、ギリシャ語の ὑπέρ hypér [ ヒュ ' ペル ]、英語に入って、
hyper- [ ハイパァ ]
となりました。英語では、super- が 「超」 だとすると、hyper- は 「極」 という感じです。hypermarket 「ハイパーマーケット」 というと、デパート並の店舗と、大駐車場を併せ持った 「極大スーパー」 を指します。
【 「インフェルノ」 の由来 】
〓アッシが子どものころ、超高層ビルが火災になったら、どうなるか、を映像化した、
“The Towering Inferno”
『タワーリング・インフェルノ』 (1974)
という映画が流行りました。超高層ビルの設計屋が 「ポール・ニューマン」、炎に包まれた 138階建てのビル火災に挑む消防隊の隊長が 「スティーヴ・マックイーン」。テーマ・ソングがモーリン・マクガヴァンで、当時、流行りましたよ。
〓 towering inferno というのは “そそり立つ地獄” という意味です。当時、アッシは、
「地獄」 は “hell” じゃないの?
といぶかった覚えがあります。 “hell” が、ゲルマン語に由来する英語本来の 「地獄」 という単語なのに対して、 “inferno” [ イン ' ファァノウ ] というのは、イタリア語からの借用語で 「地獄のような苦しみ」 あるいは 「ひどい火災や破壊の現場」 などを言い表すときの隠喩として使う、少々、文語的な単語です。
〓原語がイタリア語ですから、当然、ラテン語起源です。
infernus [ イーン ' フェルヌス ] 地獄。ラテン語
〓これは、同形の形容詞の名詞的用法です。
infernus, -a, -um [ イーン ' フェルヌス、~ナ、~ヌム ] 下にある、地下の
の男性形ですね。infernus じたいは、
inferus [ ' イーンフェルス ] 下方の
という形容詞に -(i)nus が付いたもので、「~に属する」 という意味を持ちます。
〓そして、この inferus 「イーンフェルス」 という形容詞からつくられた副詞が、
īnfrā [ ' イーンフラー ] 下方に、下部に、下界に、地下に。ラテン語
※ f と r のあいだの e が落ちている。
です。もちろん、この副詞は、前置詞としても用いられます。
〓ラテン語の infra 「イーンフラー」 は、接頭辞としての機能を持ちませんでしたが、現代ヨーロッパ諸語では、super- に対する接頭辞として採用されました。それゆえ、
infrastructure [ ' インフラスト ' ラクチャァ ] インフラストラクチャー
という単語が成立するわけです。日本じゃ、「インフラ、インフラ」 なんて言ってますけど、もうちょっと深く掘ると 「地獄」 に突き当たるかもしれないんですね。
〓ラテン語には、super という副詞に対して、これに、さらに副詞を派生する -ā を付した、
suprā [ ' スプラー ]
[ 副詞 ] 上に、越えて、さらに。
[ 前置詞 ] 上に、越えて、過ぎて、向こう側に。
という super によく似た単語がありました。
〓実は、ラテン語では、
infra —— infernus 「下に」——「下の」
super —— supernus 「上に」——「上の」
という 「副詞」——「形容詞」 の対がありました。しかし、supernus 「スペルヌス」 というのは言いにくかったらしく、俗ラテン語では、 suprā を基にして、
suprānus, -a, -um [ スプ ' ラーヌス、~ナ、~ヌム ] 上の
という形容詞を使用していました。対格形は supranu [ スプ ' ラーヌゥ ] で、アクセントのない前後の u は、長音がゆるんで o となります。それゆえ、現代イタリア語で、
soprano, -a [ ソプ ' ラーノ、~ナ ] [ 形容詞 ] 上の。イタリア語
となるわけです。先日、「ソプラノ」 の語源を詳述せず、少しわかりにくかったと思いますが、こういう由来があったんです。
〓また、ラテン語には、superus [ ' スペルス ] 「上にある、天の」 という形容詞もありました。そして、これの最上級が、
suprēmus [ スプ ' レームス ] もっとも高い、最後の、極度の。ラテン語
で、そのフランス語形が suprême [ スュプ ' へンム ] 「最上の」 で、それが英語に入ると、
supreme [ スプ ' リーム ] 最高の
という形容詞になります。“ダイアナ・ロスとシュープリームス” の 「シュープリーム」 です。どういうわけか 「シュープリームス」 でしたね。アタシなんか 「シュークリームス」 って言ってた。
〓上等な牛肉の部位で、
sirloin [ ' サァろイン ] サーロイン
ってえのがありますね。 「あんまりウマイので sir の称号をもらった」 ってえ 「ウソチク」 が昔からあります。
〓もとは古フランス語で、
*surloigne [ スュルろ ' ワーニュ ] 「腰の上」。古フランス語
と言ったんです。surrealisme 「シュルレアリスム」 の sur- と同じもので、super- の p が落ちたものです。だから、
sirloin は Sir Loin ではなく、Super Loin のこと
なんですね。
〓英語の loins [ ' ろインズ ] 「腰」 —— “腰” には左右があるので、通例、複数形。hips と同類の複数形。loins は婉曲語として “性器” を指すこともある —— は、もともと、ラテン語の
lumbus [ ' るンブス ] 腰。ラテン語
にさかのぼります。
〓この語の形容詞形が lumbeus [ ' るンベウス ] 「腰の」 で、さらに、
lumbea (cārō) [ ' るンベア ( ' カーロー) ] 畜獣の腰肉。俗ラテン語
となります。
〓この lumbea は、古フランス語に次のような語形であらわれます。
loigne [ ' ろイニュ ] 腰肉、人間の腰
luine [ ' るイヌ ] 同上
longe [ ' ろんヂュ ] 同上
〓このウチ、ノルマン人とともにブリテン島に渡った単語が loigne 「ロイニュ」 で、“獣の腰肉”、“人間の腰” の両義を英語に残しました。
〓しかし、フランス語に残ったのは longe [ ' ろーんジュ ] 「子牛の背肉の片身」 だけでした。「腰」 を意味する単語には、古典ラテン語の
rēn [ ' レーン ] (1)腎臓。(2)腰部。
が選ばれました。現代フランス語でも、やはり、「腎臓」 と 「腰」 の意味があり、「腰」 の場合は “複数形” で区別します。
rein [ ラん ] 腎臓
reins [ ラん ] 腰
〓ハナシは戻りますけれども、ラテン語の infer- は、印欧祖語の
*n。dher- [ ヌデル ]
※ n。 は、音節を成す [ n ]。
にさかのぼります。ラテン語という言語はヘンテコなところがあって、印欧祖語の
bh-, dh-, gʷh- [ ブ、ドゥ、グゥ ] という有声有気音
に対して、なぜか、f があらわれます。つまり、子音の音色ではなく、むしろ、“帯気” に由来する f が残ってしまった。
〓 *n。dher- は、ラテン語では、infer- となりましたが、ゲルマン語では、
under 英語
unter [ ' ウンタァ ] ドイツ語
となっています。
〓まあ、言ってみれば、infrastructure というのは、understracture でもよかったんでしょうね。