ターニング 第2章 | ゆきのブログ

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第二章


武と走り始めて、、
と言うよりちゃんと?バイクに乗り出したのは高校を卒業して中型二輪の免許を取得してから。
そう、僕らはまだ半年と経たない初心者なのだが、教習場に行く前からバイクの乗り方は知っていた。お互い同学年。専攻科目は違えど、同じ高校に通い、授業が終わると同じ溜まり場に集まる親友である。卒業後もよく遊び、バイク雑誌やバイクのアニメで感化され、もはや主人公になった気分で峠を攻め、一晩で何本も走り抜いていた。

この峠に関しては、熟知している。幾つ目のカーブの入り口に補修痕があるだとか、砂利が浮いているだとか、雨降り後には湧き水が流れている場所があるとか、ここは何速で何千回転とか、峠のコンディションは全て頭の中に入っていた。走るのが全て。当時、給料の半分をバイクの改造費やメンテナンス、燃料代に使い、欲しい部品があるからまた働きパーツを買いに行く。ただそうして生きているだけであった。

バイクに乗れば誰にも負けたくないという気持ちや『あいつは上手い。』と人前で他人を認める事で自分はそれが分かる男だと周りのやつに見せたりした時期もあった。

実際、素人レベル。
上手い。= 無茶をする。である。

『武は上手いバイク乗りだ。
でもこのドラマの主人公は僕だから!』だから『転けない』『事故らない』というなんの根拠もない主人公は終わらないという一種の『保険』のようなものが働き、各コーナー手前での『安全装置』という名のブレーキングを鈍らせる。

この峠、越水峠といい、この日のように北から攻めた場合、登りは最初高速コーナーが続き途中細かいコーナーの組み合わせ。そして長めのストレート。頂上は長いトンネル。トンネル内は水平ではなく、少し山なりなので、侵入した時は出口は見えない。そしてトンネルの出口からいきなりの左カーブ。しかも下り。ゆえにトンネルを抜けると言うより、目の前に側壁が迫ってくるといった感じだ。そこから各コーナーの出口が次のコーナーの入り口になるくらいタイトな下りが続き最後は200メートル程の直線。道幅は広くはないのでトラックなどが先のいるとまたたく間に追いつき、コーナリング取りが出来ない時も多々あるが、当時はこれに勝る身近な峠はなかった。

幾つコーナーをクリアしただろう。まだ武の猛追を振り切れずにいる。それどころか武は前に出る機会を狙っているのかもしれない。

実際焦った。

あんなに練習してチューニングしても得意の登りで差をつけることが出来ない。

こっちはすでに限界を超えている。

抜かれるくらいなら先に何らかの理由をつけてコースアウトしてしまおうか。雑念が先行し全くライン取り、走りに集中していない自分がいる。案の定、コーナーからの立ち上がり、ギアを上げるタイミングを早まってしまい失速。
武は僕が何かミスをしたら、すかさず割り込もうと真後ろに付けて狙っていたのであろう、右コーナー手前でインサイドを奪われてしまった。

今までこんなにアッサリと先頭を明け渡したことはなかった。まるで打ち合わせをしていたかのように前後が入れ替わる。
そして頂上近くの長めの登りストレートまで再度前に出してもらえる事は無かった訳だが、自分が追う立場になり少し冷静さを取り戻し、武のラインをトレースする。

『なんや。武も必死で逃げてるけど、全然やん。』

夜の峠バトルという特性上、登りにしろ、下りにしろ先頭を走るのはストレスがかかるものである。23時も回ると交通量も少なくなる上、対向車が目視出来なくても、ヘッドライトでお互いの存在をアピールする事が出来き、走りやすいのだが逆に路面状況の確認が困難で、コーナーを抜けるといきなり夜行性の動物が居たり、そういったのが不意に飛び出してきたり、コーナーまでの距離感が掴みづらいなど不安材料も多々ある。ゆえに峠バトルの先頭を走るということが幾つかの『安全性』というものをきっぱり捨てないとスロットルを回す事が出来ない。後続車はそれに付いて行けばいい。そして得意なコーナーや、先頭車両のミスした時に一気に抜く。実際自分がさっきやられた事を今度はこっちが最高かつ効果的なシュチュエーションでやり返せば言い訳だ。


この登りストレート、僕のバイクのギア比が合っているのか、バイクの高性能と合間って、確実に武を抜かすことは可能である。でも今はあえてバイクを半分だけ重ねて抜かないでおこう。武の視界に僕の前輪が見え隠れするくらいの後ろにつけ、彼にプレシャーをかけてミスを誘ってやろう。そして目の前に見えてきた頂上のやや山なりながらフラットな長いトンネルで一気に抜き去り、数十メートル差をつけおきたい。下りに技量のある武ならゴールするまでには追いつかれるだろうが先頭に立ったまま下りに入ればブレーキングを効率良くこなし、抜かれないライン取りを算段すればこの勝負、勝てる。武に勝てる。

自分の描いた理屈どうりに武のバイクにプレシャーをかけ続けながら頂上。一気に我慢していたフラストレーションが爆発するかのようにスロットルを回す。バイクは呼応し加速。武もフルスロットルであろう。が、パワーは僕のバイクの方が1枚上。右側に並ぶ形で運命のトンネルに突入する。

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