☆童話:第一話
【②】
夜明け前のことです。
夢か現か、彼は星空に浮かぶ真っ白なベットに寝そべり、星空の河をユラユラと気持ち良さそうに泳いでいました。
『うわー、なんて綺麗な景色だろう!空の上ってこんなに綺麗なんだ!』
辺り1面が宝石のように輝く夜空に心を奪われ、そして自分もその宝石の1つとなったような気持ちになりました。
『こんな綺麗な星空、今まで見たことないや。そうだ、みんなと一緒に!・・・あれ?みんなって・・・僕、誰もいないんだった・・・』
彼にはこの美しき世界を、目の前に広がる天体の絵画を共有することができる人が一人もいませんでした。
『えへへ・・・綺麗な星空やこの嬉しい気持ちを伝えたいって想ったのに・・・想えば想うほど、悲しくなっちゃうなんて・・・。笑っちゃうよね・・・あはは。なんで僕、悲しいのに笑っちゃうんだろう。変なの。』
彼の頬を伝う涙はポツリ、ポツリと真っ白な綿のなかに染み込んで、スッと一瞬の瞬きだけを残して消えていってしまいました。
(君は僕の話を聞いてくれるかい?)そう思いながら、本当は誰かに子供のように甘えてしまいたい気持ちをグッとこらえて、悲しい笑みを浮かべながら優しくて温かい綿の中に沈んでいきました。
朝の陽射しが彼の部屋を照らしました。その光を浴びて彼はハッと目覚めました。
朝の陽射しが照らす彼の真っ白なキャンパスの上を流れる涙は、こぼれ落ちる前に綺麗な光の泡となって消えていってしまいました。
そして、昨日のことを思い出した彼は恐る恐る鏡を覗き込むと
『はは、夢じゃなかった!!!これだ!これ、これー!アハハハハ!』
彼は嬉しくて嬉しくて、これからのことを思うと自然と笑みがこぼれます。そして
『そうだ!みんなの前でまたダンスをしよう!そして、そのあと僕だったんだよってこの仮面をとるんだ!これでいっぱい友達ができるぞ!ダラララララーン、それっ!』
彼は仮面をはずそうとその手を顔と仮面の境目にかけました。するとどうでしょう!昨日は確かにあった仮面のふちがなくなって顔と1つになっているではありませんか。
胸を締めつける悪寒を感じながらも、彼はきっとこれは仮面じゃなくて化粧だったんだな!っと自分の脳裏をユラユラと浮かぶ黒い煙を振り払うように、彼は陽気に振る舞い顔を洗いにいきました。
パシャパシャと顔を洗っては鏡を覗き、又パシャパシャと洗っては鏡を覗きます。一体どれくらい洗っていたのでしょう。
パシャパシャと彼の顔を濡らす水は、いつしか彼の涙に変わり、笑っているのか泣いているのかわからないくらいグシュグシュになった彼の顔は、もはや彼の面影ひとつなくなってしまっていました。
嫌いだった自分をすらうまく思い出すことができなくなってしまい、彼は力なくその場にへたりこんでしまいました。
『僕は・・・・、どこにいってしまったのだろう。僕じゃなくなっちゃう・・・嫌だ・・・いらない・・・いらないよ!こんなのいらないよ!!・・・もう、明日なんていらないよ・・・。』
小さな小さな部屋のなか、彼は一人うずくまりピクリとも動こうとしませんでした。そして、太陽は沈み、また夜が訪れました。
それは、昨日よりも綺麗な見事な満月の夜でした。
窓の隙間からさす月明かりはうずくまる彼をさす明かり状に照らし出し、真っ暗な部屋にポツンと浮かびあがらせました。
『僕は、北極星なんだよ。どこにもいけない。誰も僕と話してくれない。それどころか、僕はどこにもいなくなってしまった。だから、君とは踊らない。もう君の光を受け止められる心は僕にはないもの』
そう呟くと唯一の窓も閉ざしてしまったのです。閉ざされた部屋のなか、前も後ろもわからない。1人ぼっちの少年の心は泥のように溶けて、そして流されてしまいました。
闇に溶け込み、さまよい続ける。その永遠とも思われる時の中で『コン』という音を聞いたような気がしました。
「コン、コン」
次は続けて2回。確かに『コン』という音が聞こえました。
そこで、音のする方へ恐る恐る近づいてみるとそこには、真っ白なワンピースをきた少女が立っていたのです。
~続く~